アメリカ:キャニオンツアー – ペイジからアンテロープへ|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第90回
アメリカン・インディアン
コロンブスが1492年に発見した大陸をインドと思い込んだことから、アメリカの原住民はインディアンと呼ばれるようになった。だが今はインド人と区別するためにアメリカン・インディアンと呼ばれる。
アリゾナ州のインディアン・リザーヴ(Indian Reserves原住民保留地)は合衆国全体で最も多く、州の27%を占め、ホピ族、ナバホ族を含む22の種族が居住している。国立公園に入らない保留地にある自然遺産をもとに彼らなりの観光客相手のビジネスをしている。
ペイジ(Page)
アリゾナ州のグランド・キャニオン(5月号記)で先人たちがみたのと同じ夕陽を眺めたあと、ユタ州に近い人口7300人のペイジ(Page)で二泊した。ホテルの裏は赤土の荒野が無限に続き、海抜1270mに位置するホテルが唯一のオアシスだ。
朝食を済ませ、向かったのはシークレット・キャニオン。その名の通りひみつのキャニオンというか、本当の名前は明かされていないし、地図上で位置確認することもできなかった。
シークレット・キャニオン(Secret Canyon)
何千万年も前に砂や岩の混じった濁流に侵食されてできた造形美の洞窟。光の加減でチョコレート色になった壁を見ているとまるで自分が巨大なチョコレートの津波に飲み込まれるような気持ちになる。表面は粗いやすりのようにザラついているがどこをファインダーで切り取ってもサマになる。
アリゾナ州やユタ州にはこのようなキャニオンがいくつかあり、原住民保留地域で家族が運営している。一般観光客は地元のツアーに参加しないと行けないようだ。予約済みの私たちはジープ2台に分かれて乗車、スタッフが赤い土煙を立てながらがキャニオンの入口まで暴走した。
ロウワー・アンテロープ・キャニオン(Lower Antelope Canyon)
有名なアンテロープには(ロウワー)Lowerと(アッパー)Upperにキャニオンがあり、別々のナバホ・インディアン家族が経営している。コロナ以降、階段と遊歩道を歩いて地上を巡るように新設計された全長200mのアッパー・アンテロープ・キャニオンとは違って407mのロウワー・アンテロープ・キャニオンは川底を歩きながら自然の美術品を観察することができるのが魅力的だ。
約37mの頭上から漏れる光が絶妙な角度で岩肌を微かに照らす。周囲を自然の芸術作品で囲まれた私たちはシャッターを切り続ける。私たちが写真撮影を目的とするグループだと知ってナバホのガイドさんが特別に長時間居られるように便宜を図ってくれた。キャニオンの出口は人一人やっと通れる超狭い穴だった!
ホースシュー・ベンド(Horseshoe Bend)
ここはコロラドリバーが湾曲して馬の蹄鉄のような形をしているのでホースシュー・ベンドの名前が付けられている。駐車場から乾燥した平坦な赤い道を片道約1キロ歩くと、330mの絶壁の下に川が見える。太陽の角度によって水の色が緑やブルー、オレンジに輝き、コロラドリバーのとっておきの顔に出会う。
グランド・キャニオンでは深すぎて(約1.6㎞)糸のように細く見えた川は、太陽の位置が変わるまでじっとエナメルのような滑らかな姿を見せていた。ここは国立公園でもインディアン保留地でもない。柵も手すりもなく全く自然のままなのが嬉しい。落ちたら自己責任で、ということだ。
ビーハイヴ・ロックアート(Beehive Rock Art)
ビーハイヴと呼ばれる蜂の巣のような独特な形をした堆積岩がユタ州、アリゾナ州やネバダ州にある。私たちが訪れたのはユタ州のビーハイヴ。何千万年もの間、大量の風と水の侵食にさらされた大地が無数の平行線状の巨大な洗濯板やビーハイヴと変化した赤い荒野だ。
砂漠に咲く雑草や小ぶりのサボテンがちらほら目にとまる。ここは誰が管理しているわけでもなく、車があれば誰でもくることが出来る場所だ。トイレはない。振り向けば、私たちのヴァンは大地の虫ケラのように点になっている。
陽が沈むと見守りの人がそろそろ時間だ、とでもいうようにゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。www.makikoishiharaphotography.com
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