共有名義だから委任状はいらないって本当?|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第35話】
このように、所有財産が共有財産であれば、もしもに備えた、財産管理のための継続委任状(Continuing Power of Attorney for Property)は不要だと考える方が少なくありません。しかし、実際には、共有財産であることで委任状が不要な場面は、非常に限られているのです。
ジョイントアカウントと委任状
夫婦間や親子間でのジョイントアカウントは、口座の名義人のどちらかでも小切手にサインができ、口座の引き出しも自由可能で便利です。そのため、口座の名義人の一人に財産管理能力がなくなっても、判断能力のある方の共有名義人が引き続き、委任状がなくても口座を利用し続けることができます。
しかし、近年、高齢者の経済的虐待の一つの形態として、成人した子供や親族、友人などのジョイントアカウントホルダーによる、預金の使い込みや不正使用が問題になっています。そのため、銀行もこのようなリスクに敏感になっており、新たに子供や友人などの名前を口座の名義に加える場合、どのような関係・理由でジョイントアカウントにするのかなど、意図を確認する書類を提出するように求められることも増えています。
共有名義の不動産の権利
生存受取権付の含有(Joint Tenancy With Right of Survivorship)と呼ばれるタイプの、共有名義の不動産は、所有者が生きている間は、名義人全員の署名がなければ、共有不動産を担保にモーゲージを組むことも、売却することもできません。
そのため、共有名義人の一人が財産管理能力を失い、自宅を売却しなければならなくなった場合、財産管理能力がない名義人の財産代理人(Attorney for Property)が、代わりに必要書類にサインをしなければなりません。
もし、委任状を作成せずに財産管理能力がなくなると、オンタリオ州の公的管財人事務所(Office of Public Guardian and Trustee – PGT)が、法定財産後見人として任命され、不動産の権利も管理下に置かれます。
政府機関への対応
CRAやCPPなどに、ご本人以外の方が政府機関へ問い合わせると、財産管理のための委任状の提出をまず求められます。そして、書面で問い合わせた本人が正当な代理人であることを確認後、代理人に限り、委任者の情報を開示することになります。
このような政府機関への問い合わせは、夫婦であろうと、親子であろうと、共有名義の財産を所有していようと、委任状がなければ対応してもらえません。
訴訟対応
不慮の事故により、体が不自由になり、財産管理能力を喪失する結果となった場合、事故に関わる訴訟の参加や、和解金の受領などの対応には、委任状で任命された財産代理人が行うことになります。
もし、委任状がない場合は、PGTがご本人に代わって、訴訟後見人(Litigation Guardian)となるか、もしくは、ご家族が裁判所により訴訟後見人の任命を受ける必要があります。
債務の対応
モーゲージやラインオブクレジットなどをはじめ、債務を負ったご本人に財産能力がなくなってしまうと、銀行などの債権者とのやり取りにも、委任状が必要になります。
安心して暮らすために
このように、日常の多くの場面で、財産管理のための委任状がないと、不便が生じてしまいます。ジョイント財産一本に頼らず、きちんと財産管理のための委任状をいざという時のために用意しておきましょう。
日本にはないタイプの法律文書を具体例をもとに見ていきます。
生前の「もしも」の場面で必要になる、「委任状」(Power of Attorney)についてお話します。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。また、本コラムの情報は、2022年5月時点での情報に基づいており、今後法改正により内容が変更する可能性があることをご理解ください。