世界自然遺産-屋久島めぐり(3)南海岸を走る|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第87回
千尋滝(せんぴろのたき)
屋久島には大きな滝がいくつもあるが、その有名な滝の一つが麦生の集落に近い千尋滝。超巨大な板状の花崗岩の谷間に落ちる水の落差は60m。展望台からぐるり360度の景観に入るこの滝は太平洋とともに雄大な景色のワンシーンとなって焼きつく。
後日テレビで勇敢な若者たちが綱を使って千尋滝を滝下りする姿を見たが、一本の綱を頼りに足場の悪い岩を水飛沫を浴びながら下る様は屋久島がアスレチック活動に相応しい環境の宝庫であることを物語っている。
屋久島いわさきホテル
尾之間(おのあいだ)の集落に位置するホテルを拠点に南海岸で優雅に2泊した。ホテルの敷地内にも片道45分程度のハイキングコースがあり珍しい南国の草木や滝を楽しむことができる。屋久島の伝統的山岳信仰で祀られている山の一つ、モッチョム岳を仰ぎながらダイニングホールの窓際で食べる朝食は格別。
余計な話だが、私はビーフステーキをいっさい口にしない。ところがここで出た夕食の小ステーキは生まれて初めて肉嫌いの私に「美味しい」と言わせた、自分でも信じられないほどだったので記しておく(ホテルからリベートは無し。念の為)。
平内海中温泉
言葉の通り、海中から湧き出るアウトドアの温泉。ゴツゴツした海岸に岩に囲まれた三つの浴槽がある。ここは一日2回、干潮前後の約2時間のみ入浴可能で、リウマチ、神経痛、皮膚病、婦人病に効果がある単純硫黄泉。慶長4年(1599年)にはすでに発見されていたという。
現在でも内風呂を持たない住民の風呂場として愛され、観光客にもシェアさせている。写真撮影禁止なので遠くからしか撮影できなかったが、押し寄せる波を受けながら入浴するなんて、なんと魅力的な温泉なのだろう。
私も入りたい気持ちに駆られたが、何せ脱衣所というのがない。岩陰もない。そんなところで真っ裸になれるわけがない。水着、下着着用も厳禁。車の中で脱衣してバスタオルにくるまって湯場まで行く手もあったが、そこまでする気力もなく、断念。
屋久島フルーツガーデン
中間(なかま)集落にあるフルーツガーデンに寄ってみた。入り口からすでに亜熱帯のジャングルの雰囲気だ。手作り風の小屋に入ると高齢の男性がフルーツを切って出してくれた。
経営者の彼は50年以上も前、南国各地に出向いて行って自ら珍しい植物を持ち帰り、この地に植えてフルーツガーデンにしたのだという。
「ジャックと豆の木」の寓話と同じ木だと教えられた奇怪な樹木を見ているとあの話が本当だったかのような気がする。一見の価値あり。
男性は足早に敷地を案内する。このフルーツガーデンを継ぐ子供はいないらしい。ゆくゆくは鹿児島県営になるのだろうか。ここまで育ったジャングルを放置、崩壊させないでほしいと願いながらガーデンを後にした。屋久島住民の高齢化の一コマだった。
中間カジュマル
フルーツガーデンと同じ中間集落にあり、中間橋の脇にある樹齢300年のカジュマル。無数の長い気根が伸びまくって木全体でアーチを作っている。気根というのは幹から垂れる空気中の根っこのこと。しかし根なのか幹なのか見分けが難しい。
アーチは「中間カジュマルくぐり門」と言われ、くぐるといいことがあるそうだ。くぐって川沿いを歩くと、子分のようなカジュマルが何本も大木となって並んでいる。熱帯いちじく(亜熱帯のクワ科とも言われる)の仲間で屋久島と種子島がカジュマルの日本の分布の北限なのだそうだ。海のそばに生殖し、島では防潮林、防風林としても利用されてきた貴重な樹木だ。
栗生(くりお)
屋久島の海岸は車で走った印象としては大体岩場が多く、泳ぐには適してないようだ。それに比べて、栗生の海岸は砂浜で遠くまでビーチウォーキングが可能だ。近くには屋久島青少年旅行村があるから夏季にはさぞかし海水浴にくる子供たちで賑わうのだろう。
私たちも海の空気をたっぷり肺に吸いこみ旅の後半に挑む。車は北上して屋久島の西側を走行する。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。www.makikoishiharaphotography.com
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