北海道1: 南端―木古内(きこない)から松前へ|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第92回
どうめぐる?北海道
北海道新幹線に乗って北海道入りしたかった。残念ながら軍配が上がったのは格安の空路。大学時代の後輩を誘って7泊8日の北海道西巡りをするべく羽田から函館空港に飛ぶ。初めは欲張って北海道一周するつもりでいたがその広さは半端でない。わかりやすく比較すると、和歌山から岐阜、富山、能登半島に出て長野、埼玉、茨城、千葉、東京、名古屋、大阪を経て和歌山に戻るのと似ている。一回の旅行では厳しい。
一般には旅行会社が組む2泊3日とか3泊4日の団体旅行を何度か繰り返すパターンが多いようだ。私は自分の興味のある所へいくのが好きなので基本自分で計画を立てる。とは言っても7泊で巡りきれるわけもなく、西半分に絞った。僻地へ行けば列車の本数も減少だがその代わりレンタカー会社はかなり網羅されているのが心強い。今回、四回利用した。その都度異なった車種を運転できるのも楽しい。
松前に日本最後の城が
北海道のJR最南端の木古内駅で一日レンタカーを借り、松前港に直行。スルメと昆布で作る松前漬けの発祥地で知られるが、松前には日本で最後に作られた松前城(別名、福山城)がある。
初代藩主松前慶広によって1606年に築城され、江戸末期の1845年には主に津軽湾の外国船の警備のため改築された。しかしその後火災にあい城は復元され、1961年から資料館となっている。天守閣から津軽海峡を一望できる北海道唯一の城だ。松前城の背後には松前家の始祖、武田信玄を祀る松前神社がある。本州との交易の拠点であった松前には船荷や船乗りたちを取り締まる奉行所があった。実物大の御奉行様や役人の人形が置いてある座敷に上がって当時の雰囲気に浸るのも面白い。14棟の武家屋敷や商家が再現され、当時の城下町の様子を物語っている。
4月下旬から5月上旬に行けば1万本もの松前桜が咲き誇る桜の名所だ。250種のうち3種は松前生まれの珍しい桜だそうだ。
北前船(きたまえぶね)ー日本海の商船システム
松前港は北前船の交易港として歴史的な意味がある。北前船については福井県の記事(2022年3月号)でも触れたが能登も含め、日本の百近い港に寄港しながら各地の特産物を積み込み、大阪から蝦夷地(北海道)を一年で一往復(一隻につき)する江戸中期から明治30年代まで続いたシステムだ。
北海道へは米、塩、砂糖、酒、酢、綿、反物などを、北海道からは昆布、ニシン、鮭、鱈などの、海産物を運んだ。積荷は各港で売りさばかれ、その収益は今のお金にすると1億円に上ったという。それにより巨万の富と財を得た船主が各地に生まれた。
同時に日本の各地に物資が行き渡るようになり、船を200隻も持つ大船主も出現。北前船交易は日本の経済発展の原点だったと言える。
北海道の昆布がもたらした日本の食文化への影響は多大なものがある。醤油や味噌を作る職人も栄えてさらに貢献した。
そして私の二年前の記憶がこの松前でつながった。福井県の北前船船主、右近権左衛門の館に飾ってあったアイヌの衣装、それは権左衛門の船が北海道に到達した証だった。船員たちがかつて積荷作業をした桟橋前は今「道の駅―北前船松前」になっている。健脚なら車を置いて坂の上の松前城や城下町を散策するのもいい。
函館の夜
「道の駅―木古内」内にあるレンタカー会社で車を返し函館に戻る。ここで一言。函館といってもJR函館駅と新幹線の函館北斗駅は乗り継いで行けるが別々の駅なので要注意。そして函館空港とJR函館駅の間は15㎞、函館北斗駅は26㎞と少し遠い。タクシーかシャトルバスが便利。
私たちは函館港を見下ろすホテルにチェックイン後、海から吹く夕方の爽やかな風のなか、初日の夕食を求めて金森レンガ街へ繰り出す。運よく函館ビアガーデンに美味しそうなメニュー発見。旅行の第一夜を無事迎えられたことを祝して二人で乾杯!
函館山から見る夜景は前回訪れた時の混雑ぶりを思い出したので行かなかった。夕食に大満足した我々はホテルの13階浴場から見る夜景で十分だった。エネルギーは取っておかないと。先はまだ長い。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。www.makikoishiharaphotography.com
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