イタリア(7):トスカーナの田舎をドライブする−1|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第32回
クレテ・セネージ独特のうねる白粘土の丘[/caption] フィレンツェを後にする日が来た。3週間の語学研修でなんとか簡単なイタリア語はわかるようになった。スムーズな会話までは程遠いのだが、とりあえず一人でドライブするには事足りる。いざとなったら英語を使えばいいだけのことだ。電車でシエナに着く。
レンタカーの手配はカナダを出発する前にCAAを通して予約しておいた。イタリア国内で手配するとかなり高くつくと聞く。車はオートマチックでなくマニュアルを選んだのでさらに格安に。車種は小型で現地まかせにしておいたら運良くアルファロメオに当たり気分向上。綺麗なブルーの車が新しい1週間の私のプライベートスペースになるわけだ。きっと素敵なドライブになるぞ。さて車に乗り込んだのはいいが、マニュアル操作はどうだったっけ、と考える。何せカナダで買った最初の2台がマニュアルだったがそのあと10年以上ずっとオートだ。なんとか記憶を呼び起こし自分の足とギアシフトレバーを握る手に言い聞かせ駐車場から無事脱出。あとはDのギアで走行。3分も経たないうちに感覚が戻って来た。若い時にやっておいてよかったことの一つがマニュアルの運転だったとは。
出国前にカナダの携帯のトラベルパックを買っておいたのだが期限が切れてしまい慌ててパックを追加。ローミングチャージがかかってはたまらない。イタリアの地図をダウンロードし、GPSにした。とは言えイタリアの田舎道の道路事情もわからないままGPSの指示を感違いしたのか農道に迷い込んでしまった。おかげで素晴らしい景色に出会えたのは運がよかったが。この経験からその都度、小まめに出発地点をリセットすればGPSはOKとわかる。
ムーロ村(Murlo)のサインが出てくるとトスカーナの懐だ。目指すはブオンコンヴェント(Buonconvento)。古い歴史はあるが観光地というより落ち着いた日常が在る町だ。付け足すと6月号に記載した毎年行われる世界的自転車走行(マウンテンバイク)イベントの5コース全てがここブオンコンヴェントを通る。私の宿泊施設はこの町から1キロ先のファームハウス、ファットリア・ピエヴェ(Fattoria Pieve)。私の1週間の仮住まいだ。ビュッフェスタイルの朝食は自家栽培のオーガニック食材。別館のレストランは予約のみの夕食用。初日の夜はそのレストランでとったが、スープは野菜シチューのようですぐに満腹、羊の肉かと思ったら羊のチーズ盛り合わせ、という失敗。
夕方何時に戻るかわからないのと、好きな時間に自分の部屋や外出先でピクニックができるよう、ブオンコンヴェントのスーパーで買い物をすることにした。結構何でもある。町で庭に水撒きをしていた男性に道を聞こうと話しかけたら2階のお母さんまでバルコニーに呼び出して紹介してくれた。美味しいピザ屋も教えてくれた。町のはずれには郵便局が在るが普段は無人という信じられない話。イタリアの田舎にきたのだという実感がある。
宿泊してわかったのは夏期は北米から、春秋はヨーロッパからの観光客が多いということ。私の滞在中英語は全く聞こえてこなかった。ファットリア・ピエヴェは思ったよりリゾート化しており、マッサージ、プール、乗馬、サイクリング、ハイキングコースありで観光客をもてなしている。女性マッサージ師は池田大作に感銘を受けた若い人。彼女の片言の日本語と私の片言のイタリア語で話が盛り上がる!?
石原牧子
石原牧子 オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。 makiko.ishihara@gmail.com