TOPStory-TORJAが選んだ新世代のリーダー 17歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさん|特集「若者のすべて」カナダのミレニアル世代と留学ライフ

カナダ・モントリオールを含む史上最大の気候デモでは161カ国約400万人が参加

彼女はいかに世界を動かしているのか

 17歳と最年少で米誌「TIME」の2019年の「今年の人」に選出されたスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)氏。去年ノーベル平和賞受賞も有力視された彼女は、「世界の姿勢に変化を起こし、漠然とした不安を緊急な変化を求める世界の運動に変えることに成功した(タイム誌より)」、若き活動家である。同誌は彼女の行動をきっかけに、「陰に隠れていた温暖化の危機が2019年には舞台の真ん中に動いた」と説明している。

 そんな彼女は如何にして、世界中の若者を率いる環境活動家として名を知らしめるようになったのだろうか。そして、気候危機に脅かされる時代を生き抜くにあたって私たちに要請される姿勢とは何なのだろうか。

米タイム誌は年末恒例の「今年の人」にグレタさんを選んだ

米タイム誌は年末恒例の「今年の人」にグレタさんを選んだ

トゥンベリ氏が気候行動のリーダーとなるまで

 彼女が環境問題に取り組むことになったのは、11歳の時に授業で世界中の海に浮遊する大量のゴミに関する映画を観たことが始まりだった。

 南大西洋では浮遊プラスチックゴミが集まり、その面積がメキシコよりも大きい島を作っていることに衝撃を受けた彼女は、精神的ショックから摂食障害になり10キロも減量。その後うつ、アスペルガー症候群と選択性かんもく症だと診断された。

 今となっては、アスペルガーが彼女の「強力な力」であると捉え、多くの若者や大人に影響を与えているトゥンベリ氏だが、当時は他人と話をせず食事もとれない日々が続いていたのである。

 スロベニアの哲学者スラボイ・ジジェクは、「彼女のような自閉症的な女性が必要なのだ。なぜなら彼女のメッセージは美しく、疑いようもなく正しいからだ」と賞賛している。

「未来のための金曜日(Fridays For Future)」または「気候のための学校ストライキ」をたった一人で開始

 大きな精神的ショックを受けた後、彼女は専門家の話を聞き、書物を読むなどして独学で気候問題を学んだ。そして、2018年の11月に「未来のための金曜日(Fridays For Future)」または「気候のための学校ストライキ」をたった一人で開始し、気候変動への緊急対策を求めてスウェーデンの国会議事堂の前に座り込んだ。学生たちに抗議活動に参加することを促すこの活動はSNSを通して瞬く間に拡散した。

カナダ・モントリオールでは若者を中心に50万人が参加

モントリオールでは50万人が参加(公式ツイッターより)

モントリオールでは50万人が参加(公式ツイッターより)

 去年9月には抗議活動に161カ国約400万人が参加し、史上最大の気候デモとなった。同月27日、トゥンベリ氏はカナダ東部モントリオールの約50万人が集まったデモに参加し、トルドー首相との面会後に地元先住民のリーダーらと行った記者会見では、温室効果ガスの抑制に向けて首相は「十分な対策を取っていない」と指摘。「世界中の政治家たちに対する私の意見は同じです。話を聞いて現代科学で可能な最善の対策を取ってほしい」と訴えた。

Vancouver Art Gallery前でのデモに参加(公式ツイッターより)

Vancouver Art Gallery前でのデモに参加(公式ツイッターより)

 トロントで開催された気候デモにも多くの人々が集まり、子供や若者が作ったプラカードには「環境が変わっているのになぜ私たちは変わらないのか?」「地球に代わりはない!」「将来のために勉強しろと言うが、私の将来はもう破壊されている」「地球を冷やして!」などの切迫した言葉が並んでいた。

 世界同時多発のデモが求めるものは、2030年までに社会全体がCO2排出量のネット・ゼロを目指す目標を立てることである。その一つ目は直接的、間接的な温室効果ガスを減らすこと。そして2つ目は、自分たちのシステムの境界にある温室効果ガスもゼロに減らすことだ。地球温暖化が不平等を拡げているとして、問題をさらに悪化させないように戦略を実行に移す際に気をつけるべきだとも声を挙げている。

アルバータ州エドモントンにて(公式ツイッターより)

