アルゼンチンから南極へ(7) ―サウス・ジョージア島北岸|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第83回
ゴタル(Godthul)
サウス・ジョージア島の北側にある小さな入江、ノルウェー語で「良いくぼみ」、スペイン語では「良い流れ」という意味らしい。日本語の読み方はゴッフル、ゴッドスルとかあるが、英語として読めばゴタルぐらいが近いのではなかろうか。捕鯨基地はないが両国の捕鯨船が停泊して捕獲した鯨を船上で処理していた場所だ。さつまいも型のサウス・ジョージア島の南側は岩壁が多くアクセスが悪いので船は北側に停泊し、モーター付きのゾディアックボートで沿岸を観察開始。
先月号で紹介したが、この島はイギリスの海外領土だが調査員や偵察員らがたまに来るだけで定住者はいない。ゴタル近辺で目立つのがトルコ色の海水に浮かぶ巨大な海藻。モーターに絡まってしまったボートもあった。こういうところに獰猛なヒョウアザラシが隠れている。時々海面から顔をだし、ペンギンや他のアザラシを狙うヤクザだ。私の大のお気に入りはゾウアザラシの子供。まるで微笑んでいるかのようなハッピーな表情にこちらもニッコリしたくなる。
ゴールドハーバー(Gold Harbour)
ここはまさしく動物の楽天地。広い砂浜にアザラシとペンギンがお互いのスペースを守りながら共存している。合唱するペンギン、格闘なのか遊んでいるのかわからないゾウアザラシの絡み合い。その巨大な体の周りに小さなペンギンやオットセイらがチョロついている様子が面白い。
2月に入り、夏の名残を惜しむようにオットセイは山側の草むらに格好の良いベッドを見つけて眠る。姿は見えなくても草むらからオットセイの呼び合う声が音程のない大合唱となって空高く響く。我々はここでハイキングをする予定だったが、あまりにも多くのオットセイが草陰にいるので中止になった。プライオリティーは自然環境を妨害しないことだから。
オットセイとアザラシの違い
アザラシ(Seal)の中でも英語でファーシール(Fur Seal)と呼ばれるのがオットセイだ。他のアザラシとの主な違いはオットセイには小さいがはっきりした耳が突き出ていること、体は小さく上半身を上げて速く進むことができる。ゾウアザラシなどの大型アザラシは寝転がっていることが多く、上半身を高く上げずに這ってゆっくり移動する。両方とも時々白いのがいる。アルビノ(白子)かとおもったが、それは人間で言えば、黒髪と金髪の違いで、アルビノとは違うそうだ。白と黒のオットセイが仲良く遊んでいる光景は微笑ましい。
クーパーベイ(Cooper Bay)のペンギンとコウテイペンギン
サウス・ジョージア島の南端にある点のような島、クーパー島は18世紀の探検隊隊長クーパー氏にちなんで付けられ、ヒゲペンギンやマカロニペンギンの生殖で知られる。両種とも岩場や高台を好むため、平地やなだらかな丘に生殖しているオオサマペンギン やアデリーペンギン、ジェンツーペンギンを観察する場合と違い、上陸せずにボートの上からしか見ることができない。
ここでコウテイペンギンについて一言。オオサマペンギンは時々コウテイペンギンと間違われるが、コウテイペンギンはオオサマペンギンより体が一回り大きく、南極大陸の海氷で生殖する。そのためヒナが成長するには固定した海氷が必要で、成長する前に海氷が割れると死んでしまう。南極大陸の海氷面積が減少している現在、継続的繁殖が危ぶまれている。英国の南極観測局によると、コウテイペンギンは2100年までにその8割が消滅するだろうと発表している。残念ながら今回の航海でもコウテイペンギンにはお目にかかれなかった。
フォーチュナベイ (Fortuna Bay)
奥行き5㎞、幅1.5㎞のフォーチュナ湾はノルウェーの捕鯨船フォーチュナ号から付けられた名前。湾に向かって広がる広大な草原はオオサマペンギンの繁殖地。何万という膨大な数のペンギンが密集している。2羽だけでデートしているのもいれば、グループで合唱を組んだり、水泳教室に参加したり、と様々な彼らの日常生活の様子を堪能させてもらった。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。www.makikoishiharaphotography.com
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