『遠足プロジェクト』 アートで直接繋がるカナダと被災地
現在、オンタリオ州ケンブリッジにあるケンブリッジギャラリー、デザインアットリバーサイド(Cambridge Galleries Design at Riverside)にて、遠足プロジェクト(英語名:Field Trip Project)展が開催されている(4月13日まで)。日本とカナダから総勢70組のアーティスト達による「ランドセルアート」の展覧会であるこのプロジェクトは、東日本大震災復興支援として始まった日加文化国際交流事業である。2012年より日本国内18カ所を巡回し、ケンブリッジを皮切りに、今年からカナダ国内を巡回する。
昨年は、プロジェクトを通じて総勢12名のカナディアンアーティスト達が日本を訪れ、交流を深めた。彼らの目に、今の日本はどのように映ったのだろうか。
(文:武谷大介、遠足プロジェクトキュレーター)
カナダから日本へ遠足
総勢12名のカナディアン達(アレックス・マクロード、クリストル・タブジャラ、デービッド・トラトリマス、マイケル・トーク、デレック・リディントン、マーク・ニュイ、マグダ・ウォジトラ、カミーラ・シング、コリー・ジャクソン、ダイアン・マリー、エメリー・チャンガー、ジョン・ササキの12名)は、3期のグループに分かれて来日した。
グループ1(アレックス、クリストル、デービッド、マイケル)は、3月に開催された六本木アートナイトに参加した後に、東京都内と石巻でのイベントViewing Northに参加した。3月23、24日に開催された六本木アートナイトは、東京でも最大級のアートイベントの一つで、トロントのニュイブロンシュと同じく一晩中のお祭りである。参加アーティストは、オープニングでレッドカーペットを歩いて、数千人の観客の前に登場。カナディアン達はかなり盛り上がった様子。作品は、僕とカナディアン4人のコラボ作品で、グランドハイアット東京、カナダ大使館、六本木ヒルズのサポートによって実現した。その後、都内のクリエーティブハブ131にて、アーティストトークを開催。同じく石巻市内の石巻2.0のIRORIにてトークショーを開催。マイケルは、女川出身のアーティストD-BONSとのコラボアート制作、クリストルは町内の「きぼうのかね商店街」の人たちの似顔絵作品を制作した。
アレックスとクリストルからのメッセージ
日本へは3月末から10日間。あっという間だった。最初は大介の故郷の神奈川県葉山町でゆっくりして、それからグラマラスな「六本木アートナイト」参加のため東京に行ったんだ。アートナイトは、一晩だけのアートのでっかいお祭り、、、レッドカーペットを歩いたから歴史に残るセレブリティーになったような気分だったよ。その後に行った被災地、女川と石巻に行くのは正直心の準備ができていなかった。新幹線で仙台まで行って、そこから車で1時間ほどいったら、視界に被災地の景色がいきなり広がって来た。石巻で町一帯が全て津波で飲み込まれてしまった場所に案内してもらったんだけど、残された廃墟の建物や学校、散らばっている家庭内の粉々になった皿や備品や個人的な持ち物の数々、、、僕たちのトロントでの生活と重なって見えてきた。あまりの壮絶さに僕たちは、お互いに全く言葉をかわす事はなかった。僕たちは大地の怒りの前には、なす術がないのだと感じた。
遠足プロジェクトへの作品参加を決めたときに、日本の被災地がどういった状況なのかは、把握していたつもりだった。プロジェクト(の展覧会の巡回)を通じて、被災地への支援がまだまだ必要だって事を多くの人たちに知ってもらわなくちゃいけない。でも、まだその時には、自分たちが実際に被災地へ行って、地元の人たちの住む仮設住宅や補修されていく町で、コミュニケーションを取って激励するなんて予想だにしていなかったんだ。月日が経過してメディアが取り上げなくなったって、それは復興が完了してみんな大丈夫ってことでは全くないんだ。実際には、今でも多くのボランティアや復興作業をしている沢山の人たちがいて、彼らは自分たちの事を後回しにしてでもやっているんだよ。俺たちは、今回の日本へのトリップを決して忘れる事はないだろう。現実の世界とアートの関わりについての視野が広がった。。。アートって華やかさや非現実的な部分が多いかと思われがちだけど、大介や千恵のような人たちの想いがアートを通じて伝えられる時、世界はきっと変わっていくんだ。
グループ2(ジョン、エメリー、ダイアン)は、大阪府立江之子島芸術文化創造センターでの展覧会とシンポジウムに参加。シンポジウムと平行して、市内此花地区でのまち歩き、作品制作も試みた。その後、瀬戸内芸術祭の視察のため直島、男木島などを周遊し、徳島県神山町の神山アーティストインレジデンス15周年記念のこども向けワークショップ「神山いいね」ワークショップを開催。また、愛知トリエンナーレの視察、宮城県女川町での「きぼうのかね美術館」に参加した。 「きぼうのかね美術館」では、3人ともオリジナルのワークショップを開催した(特にジョンのホタテ貝マジックショーは大人気だった。)。
ジョンササキからのメッセージ
ぼくは、遠足プロジェクトに参加して、日本へ行く事が出来て本当に良かった。滞在先で出会った素敵な人たち、いろいろなクリエーティブなコミュニティーに関わって勉強になったよ。日本へ行くのは実はずっと子どもの頃からの夢だったんだ。ちえちゃんとだいすけのナイスなガイドにも感謝しているよ。僕の家族は日本からの移民でもあるので、日本の文化との関わりについて深く考えさせられた。そして、それは滞在中に制作した作品にも反映されてるように思う。また近いうちに日本に行きたいな、、、それでカナダとの橋渡しになれたらいいなって思う。
グループ3(デレック、マグダ、マーク、コリー、カミーラ、ジョン)は、女川アートシーズン参加のため町内に滞在し、女川の方達と共同制作を行った。デレックは、町内の獅子舞と太鼓のグループの練習に数週間参加し、2頭獅子舞のコスチュームを沿岸部の泥を使用して制作。更地となっている町の中心部で町の人たちと一緒にパフォーマンスした。マークとマグダは、仮設住宅でワークショップをする傍ら、女川の町の風景を取り入れたビデオ作品を制作。コリーは、町中で見つけたオブジェを水彩画作品に。カミーラは、町内の空手教室に通い、空手の型を参考にしたチアリーディングの振り付けを考案、復興に向けて働く人たちを応援するチアリーディングを 町内各所で行った。
ダイアン・マリーによる女川へ捧げる詩
Onagawa / TIME
Tattooed
TIME across weathered veins
Practiced group behavior and
Shame as proof of best intentions
Bottom-up a gesture
Down a late-night saki
Take a dead man’s watch
Walking Onagawa.Washed
Water as rock, paper, scissors
As in the beginning
As if time begins
Above and below ghost fish swim
Feeding reflections, casting shadows
Wave after wave evidence settles
Walking Onagawa.Witnessed
Salt foundations
A family’s kitchen floor
A garden walkway
A village sheared to sea level
Stories that desire telling
Before times lies them down
Buried, layered, sediment
Very inch a life folded.Dyan Marie, Japan Field Trip, 2013
東日本大震災より3周年。震災当初から支援を惜しまなかったカナダ。そのカナダへの感謝の気持ちを忘れてはいけないだろう。被災地での復興への継続した支援とアートを通じたカナダ、日本両国の交流の動きが活性化していく事を願ってやまない。(たけやだいすけ:アーティスト)