九州(1):熊本|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第105回
再び熊本へ

前回行ったのは2016年の熊本震災直後だった。拙作のドキュメンタリー映画『長面―消えた故郷』―東日本大震災(2011.3.11)を全国巡回しているときだった。津波こそなかったが皮肉にも熊本もこの上映会を前にして最大震度7の大惨事を被ることになってしまった。上映後、被害にあった益城地域の建物の数々、避難所を友人と車で巡った。
今地元の人たちは明るく平静を取り戻し熊本ブーム(後述)を享受しているようだ。9年ぶりにこの熊本に訪れたのは4月に東京銀座でやった写真個展『久遠に逢う』の2回目をするためだ。6月の熊本はすでに梅雨入りしていたにもかかわらず、多くの人たちが足を運んでくれ素敵な出会いにも恵まれた。その流れで今回の旅はまだ見ていない熊本から始まって長崎の軍艦島まで行く近代史の旅でもある。
熊本城―完全復旧にあと27年!

地震前の姿に戻るのに要する年月は幾度か改定され今は2052年と遠い未来になっている。顕著なお堀の石垣崩壊の復旧に時間がかかりそうだ。城周辺にはまだ元の鞘に収まっていない大量の石が地面に仕分けされ整頓されている。重い石をどう積み上げて元通りにしていくのか、至難の技であるに違いない。

入場券売り場横にある「熊本城ミュージアムわくわく座」には大人も楽しめる石の組み込み模型や大男、加藤清正の人形もある。特別見学通路を通って城の天守閣(2021完成)までは行くことができる。各階で城の変遷の展示をみながら最上階へ登っていく。新しい天守閣はお城なのか新築のコンドミニアムの窓から眺めているのかわからなくなるほど綺麗だ。

小学生のグループに会った。台湾の小学校から歴史ツアーに来ていると聞いて驚く。日本の小学校が外国へツアーに行くだろうか。城の前で記念のグループ写真を撮ってあげた。
熊本大学―五高記念館

観光地図に名前は載っていても説明書きがない国の指定重要文化財がある。明治20年に中学校令によって全国5ヵ所に創設されたうちの一つで五校は今の熊本大学の前身にあたる。五校から帝国大学に進学した精鋭の若者たちから多くの著名人が出た。

五高の教師陣には、北里柴三郎(医学)、小泉八雲(Lafcadio Hearn)(英語・ラテン語)、夏目漱石(英語・文学)などが、生徒には寺田寅彦(物理学・随筆家)、木下順二(劇作家)、池田勇人(総理大臣)、佐藤栄作(総理大臣)などがいた。北里柴三郎の門下生、宇良田唯は日本女性として初めてドイツで医学博士号をとった五校卒の才女。
小泉八雲や夏目漱石が出した英語のテストが興味を引く。今の高校生には難度が高そうだ。小泉八雲の1893年の英会話試験要項には「即答すること」、と添え書きがあって手厳しい。煉瓦に囲まれた教室や展示品の数々、五校の歴史を通して日本の歴史、熊本の重みをヒシと感じた時間だった。
TSMC社と熊本
台湾の小学生が熊本に来るのも理由がありそうだ。世界最大の台湾の半導体受託製造会社、略称TSMC社(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company 台湾積体電路製造、創業者―張忠謀氏)が熊本に東京ドーム4.5個分の巨大工場を2024年に開所したからだ。
他社で設計した半導体を受託して高性能チップを製造する会社で世界市場シェアは50%、その中にアップルなどの大手IT企業も顧客として入っている。
熊本市外の菊陽町にTSMCの工場ができたことで国内外の関連企業も集まりやすくなり、インフラが追いつかないほどの勢いらしい。台湾では半導体の製造に必要な良質の水が枯渇し、豊富な水資源で知られる熊本に注目したという。
それと日本政府から巨額の補助金4760億円(第一工場)があった。これからますます需要が高まる半導体を安心して国内で製造ができるようになることを計算した上での国の補助金だ(第二工場に7320億円)。
半導体はスマホ、家電、自動車、AI関連製品などに使われ、将来の使い道の種類は未曾有だ。この会社の微細チップの製造技術が凄いらしい。アジア独特の器用さだろうか。TSMCの工場進出による経済的相乗効果は10年で11兆を超えると予測されているから日本だけでなく、世界が熊本に注目している。まさに熊本ブームだ。

石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、『久遠に逢う』東京・熊本、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”。PPOC認定会員、日本写真協会会員、AFP、ESL教師。www.makikoishiharaphotography.com
https://makiko-ishihara.pixels.com
https://nagatsuramovie.com














