トロント国際映画祭『First Love(原題「初恋」)』上映!三池崇史監督 インタビュー|カナダを訪れた著名人
トロント国際映画祭にて9月13~15日の3日間、大きな盛り上がりを見せた窪田正孝主演の映画『First Love(原題『初恋』)』。上映作品に大抜擢されて本作で4度目を迎える三池崇史監督に、本映画祭や作品に対する熱い想いから、約20年前にトロント国際映画祭の初出場を決めた裏側、本映画祭に対する特別な思い、主演俳優・窪田正孝さんとの知られざるエピソードに至るまで、幅広いお話を伺った。
〝劇場の雰囲気によってその映画が最終的な力を得る〟
―三池監督が初めて国際映画祭に参加されたのは、『極道戦国志 不動』が選出された1997年、その後『殺し屋1』や『極道大戦争』が上映され、監督の名が世界中に広く知れ渡るきっかけとなったのがこのトロント映画祭だと思います。そんなトロント国際映画祭に対する監督の思いを教えてください。
本来は映画にする予定のなかったビデオを編集したものを見て、当時のプロデューサーの「これは映画にしたい!」という言葉がきっかけで劇場公開用のフィルムを作ろうと決めました。もともとは日本の地方の小さいメーカーを通じて、一部のレンタル屋さんに並ぶというものだったのですが、その間に思いがけずトロント国際映画祭が入ったという感じです。それが最初に上映された『極道戦国志 不動』でした。
当時国際映画祭とは全く関係のない世界にいましたが、映画祭を通じて世界中の人に楽しんでもらいたい、そしてほかの判断に繋がればという思いでした。1997年のトロント国際映画祭での初めての上映で、観客の熱狂ぶりに非常に不思議なものを感じましたね。その観客の反応を期待して作ったわけではなかったのですが。完成後、映画を観るチャンスは何度もありますが、国際映画祭という環境でその観客と観る映画が、今まででナンバーワンで面白く見えたのを覚えています。劇場の雰囲気によって、その映画が最終的な力を得る、と言えますね。
映画祭というものは本来映画が好きな人たちのためにあるもの。そのために大切なのは「Direction(方向性)を選ぶ」ということ、非常にセンスがいることだと思います。この『極道戦国志 不動』は、なぜ誕生したかもわからない、言ってしまえば日本の変なもの。よくプロデューサーもオッケーしたな、このセリフ台本に書いてあるのかな、というような作品だったのがきっかけで、お客さんを惹きつけたのかもしれません。
この映画祭の体験は、非常に大きい一幕で、本当に楽しかったです。自分が日本で作っているものが、この場所で知らない人たちによってこんなにも楽しまれるということを知れました。「ああ映画って面白いんだな」って思いましたね。
〝個人個人の役が、自分の役割を果たすことが大切〟
―監督の映画が選ばれているトロント国際映画祭での部門は、「ミッドナイト・マッドネス(映画上映が深夜24時)」ですね。これは映画の中でも特に、監督の映画のように独特の雰囲気のあるものが選ばれていますよね。今年の映画祭期間中の『初恋』試写会にて、染谷将太さんとベッキーさんの突飛な演技に対するカナダ人の反応が、特に良かったように感じました。様々な映画やドラマで主役を張られている役者さんが出演されていますが、良い意味で監督の期待を裏切るような演技をされた役者さんがいれば教えていただきたいです。
ベッキーさんですね。期待の方向通りだけど、期待しているところよりも一歩も二歩も、彼女の思いによって違う演技をする女優さんです。真剣に取り組む姿勢と集中力は、本当にすごいです。僕自身、ベッキーさんのことをタレントとして見ていましたが、意外と憑依型の女優であると感じました。周りの俳優も彼女の演技に引っ張られていると言えるような迫力がありましたね。
その理由として考えられるのは、女性として辛い体験を経て、立っているポジションが平坦ではないこと。このポジションが彼女の演技を後押ししたのかもしれないですね。人間として負けてられない、という気持ちで映画に向き合う姿勢が、映画の中のピュアな〝ジュリ〟という役に一致したのではないでしょうか。
監督である僕自身が考える、映画におけるその役の役割を押し付けたくないという思いから、役者さんとはあまり話さないですね。映画としてはこんな風に展開してもらった方が物語は進むけど、そんなことより「個人個人の役が、自分の役割を果たすこと」が大切です。特にヤクザ映画に言えることですね。映画を面白くするためにその役をそんな風に演じている人はおかしいと思います。役者が映画の役に立たなくて、自分の作った物語が破綻してもいいのです。映画に非協力的な人が、たまたま物語を面白くするってこともありますから。映画としてのバランスも、全く関係ありません。良くできた映画からは本当に色々な考え方が見えますね。
―今回は窪田正孝さんが主演ということで、監督の作品に約10年ぶりの出演となりました。監督の目線から見て考える、俳優〝窪田正孝〟の成長と今後の期待について、教えていただきたいです。
あるテレビドラマのオーディションで、無名だった彼を主役に抜擢したのが出会いでしたね。当然この結果が見えて選んだわけですから、今の彼の活躍を見ても全然不思議には思いません。人間だから不安定で、普通はそう思っていても上手くいくものではないです。役者としての能力はあるけどコミュニケーション能力が欠けているとか、たまたま当たった役が悪かったとか。でも、彼は僕の思った通り上手くやっています。そう思いませんか?(笑)
〝この映画をたくさんの人に届けたい、観てもらいたい〟
―『First Love』は、今年度の第72回カンヌ国際映画祭においても上映され、世界中のファンの注目度の高さが伺えました。英語の有名紙メディアでは、この作品が商業的にも三池さんの代表作になるのではないかと言われています。それらの声を受けて、どのような印象を受けられましたか?
そう言われることは非常に嬉しいです。一番の思いは、少しでもたくさんの人に届けたい、観てもらいたいということ。面白い有能な役者、スタッフと楽しく作ったものだからこそ、楽しんで観てもらいたいんです。やっぱり特に、興奮するときの人の反応を見るのが好きですね。
収入に価値を置きすぎると、失敗したときの精神的なダメージってきっと大きいじゃないですか。繊細で弱い人間であることを自分自身が知っているから(笑)、そんな価値の置き方はできるだけ避けるようにしています。逆に言うと、マイナスの武装をしている。〝代表作〟と呼んでもらえることは嬉しいですね。一つのプレゼンテーションになりますし。だけどその作品だけではなくて、もっと僕の他の作品も見ていただければなと思います(笑)。
〝期待と現実の違いを楽しんでもらえるかがこの映画の一つのポイント〟
―監督の他の衝撃的な作品に比べて、今回の作品はかなりピュアなものですが、周りの反応はいかがでしたでしょうか?
ぶっ飛んだものを期待しているとがっかりする人も多いかもしれません。でも、みんな一人一人の持っている映画に対する期待や価値観は違うと思います。その期待と現実の違いを楽しんでもらえるかどうかが、この映画の一つのポイントですね。
映画『初恋』あらすじ
落ち目のプロボクサー・葛城レオ(窪田正孝)が、試合に負けたことで人生の歯車が狂い、アンダーグラウンドに身を投じヤクザの抗争に巻き込まれてゆく。
三池祟史プロフィール
大阪府出身。1991年にビデオ作品でデビュー。『一命』(2011年)と『藁の楯 わらのたて』(2013年)がカンヌ国際映画祭、『十三人の刺客』(2019年)がヴェネチア国際映画祭に出品された。『初恋』はカンヌ国際映画祭2019「監督週間」に選出された。日本では2020年に公開予定。