「英語圏を自分の職場に」ウーマンラッシュアワー村本大輔さん(第3回)|Hiroの部屋
アメリカのアーティストビザを取得し、ついに今年アメリカへと渡ったウーマンラッシュアワーの村本大輔さん。渡米直前の1月末には、トロントへ足を運びコメディクラブで独演会を行った。インタビュー最終回の今回は、久しぶりのトロントで感じた手応え、そして改めて海外に出ることへの気持ちをたっぷり聞いた。
海外と自分は〝合う〟という自信
ヒロ: いよいよ、アメリカ挑戦の始まりですね。今のお気持ちは、どうですか?
村本: 僕に、海外は合うと思うんですよね。今回トロントに来て、街を歩いていたら後ろから黒人の男性が「I like it!」と僕のコートを褒めてくれたんです。その後チャイナタウンに行ったら、そこでも中国系の女性にコートがカッコいいって話しかけられて。ちょっと一緒に散歩してお互いの仕事や出身地とか話して、お互い頑張ろうねと言って別れたんですが、その時なんか合うなって思いましたね。カフェでは隣にいたインド系の大学の先生に、インド系のジョークができたから聞いてくれないか頼み込んでジョークを試してみたら、「いいね!」って言ってくれて。今度遊びにおいでよって連絡先を交換したり、コメディクラブでも楽屋にいる人に自分から話しかけたり、一個一個のことが気持ち良くて外国と自分は合うなと感じています。
ヒロ: 僕自身もトロントで〝水を得た魚〟のように生きやすいです(笑)
村本: でも、個人が主張しないとやっていけないですよね。トロントのホテルで朝8時から工事の音がうるさくて、クレームを入れようと思ったんです。でも、できなくて。それなら自分がイヤフォンして我慢するという日本人スタイルをしてしまって、海外でやっていけるか不安になりました(笑)
ヒロ: 村本さんでも、なかなかクレームは言えないですか(笑)?
村本: 僕そんなにクレーマーじゃないですよ(笑)。でも英語でクレーム入れるのって、余計ストレスがたまる気がして…クレーム1つ言うのに言葉が出ない悔しさはありますよね。そこから、より強く英語を覚えようって思うかもしれませんけどね。
アメリカナイズを感じた
トロント独演会
ヒロ: 久しぶりのトロント独演会はいかがでした?
村本: 面白かったですね。日本のお客さんの盛り上がり方と違うし、特に女性のお客さんたちがアメリカナイズされていると感じました。クリティカルなことを言った時に「ヒュー!」って口笛的な感じが、まさに海外でスタンドアップコメディをする時と同じですごくノリが良くてとても面白かったです。
ヒロ: きっと女性心理などのネタを男性である村本さんが言ってくれるからこそ、より気持ち良く爽快に笑えるんでしょうね。
村本: 海外にいると思考や言動も欧米化されるじゃないですか。それが「ヒュー!」にも繋がる。独演会の中で女性のことを「女」ってぽろっと言ってしまったんですが、目の前の女性が「女?」と怪訝な顔をしたのを見て、男尊女卑の国から来た僕にとっては地雷を踏んだ気分でしたし、アメリカに行く前に良いスパークリングを受けました(笑)
ヒロ: 日本の独演会にも何度か拝いましたが、盛り上がり方の種類が違う印象ですよね。トロントでは、観客席一体感で大きな笑いもありました。
村本: 観客の反応を見て、予定してなかったネタまで自ずとしてました。ライブごとに誰がキャッチャーになるかが、決まっているんですよね。もし男性がよく笑っていたら男性がキャッチャーになりやすい政治的ネタを増やしますし、トロントでは女性が多かったので女性ネタを多めにしました。日本の男性は若い女性が好きだと最近思っていたので、それをネタにして話し出したらお客さんが「そうそう!」と共感してくれて、女性がキャッチャーになるネタにスライドさせました。
ヒロ: 面白い表現ですね。ピッチャーが対戦相手を見て、投げる球種やコースを変えるような…
村本: よくジャズミュージシャンの人からコメディアンは似ていると言われるんですよね。ジャズはその場その場の雰囲気で場を作り上げていますが、コメディアンの僕も同じように何も決めずに、パパっとその場で雰囲気を作るようにしています。
タコ壺の中にいるような日本
ヒロ: 芸人さんの中でも海外に行きたい人は増えている印象ですか?
村本: 増えてきているようにも思います。テレビに何回も出るようになると、テレビってこんな感じかってわかるようになります。MCの人はずっと同じで、中堅の人たちがずっとその周りを固めているバラエティ番組はずっと何十年もありますよね。30、40歳になったくらいの時、このまま年をとってこの場所に居続けていいのか考える時が来るように思います。正直くだらないものでもとりあえず従ってやるという、どこか意識的にサラリーマン化しているところがあると思うんですよ。渡辺直美やピースの綾部みたいに、どんどん自分のネタを英語で試したくなって新しくチャレンジする人、コロンブスみたいに新しい大陸を探す人も出てきています。1人目、2人目と出てくれば、他も続いて飛び込んでくるんじゃないですかね。
ヒロ: 種目によってはアスリートの方々と似てそうですね。日本で結果を出された後に、このまま日本に残るか新たな苦労やリスクを負ってでも、海外挑戦しようみたいな。
村本: 一方で、日本は内向きなものも多いですよね。例えば格闘技は言語を使わずどんどん世界でやっていけるものなのに、ずっと日本人同士で内向きでやり続けているし、お笑いも含めて世界を目指すのではなくて内へ内へと日本にこもりがちで、小さいタコ壷の中だけでやっている感じがします。
ヒロ: 今でも日本国内の経済規模、安全性、利便性など世界的に高水準です。結果的に日本だけでも満足度は高いから、未知の世界の怖さやリスクも避けて現状維持を好まれる人々、会社、団体も多いでしょうね。
アメリカ以外でも挑戦したい夢
ヒロ: ニューヨークに行ってからの予定は決めていますか?
