アメリカ:キャニオンツアー もう一度あの感動を|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第89回
チャンス到来
およそ25年前、アリゾナ州(Arizona)フェニックス(Phoenix)に出張に行った時のことだった。地図を見るのが好きな私は自分のいる場所がグランドキャニオン(Grand Canyon)に近いことに気づく。まだ見ぬグランドキャニオン。心は踊った。
仕事の後、200㎞北のフラッグスタッフ(Flagstaff)までバスで行き、そこからレンタカーを借りてグランドキャニオンのサウス・リムを限られた時間で巡った。その壮大な自然の造形に圧倒され、魅了され、いつかきっと戻ってこよう、と心に決めていた。
そのいつかがある日突然やってきた。心のどこかで思っていると、チャンスが来た時、決断に時間はかからない。
ユタ州(Utah)発
受け取ったEメールは米国ユタ州のある写真家の呼びかけだった。私はユタ州には全くご縁がなかったものの、その人は15年前にカナダに来て講演会をしたことがある。そもそもの繋がりはそこだった。約一週間、ユタ州、アリゾナ州のキャニオンを撮影する、というのが趣旨。この少人数制の写真ツアーはファミリービジネスで、イタリアにも拠点がある。
ヴァンを運転するのは彼の従姉妹のクリステイン。秋も深まった11月、トロントからネバダ州(Nevada)のラスベガス(Las Vegas)に飛び、そこからバスでセントジョージ(St. George)の小さな町に深夜着くと、彼女が出迎えてくれてホテルまで送ってくれた。
ザイオン国立公園(Zion National Park, Utah)
スプリングデール村のザイオン国立公園から撮影開始。ここは19世紀半ば、ヨーロッパのモルモン教徒たちが新天地として定着するまで一部は土着民の生活の場であった。1919年に正式に国立公園となり、人類学、考古学の専門家らが500箇所以上の選定された場所で研究を続けている。
カナダのロッキー山脈とは違って乾燥した赤土やオレンジ色の剥き出しの堆積壁が目立つ。昔映画で見た西部劇のバックグラウンドを思い出す。
30分から2時間程度までのハイキングコースがあり出発点へはシャトルバスがビジターセンター前から頻繁に出ている。私たちが歩いたエメラルドプール・コースは傾斜があるが登り切った時の達成感と感動的なヴィスタに呆然と佇む。
ザイオンで見る朝日
早朝、暗がりの中ヴァンが動き出す。広い草原についた頃には空が白けていた。各々三脚をたて、カメラを準備する。地元の写真家は撮影に良い場所や時間帯を知っているので個人であちこち場所探しをして無駄な時間を費やさずに済むのが撮影旅行のいい点だ。
いったん現場に着くと、右へ行こうが左へ行こうがどこで三脚を立てるかは同志の邪魔にならない限り全く自由。ただしスケールが広いのでクリステインのご主人が誰も迷子にならないように見張り役をする。背後に山、前にも山。私たちが狙うのは朝日をまともに受けて黄金に光る前の山、そしてそこに黒い影を落とす後ろの山。陽が登り切ると影は消えていく。朝日の後、私の目に止まったのは恐竜の屍を思わせる巨大な枯木がゆっくり時間をかけて土に帰る姿だった。
再びグランドキャニオン(Grand Canyon, Arizona)へ
ユタ州とアリゾナ州の境界線近くにカナブ(Kanab)の集落があり、リトルハリウッドの看板が見える。西部劇のロケーションだったに違いない。カナブからアリゾナ州のグランドキャニオンまで2時間余りのドライブ。みな私以外はアメリカ人だがカメラという共通の話題ですぐに打ち解け、車中で盛り上がる。
懐かしいグランドキャニオンのノース・リムに着いた頃、陽は落ち始めていた。寒さを忘れてファインダーに見入る人々。
人間目線ではわからないのだが、ザイオンの東にあるブルース・キャニオンからザイオン、グランドキャニオンと3つのキャニオンは巨大な堆積岩の階段になっていて(Grand Staircaseと呼ばれるもの)、一番上の地層にブルース、次にザイオン、そして一番下の階段がグランドキャニオンだ。
つまり最下層のグランドキャニオンが高く見えるのは7千万(多説あり)年もの歳月をかけて侵食したその深さ約1.6㎞のせいだ。糸のように細く見えるコロラド・リバーはいまも健在である。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。www.makikoishiharaphotography.com
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