Interview of the month April 2016
「いい料理を作るのはプロだけじゃない」
ポップアップダイニングレストランThe Depanneurオーナー
Len Senaterさんインタビュー
The Depanneur: 1033 College St
416-828-1990 / thedepanneur.ca
誰でも自由に参加して、得意の料理を振る舞うことができるレストラン“The Depanneur”(以下The Dep)。プロでもアマチュアでも、1日限定の自分だけのレストランを持つことができる。そのコンセプトが生まれたきっかけや、The Depの新しいプロジェクト、フードトレンドなどについてLenさんに語ってもらった。
■ The Depは通常のレストランとは違った形で運営されています。なぜこのようなレストランをオープンしようと思ったのですか?
一定の期間でお店が変わる“ポップアップダイニング”というものが世界中で流行し始めていたことが理由です。ただ、一から内装を作り上げ、メニューやスタッフを用意するポップアップダイニングは費用が掛かり、それが提供される料理の値段にも影響し、多くの人が訪れるのは難しい場所でした。ですから、必要なものがすべて揃い、かつ気軽に利用できるようなスペースを作るのはどうかと考えました。そうすれば、ポップアップダイニングより費用を抑えることができ、シェフもお客様もより利用しやすくなるのではないかと考えたのです。
それに加えて、私自身がレストランでの食事より、家庭料理が好きだったことも大きな理由ですね。家庭料理は、それぞれの家庭によって、同じ料理でも違ったテイストが生まれます。それこそが、家庭料理の面白さなのです。ただ、家庭料理を楽しみたいと思っても、そういう場所はありません。例えば日本食にしても、日本食レストランは沢山ありますが、日本人から自宅に招待されない限り「本当の日本の家庭料理」を味わうことはできませんよね。The Depを作ることによって、そういった「家庭料理を味わう」という体験ができる場所を作りたかったのです。
■ The Depの“Drop-in Dinner”について教えていただけますか?
“Drop-in Dinner”はThe Depが取り組んでいるポップアップダイニングの一例です。毎週金曜日に開かれ、プロでも、アマチュアでも、誰でもシェフとして参加できます。営業時間は午後6時から9時までの3時間程度で、この間にお客様が来店して、その料理を楽しむというものです。お客様は、シェフの家族や友達に加え、Facebookページなどでイベントを知った人、The Depの常連などです。提供される料理は基本的に1種類で、お店で食べてもいいし、テイクアウトもできます。料理の価格は大体12ドルくらいです。食材はシェフに持ち込んでもらう代わりに、イベントが終わったあと、シェフは売り上げの6割と、チップの半分を受け取れるという仕組みです。
The Depで料理を提供するために、あらかじめテストなどを受ける必要などはありません。私は「Drop-in Dinnerをやりたい」と思う人は誰でも歓迎ですし、そうやって思う人は、すでに相当の腕前を持っている人達がほとんどなのです。それに、The Depでは、できるだけアットホームでカジュアルな雰囲気を保つように努力をしています。高級料理店とは価格帯も違いますし、そういったカジュアルな雰囲気で楽しむ料理にはお客さんも寛容でいてくれるのです。
■ The Depがもう一つ取り組む、「Supper Club」についても教えていただけますか?
Drop-in Dinnerは、誰でも自由に食事を楽しめるというカジュアルなものです。一方、「Supper Club」は例えるならば、「大きなディナーパーティー」のようなものでしょうか。参加するためにはWEBサイトでチケットを買う必要があり、開始時間も決まっています。参加人数は24人までです。参加費はDrop-in Dinnerより少し高めですが、Supper Clubでは3品から4品のコース料理がふるまわれます。
■ The Depを運営するうえで楽しいこと、また、逆に難しいことは何でしょうか?
このビジネスを運営すること自体がとても楽しいです。おいしいものを食べ、世界各地の食事について学び、たくさんの面白い人々と会う。これ以上に楽しいことが、果たしてあるでしょうか?
ただ、このビジネスだからこその苦労もあります。それは私たちの場合、「すべてが日々変化していく」という点です。通常のレストランでは、決まったメニューがあり、決まったスタッフがお客様をもてなします。そうすると、しばらくすれば、仕事をルーティーン化することができてくるので、運営は時間が経つごとに楽になってきます。ですがThe Depの場合、提供される料理、提供するシェフは毎日のように変わります。そのため、運営が楽になることはないのです。
■ 将来的にThe Depが取り組もうとしている、新しいプロジェクトなどはありますか?
私たちのようなスモールビジネスは、日々新しいものに挑戦し、進化する必要があります。私自身、The Depの他にも、コワーキングスペースならぬ、「コワーキングキッチン」というものも運営しています。これは、設立まもないフードビジネスが自社のキッチンを持たずとも、気軽に使うことができるシェアキッチンのことです。さらに現在取り組んでいるものに加え、「シリア難民のためのシェアキッチン」というチャリティープロジェクトの実現に向け動いています。彼らはホテルにこもりきりの人が多いので、自分たちが食べたい家庭の味を作れる場所を提供したいのです。
■ 今のフード業界での新しいトレンドは何でしょうか?
肉だけではなく、卵や乳製品なども口にしない「ビーガン」向けのビジネスでしょうか。ただ面白いことに、ビーガン向けのワークショップはいつも売り切れるほど人気ですが、ビーガン料理のDrop-in Dinnerの人気はまちまちです。また、これまでカナダ人にとって日本食や韓国料理などのアジア料理が物珍しかったですが、今では十分浸透し、一般的なものになったために、よりエキゾチックな料理が人気を集めています。
■ 最後にTORJA読者のみなさんに一言お願いします。
トロントは、世界各地の料理が気軽に楽しめるという魅力があります。食を楽しむにはとても適した街なのです。もし皆さんの中にも、料理に興味がある方がいれば、ぜひ連絡してください。The Depの一員としても、Drop-in Dinnerでシェフとして参加するのも大歓迎です。
Translator: 木村拓哉
1991年愛知県生まれ。南山大学経営学部卒業。大学在学中にはUniversity of Wisconsin, Madisonにて交換留学生として経営学を学ぶ。カナダを渡航後にCanPacific Collegeにて翻訳を学び、現在はカナダを拠点にフリーライター/翻訳家としても活動。自身が運営するWEBマガジン「CanadaLifeMagazine」ではカナダの生活情報を発信中。
CanPacific College: www.canpacificcollege.com