国連気候行動サミットで約65カ国の首脳等を前に情熱的なスピーチが注目を集める

 去年の史上最大のストライキに続き、トゥンベリ氏は9月23日にニューヨークで開催された国連気候行動サミットにて参加した約65カ国の首脳等に温暖化対策の行動に出るよう情熱的に訴えた。

 2016年以降、世界のCO2排出量は増加の一途を辿っているが、サミット前日に国連の世界気象機関が公表した報告書によると、世界の化石燃料由来のCO2の排出量は一昨年2%増え、過去最高となったという。

 報告書によると、このままでは世界のCO2排出量は2030年以降も増加を続け、気温の上昇幅を1.5℃以内に抑えることは極めて難しくなるという。平均気温が2℃以上上昇すると「臨界点(ティッピングポイント)」を超えてしまい、気候変動の悪影響が急速に拡大することになる。

トロントでも気候危機の訴えに触発された世界中の若者らが一斉にデモ(グローバル気候マーチ)を行った。

トロントでも気候危機の訴えに触発された世界中の若者らが一斉にデモ(グローバル気候マーチ)を行った。

 また、報告書の結論によれば、現在のINDC(温室効果ガスの排出を制限していくための「自国が決定する貢献」)では、2100年までに2.9~3.4℃もの気温上昇を招くことになる。2℃未満でさえギリギリの目標なのだが、目標達成の希望を少しでも残すには「現在のINDC目標を約3倍にする必要がある」という。

 平均気温の上昇を1.5℃内に抑えることは「事実上可能ではある」と報告書では述べているが、それには全世界を動員した迅速な行動が必要とされている。だが、現状では世界の先進国はこの目標を順守しようとしていない。

「How dare you(よくもそんなことを)」トゥンベリさんの猛烈批判

Facebook公式ページより

Facebook公式ページより

 トゥンベリさんはスピーチにて、国連の現在の目標では平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えられる可能性が50パーセントしかないことを指摘し、「50パーセントという数字は、あなた方にとっては受け入れられるものなのかもしれません。しかし、気温上昇の影響下で生きることになる私たちにとっては決して受け入れられるものではないのです」と強い口調で続けた。

 また、各国が温暖化対策に真摯に取り組まず、結果として若い世代を裏切っていると述べ、「私たちは大量絶滅の始まりにいるのに、あなたたちが話すことはお金のことや永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり。よくもそんなことが言えますね」と怒りに満ちた口調で訴えた。「あなたたちは誰よりも自分の子供が大切だと言いながら、子供たちの目の前で彼らの未来を奪おうとしている」と迫り、約5分間のスピーチで環境問題に対して一向に行動を起こさない世界各国のリーダーたちを批判した。

 だが、彼女の力強いスピーチは気候サミットに出席した政治家の胸にも響いたようだった。CO2を多く放出している米国と中国以外の国は、解決に向けて一歩踏み出した。ロシア政府はパリ協定を批准すると発表し、批准手続きに進む最後の国となった。スロバキアのズザナ・チャプトバ大統領は、炭鉱開発への補助金の給付を2023年に終わらせると宣言した。ドイツのメルケル首相も、2038年までにドイツのすべての石炭火力発電での電力供給を段階的に廃止すると述べた。

 一方で、世界で最も多くのCO2を排出する国の部類に入り、排出量対策を十分におこなわずパリ協定に反する政策を自ら打ち出している日本は、後ろ向きな姿勢からサミットの登壇国から除外されてしまった。小泉進次郎環境大臣は「気候変動問題にはセクシーに取り組まないといけない」と発言し「中身空っぽ」の言動が波紋を呼んだ。現在、他にも60カ国以上が2050年までの実質排出ゼロを達成すると誓約している中、国際社会から批判を浴びている日本は、今後国際的な批判をどのように巻き返せるのか。

国際社会から批判を浴びる日本

 去年12月にマドリードで開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(以下、COP25)にはトゥンベリさんも参加。彼女は地球温暖化問題の現状を指摘し、問題から目を背けている政治家や企業のトップたちに厳しい視線を向けた。

Facebook公式ページより

Facebook公式ページより

 日本は脱石炭の展望を見出せていないとして国際的な批判を受けた。現在、日本にはCO2を排出する石炭火力発電所の建設計画が10基以上あり、途上国へ石炭火力発電所の輸出を行っている。だが、石炭などの化石燃料の使用は国際社会が進めようとしているCO2削減に逆行し、温室効果ガスを増やして気象災害などが頻発する危険を増量させることから、国際的に厳しい視線を向けられている。