村本: 片っ端からチャレンジするつもりですが、まずは語学ですよね。とにかく勉強しないとそもそもネタができないじゃないですか。勉強してネタを試すという繰り返しになると思いますが、その中からまた新しく見えてくるものもあると思っています。
ヒロ: ニューヨークに知り合いはいらっしゃるんですか?
村本: 日本人の知り合いはいますが、日本人と遊んでいる場合ではないと思っています。語学学校に行ってコメディクラブに通って、レストランなどでも積極的に声をかけてローカルの友達をつくりたいですね。トロントで声かけられたコートを着て、声かけられ待ちしようかな(笑)
ヒロ: 面白い(笑)。ニューヨーク以外の都市にも進出という気持ちもありますか?
村本: コメディアンとしての夢は、やっぱりアメリカ全土だけではなくていろんな英語圏の場所のコメディクラブに呼ばれて、旅をしながらコメディを披露することです。英語圏が自分の職場になるっていいですよね。日本だったら、あくまでもお客さんは日本人だけじゃないですか。やっぱり世界に行くのは、英語を使えばお客さんの数も違うし、文化も人種もいろんなものが入っているし、ネタも変わってくるから良いですよね。
ヒロ: トロント独演会でもそうでしたが、村本さんは女性の心を表現するネタが上手いですよね。「女性が正論を語っている時に反論するのは、刃の付いた扇風機に手を突っ込むようなものだ」というネタがありましたが、とても面白かったです。でも、どうやって女性の心情のネタを作れるようになったんですか?
村本: 自分自身が、実際に突っ込んでズタズタだからですよ(笑)
ヒロ: ラブソングを作るミュージシャンは、いろんな経験をしてそれを歌にするとも言いますが、村本さんもですか(笑)
村本: ネタというか、もはや嘆きみたいなものですよね(笑)。他人事のように喋っていますが、僕のことなんです。アメリカではじゃあどんなネタをするのか聞かれることもありますが、まだそこの扇風機には手を突っ込んでいないじゃないですか。まずはたくさんの経験をしないと想像でしかネタは書けないと思っているので、アメリカに行くのは楽しみでしかないです。
ヒロ: ライブをしながら緊張することってあるんですか?
村本: 良い緊張はあります。緊張が好きでこの仕事をしているというのもあるくらいです。ドキドキするし不安にもなるけど、この年でそれを経験できるって最高じゃないですか。緊張って波みたいなもので、乗りこなしたら勝ちみたいなものです。
ヒロ: さすがですね。海外進出など、挑戦に対する緊張感から逃げるように、そもそもの挑戦を避ける人が日本人には多いように思います。そういった人々に何かアドバイスはありますか?
村本: 緊張は急に現れて僕らを怖がらせてくるんですけど、逃げても絶対追いかけてくるんですよ。だから従うというかエスコートしてもらうというか、身を任せるのが良いと思います。「あー今日はでっかい緊張きたな」って。大舞台に立つとき、マッチングアプリを通して初めて相手に会う時みたいないろんな緊張がありますが、緊張が来ていること自体幸せなことだと思うんですよね。そういう場所にいることは幸せだと思って、にやっと笑って楽しんでみることだと思います。
(聞き手・文章構成TORJA編集部)
村本大輔(むらもと だいすけ)さん
【受賞歴】
1980年11月25日生まれ。吉本興業所属のお笑い芸人。
2009年 笑わん会第10回 優秀賞
2009年 第7回MBS新世代漫才アワード 第2位
2010年 第31回ABCお笑い新人 グランプリ 審査員特別賞
2011年 第32回ABCお笑い新人 グランプリ 最優秀新人賞
2011年 第43回NHK上方 漫才コンテスト 優勝
2013年 THE MANZAI 2013 優勝
Hiroさん
名古屋出身。日本国内のサロン数店舗を経て渡加。NYの有名サロンやVidal Sassoonの就職チャンスを断り、世界中に展開するサロンTONI&GUY(トロント店)へ就職。ワーホリ時代から著名人の担当や撮影等も経験し、一躍トップスタイリストへ。その後、日本帰国や中米滞在を経て、再びトロントのTONI&GUYへ復帰し、北米TOP10も受賞。2011年にsalon bespokeをオープン。今もサロン勤務を中心に、著名人のヘア担当やセミナー講師としても活躍中。世界的ファッション誌“ELLE(カナダ版)”にも取材された。salon bespoke
130 Cumberland St 2F647-346-8468 / salonbespoke.ca
Instagram: HAYASHI.HIRO
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