「楽しむことが自信に繋がった」日本人女性シェフ芥川 奈緒さん(後編)|Hiroの部屋
カナダに来てから料理の道へと進んだ芥川奈緒さんは、これまでに2つのミシュラン店で勤務後、この連載中に大手日系レストランにヘッドハンティングされ、現在はシェフとして活躍する。学生時代の留学で気に入った街・トロントで永住権も取得し順調なキャリアと人生を歩んでいるように見える芥川さんに、経験から感じたことや頑張っている人へのメッセージを聞いた。
大会出場で〝見せる〟ことを学ぶ
ヒロ: 去年、料理のコンペティションに参加したと仰っていましたが、その前にもイベントや大会に出場されましたよね?
芥川: はい。昨年9月に出場したのは、プリンスエドワード島(PEI)で開催された国際シェルフィッシュフェスティバルのコンペティションです。
ヒロ:自分から積極的に出場したんですか?
芥川: 以前、RCショー(カナダの飲食やホスピタリティのエキスポ)への出場があり、その時のスポンサーがPEIの大会スポンサーもしていたんですね。私がRCショーのコンペティションでファイナルまで残ったので、PEIの大会にも出てみたらというお話をいただいたのが出場のきっかけでした。私を含め、カナダ中から12人のシェフが呼ばれて競いました。
ヒロ:そのような大会への出場も、本当に刺激になりそうですね。
芥川: すごく刺激になります。レストランで働いているだけでは絶対に経験できないですね。観客の人にも見られますし、料理だけでなくて働き方も見直せる機会になって、とても良い勉強になりました。
「手に職」で感じられるやりがい
ヒロ:改めて考えてみても、東京外国語大学から料理の道に進んだのはやっぱり異色ですよね。しかも高いレベルを目指した結果、勤め先がミシュラン星店になった「先見の明」、そして努力の上、シェフに昇格したことは本当にすごいですね。順調なキャリアのように見えますが、次のプランや、何歳までに具体的に何かをしたいとかなどの考えはあるのですか?
芥川: これまでを振り返ると、私ってラッキーだったなと思います。「alo」を辞めた時に、実は1回料理を辞めようかなとも思ったんです。でも熟考した結果、やっぱり料理を続けようと思うようになりました。「Quetzal」で働くことになったのもとても良いタイミングでしたし、そういう意味ですごくラッキーだったと感じています。何歳までにどこに行こうとかそういったプランは全くないです。
新しくオファーをもらったAburiグループ「Minami」でのシェフとしての仕事もとてもチャレンジングではありますが、一度自分をコンフォートゾーンから出してみないと成長できないように思うんですね。そこで成長して、また新しいチャンスが来たらいいなと思います。
ヒロ: 最近では、カナダの永住権取得もより難しくなっているみたいですが、奈緒さんは手に職を持つ方として、やはりスキルがあるのは強いと感じますか?
芥川: そうですね。トロントに来たばかりの頃はサーバーもしましたが、サーバーは誰でもできます。手に職がある方がやりがいもあるし、誰でもできる仕事ではないという部分では精神的にも強い気がします。
自分が楽しめることを知る
ヒロ: 僕のサロンは僕以外が全員女性ですが、奈緒さんはカナダのローカルの職場環境で、ジェンダーバイアスや働きやすさに関してどう感じますか?
芥川: 以前私が働いていた「Quetzal」のシェフは店で働く男女の比率をできるだけ同じにしたいと仰っていました。現状だと特にキッチンは男性が多く、力仕事が結構多いんですよ。私は負けず嫌いなので、女だから重いものを運べないって思われるのがすごく嫌なんですね。だから何か運ぶ時でも周りに「手伝って」と頼まないようにしたりしています(笑)。
ヒロ: なるほど(笑)。僕は素晴らしい女性陣と働けて、いつも本当に幸運だと思っています。では、自分を「日本人」だと感じる瞬間はありますか?
芥川: 多分、そういう瞬間があった方が良いんでしょうけど、日本人だからというよりは自分は自分だからという意識の方が強いです。一個人として勝負している感じですね。
ヒロ: 素敵ですね。次世代の留学生やワーホリの方々にとって、カナダで料理を始めてミシュラン店で勤務しながら永住権を取った奈緒さんのお話はとても夢があると思えました。今現在、頑張っている方々にメッセージをお願いします。
芥川: 私は初めてカナダに来た頃、自分に自信がなかったんですよ。英語にも自信がなくて、自信がないから喋れないという時期もあったくらいです。でも今は自分が楽しめるものが何なのか、自分が一番知っているし、自分が仕事でやっていることや楽しんでやっていることが自分の自信に繋がっているということをすごく感じています。自分の楽しめることを楽しんでほしいし、そうすれば道が開けてくると伝えたいです。
(聞き手・文章構成TORJA編集部)
芥川奈緒さん
東京外国語大学卒業、そして卒業とほぼ同時に渡加。トロント内の有名レストランを転々、さらに、市内のGeorge Brown Collegeで二年調理について勉強した後、ミシュラン店であるalo、Quetzalで計七年近く働いている。カナダ内のCulinary Competitionにも数回出場した。
Hiroさん
名古屋出身。日本国内のサロン数店舗を経て渡加。NYの有名サロンやVidal Sassoonの就職チャンスを断り、世界中に展開するサロンTONI&GUY(トロント店)へ就職。ワーホリ時代から著名人の担当や撮影等も経験し、一躍トップスタイリストへ。その後、日本帰国や中米滞在を経て、再びトロントのTONI&GUYへ復帰し、北米TOP10も受賞。2011年にsalon bespokeをオープン。今もサロン勤務を中心に、著名人のヘア担当やセミナー講師としても活躍中。世界的ファッション誌“ELLE(カナダ版)”にも取材された。salon bespoke
130 Cumberland St 2F647-346-8468 / salonbespoke.ca
Instagram: HAYASHI.HIRO
PV: "Hiro salon bespoke"と動画検索