猫の手も借りたい?! ~多忙な遺言執行人という仕事|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第37話】
カナダで作成する遺言書には、遺言執行人の任命が必要不可欠です。それは、遺言者亡き後に、遺言者と同じ法的権限を持って、残された財産を扱うことができる唯一の存在だからです。
遺言執行人(Executor)の仕事は、葬儀の手配に始まり、故人の税金の支払い、債務の清算、遺産の回収、そして、相続人への遺産分配に至るまで、長期的かつ多岐にわたり、時間、気力、労力を要します。そこで今月は、遺言執行人の仕事の負担を軽減するためのサポートについてお話しします。
2人以上の遺言執行人を共同任命 (Co-Executors)
遺言書を作成する際に、2人以上の遺言執行人を共同任命すると、遺産管理業務にチームで取り組み、また作業を分担できるため、遺言執行人の方たちはお互いに助かるでことしょう。ただし、2名以上を共同任命する際には、遺言執行人同士が仲が良いことが大切です。
ちなみに、法的には共同任命する遺言執行人の数に上限はありませんが、実際には、4人以上になると意見をまとめるのも大変になるため、多くても3人までがチームとして動きやすいでしょう。
信託銀行(Trust Company)を利用
カナダの大手銀行には、信託部門があり、遺言執行人や財産代理人としての任命を引き受けることができます。信託銀行を利用するには、手数料はかかりますが、プロの手を借り、多くの作業を任せられることが魅力です。信託銀行を利用するには、(A)遺言執行人として遺言書の中で任命する場合と、(B)遺言執行人の代行者(Agent)として契約を結ぶ場合(Agency Agreement)と、主に二つあります。
遺言執行人として任命する場合は、信託銀行を単独、または、ご家族などの個人と一緒に共同任命することができます。例えば、お子さんが遠方に住んでいて、頻繁に現地入りできない場合や、仕事・子育てで忙しいなどの事情がある場合、信託銀行が遺産管理業務を担います。
信託銀行との代行者契約では、遺言書の中で遺言執行人に任命された個人が、信託銀行に事務作業を代行してもらえるため、忙しい遺言執行人には助かるサービスといえます。
法律事務所に委託(Law Firms)
通常、遺言書のプロベイト手続きや、故人が残した不動産の登記移転や売却などをはじめ、遺産管理の過程に必要な法律業務を弁護士が扱います。このような法的支援に加え、遺言執行人は、法律事務所に金融機関や相続人とのやり取りをはじめ、遺産の回収などの事務作業を委託することもできます。このような遺産管理業務の支援には、遺言執行人が法律事務所と委任契約(Retainer Agreement)を結ぶことになります。
民間の遺産管理業務支援サービス (Estate Adminis-tration/Consulting Services)
その他、民間の遺産管理サービスを利用することもできます。一般的に、信託銀行を利用するには、遺産額が一定額の条件を満たさなければならないため、信託銀行にお願いできない額の遺産の管理にお手伝いが必要な場合、このようなサービスを上手に利用するのもよいでしょう。近年、多忙な遺言執行人を支援する、民間の遺産管理サービスを提供する企業や、コンサルタントが増えてきています。また、オンライン上で、遺産管理業務を支援する有料のプログラムもあります。
心強い遺言執行人支援サービスの存在
遺言執行人の業務を支援してくれるサービスが存在することを知っておけば、託す側の遺言者も、受ける側の遺言執行人も、心強いでことしょう。また、プロの手を借りるか否かに関わらず、遺言執行人に任命された方は、遺言者が実際に亡くなり、その任命を受ける際には、自身の役割についての説明を専門の弁護士から受けておきましょう。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。また、本コラムの情報は、2022年7月時点での情報に基づいており、今後法改正により内容が変更する可能性があることをご理解ください。