 国連環境計画の報告書は、日本について「石炭火力発電所の建設を中止するほか、再生可能エネルギーを利用することで石油の利用を段階的にやめていくこと」と記述した。しかし、梶山経済産業大臣はCOP25の開幕直後に温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出が多い石炭火力発電を維持する方針を表明した。

 国際的な環境NGOグループは、梶山大臣の発言を受けて温暖化対策に消極的だと判断し、皮肉をこめて2度目の「化石賞」を日本に贈呈。しかし、「セクシーポエマー」こと小泉環境大臣は、「表彰されたことを光栄に思う」と発言し、またしても世界の環境対策強化の流れと日本の大きなズレを見せてしまった。

公式ツイッターより

公式ツイッターより

グレタさんを冷めた目で見ている日本人を、世界は冷めた目で見ている

 東京新聞の記事によると、COP25に参加した非政府組織(NGO)「Climate Youth Japan」の東京大大学院生の亀山貴都さんは「地方自治体の温暖化対策宣言や企業の技術開発など、日本の良さが石炭批判で隠れてしまった」と残念がっている様子を報じた。

 さらにカナダに留学中の郭拓人氏は、「グレタさんを冷めた目で見ている日本人を、世界は冷めた目で見ている」と指摘。「日本は技術的に先進国なのに、なぜ環境問題でリーダーシップを取らないのか」とイタリアのジャーナリストに問われ、「国民が望んでいないからだと思う。地球温暖化なんて嘘だという人もいる」と答えるしかなかったという。「気候変動はあなたの古里や子孫が被害を受ける。いま行動できるのはあなただと伝えていきたい」と郭氏は力を込めたと述べたという。

日本は今後国際的な批判をどのように巻き返せるのか

 地球温暖化問題に真正面から通り組むトゥンベリさんに、「落ち着け!」とツイートしたトランプ大統領や、先住民族殺害に触れた彼女を「ガキ」呼ばわりしたブラジル大統領のように、増悪を露わに彼女に食ってかかっている場合ではない。

 日本にはトゥンベリさんを快く思わない者も多く、ライトノベル作家の賀東招二氏は「俺もこの子きらい。もし自分が世界の影の支配者だったら、すべてを奪って絶望のどん底に叩き落として嘲笑してやりたい。超うまいステーキとか食わせてやって、悔し涙を流す姿が見たい」と悪意を込めたツイートを投稿(のちに謝罪し削除)し、物議を醸していた。

 問題の根本を見失い、彼女の発言の言葉尻だけを捉え、彼女の「科学者の声に耳を傾けてほしい」という訴えには目を向けないのは、ただのトーンポリシングである。日本の石炭火力発電所に対する姿勢、そして数値を引き上げたうえでの削減目標の再提出について言及があるのか、世界は注目している。

著書「グレタ たったひとりのストライキ」

著書「グレタ たったひとりのストライキ」

気候危機に脅かされる時代を生き抜くには

 現在、世界中の若者達が環境問題について議論を交わし、積極的に運動に参加している。去年の世界経済フォーラムの調査によると、ミレニアル世代の約50%が世界規模の問題の中で「気候変動」が最も深刻だと考えており、米国のZ世代の98%が社会や環境問題に関心があることが明らかになっている。

 果たして若者は大人たちより感じやすいのだろうか。そうではないだろう。彼らが熱心に環境問題に取り組んでいるのは、若者世代が不利な切り札ばかり与えられ、大人たちが間違いを犯していることを知っているからだ。そして、彼らにはお互いに手を取りあって団結し、問題に立ち向かう力を持っている。

 私たちに今できることは沢山ある。ネット・ゼロを目指す上でデモに参加すること、声を挙げて政治家や地方自治体を動かすこと、地球温暖化を食い止める方法について誠実に議論すること。その他にも、食べるものや着るもの、移動手段など、地球温暖化の防止に向けた選択をすることができる。企業によりサステイナブルな選択をするように声をあげていくことや、今過去最大規模の広範囲で深刻な被害を出しているオーストラリア森林火災被害を支援して援金寄付するのでもいい。

 抗議者の言葉を借りよう。「地球は一つしかないのに、なぜ私たちは今ある問題を見て見ぬ振りをするのか?」次の世代にどのような未来を残すかを決める力が私たちにはある。私たちには今すぐに変化を生む行動が必要とされる。

Facebook公式ページより

Facebook公式ページより

グレタさん 国連・気候サミット演説