ベトナムへ(4)古都ホアルーの遺跡群とベトナム語|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第114回
古都ホアルー(Hoa Lu 968―1010)

ベトナムの首都がハノイに奉還される前の都がニンビン省の古都ホアルーだ。「東門」と漢字で書かれた門をくぐると中国の侵略や王朝の変遷を描いた大型歴史壁画がある。約40年間という短い間だったが黎(レ)朝と丁(ディン)朝の都が置かれていた所で、初めて独立王朝都市が誕生した場所として17世紀に再建され、ベトナムの重要文化財になっている。

敷地は殺風景でかなりひっそりしていて歳月に黒ずんだ小さな建物の内部には皇帝や皇族が仔細な彫刻と栄華を讃える漢語に囲まれて祀られている。ときおり緑の中で水牛が草を食べているのどかな景色が目に入る。
ガイドさんが「コトアルー、コトアルー」と言っていた時は何のことかさっぱり分からなかったので「古都」と「ホアルー」を切って発音したほうがいい、と余計なお節介をしてしまった。
ボートで行くチャンアン(Trang An)の洞窟巡り

ベトナムで是非経験すべきことのナンバーワンはこれだ。ハロン湾の遊覧船とは比べ物にならない程スリルあり、楽しい。手漕ぎボートで頭スレスレの洞窟をいくつ通り抜けただろうか。長いのは320mもある。入ると重く温かい湿気に包まれる。
2億4千万年前にできた石灰岩の奇岩や聳え立つ緑の島の間を竹製のボートはサオケー(Sao Khe)川を静かに進む。平坦な島には寺院が立っている。水の中に立つヴーラム(Vu Lam)行宮は皇族らが緊急時に逃げた場所とも言われ、水に浮かぶ風情のある美しい建造物だ。

ボートの漕ぎ手は殆どが女性。彼女たちの腕は相当の筋力がついているに違いない。私はガイドさんと二人だったが白人の体格のいいお客が定員4人も乗ったボートは水面スレスレで気になった。地震国日本ならおそらく危険なので洞窟は立ち入り禁止、乗客2人までの川下りに制限されるだろう。

古都ホアルーを含んだチャンアンは複合景観として世界遺産に登録されている。施設内は綺麗に装飾されていて美術館のよう。チャンアンは超おすすめの場所だ。

ベトナム語はどこからきた?

中国の支配下(紀元前111〜938年)の約2000年の間、中国語が公用語だった。日本の一文字表記だと「仏」はフランス、「独」はドイツ、「伊」がイタリアだがベトナムは「越(ヴィエト)」だ。
ベトナム語は越語または南越語とよばれ、国民の87%を占めるキン族の母語であり同時に国の公用語になっている。しかし、なにをもって「ベトナム語」というのか。
1919年の科挙(官吏登用試験-4月号参照)廃止にともないフランスの圧力で漢字の使用は衰退していった。国が南北に分裂してから漢字は公式に廃止。漢字の「読み」の音声の高低で意味を区別する音調言語へと変化していった。

それをフランス人がローマ字で文字表記したのが「チュ・クオック・グー」と呼ばれ今の正式な表記法となっている。普通の英語のアルファベットに色々な装飾をつけて音の差をつけている。
しかし、漢字由来の単語が70%もありそれらは「漢越語」として収録されている。たとえば「天然」はベトナム音声で「ティエン二ェン」となる。音だけでは意味がわからないが「漢越語」の漢字で示されれば理解できる。越南語の「越南」は「ヴィエット・ナム(Viet Nam)」つまりベトナムだ。
国が今抱えている教育問題は漢字が読めないと自国の歴史文献が理解できないこと。それで、漢字の復活論も出ているそうだ。若い日本語ガイドさんの言葉がよく理解できなかったのは彼らが音調と独特のアルファベットで日本語を学んでいるからではなかろうか。それと教師がベトナム人。
蓮の糸を使った刺繍

ニンビンの土産物店で目に留まったのは刺繍。ミャンマーやカンボジアで伝統的に使われた蓮の茎から抽出した繊維を糸にする技術はベトナムにも伝わり、古くからニンビンに伝わる菩提樹の葉を利用した刺繍糸と並んで普及していったそうだ。
店内の一角に女性が幾人か座って作業をしていた。一枚仕上げるのに何ヶ月もかかりそう。蓮から取れる糸の量は微少で絹と混ぜて使う。そのためか作品はそれほど安くはなく、主に額に入って壁飾りとして売っている。一見日本刺繍のような刺し方ではあるが、デザインはベトナムの文化や自然をハッとするような色使いで刺し混んだものが多い。

石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、『久遠に逢う』東京・熊本、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”。PPOC認定会員、日本写真協会会員、AFP、ESL教師。www.makikoishiharaphotography.com
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