北海道4:十勝平野|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第95回
十勝平野
大雪山国立公園を抜け、十勝平野の緑街道をひたすら走る。この日の夕方帯広駅前でレンタカーを返却する予定なのでそれまで北海道の大自然の綺麗な空気を胸いっぱいに吸おう。
さてどこに行こうか?カナダで大陸横断ハイウェーを走っているとはるか彼方にポツン、ポツンとサイロのある農家が見えてくる。だがそんな農家に話を聞きに立ち寄るのはいいとしても勝手に観光客だからと言って「おもてなし」を期待するのは場違いだ。
でも狭い日本に住んでいる人たちにとって広大な北海道のファームランドは憧れの的。そういう観点から観光客用の施設を運営する農家が十勝平野にはあちこちにある。
農場の一部を大規模なガーデンにしたり、「十勝チーズの道」と称してチーズ工房巡りを促したり、眺めのいい所にカフェ、アイスクリームショップなど、立ち寄りたくなる設備を整備して訪れる人を待っている。
ナイタイ高原牧場
国立公園内の糠平温泉(10月号記)からナイタイ高原牧場までは約40㎞。道にはサインがあちこちに出ているわけではないのでGPSに頼るのが一番安全だ。
ゲートから7㎞、丘を走り標高800mの高原に着くまでのドライブは一気に走ってしまってはもったいないほど雄大で美しい。WiFi付きのガラス張り展望カフェテラスでアイスクリームを舐めながら遠く寝そべる牛の群れを眺める。ナイタイはアイヌ語で「奥深い沢」の意味だそうだ。
1700ヘクタールの牧場の広さは日本最大で1972年に公共牧場としてオープンし近隣の牛約2000頭を預かって放牧しているという。オンタリオ州には大型(2000ヘクタール以上)の農家は50軒ほどあるが、ナイタイ高原牧場の広さはそれにほぼ近い。夜7時までゲート内に入れるが、テラスは5時に閉まる。
この辺は上士幌(かみしほろ)町といって8月になるとバルーンフェスティバルがあるそうだ。全国から集まったカラフルな気球が緑のカーペットの上に浮かぶ光景はシュール感たっぷりに違いない。
十勝ヒルズー丘の上のガーデン
ナイタイ高原牧場から南下すること約1時間。北海道の名高い8庭園の一つになっている十勝ヒルズは「農」と「食」をテーマに季節の野菜、草花を楽しませてくれる。私たちが行った6月中旬はまだバラの満開には少し早かったが咲き誇った様子を想像すると充満する香りまで漂ってくる。
車椅子やベビーカーの無料レンタルもあり、赤ちゃん連れのママさんたちが楽しそうに散歩する。ペットも可。家族連れならレジャーシートやガーデンピクニック、庭遊び道具などをレンタルすることができる。
庭園を一巡りした後、ガーデンカフェ『庭から』で一服してランチを食べる。ここの畑で採れた野菜を使った料理が新鮮でとても美味しかった。目の保養やアイデアにガーデンショップで販売しているガーデニング用品やドライフラワー、手作り用品、雑貨、食品などを見るのも楽しい。
六花の森
案内書にはギャラリーがあると書いてあったが入り口の向こうにあったのは森の中に点在する小屋だった。
坂本直行氏がデザインした菓子屋、六花亭の花の包装紙は日本ではよく知られているが、彼の作品が6つの小屋に分かれて展示されている。
花柄表紙館、直行デッサン館、坂本直行記念館、直行絶筆館、サイロ(児童詩集)表紙絵館、ドネーター作品館など。
森を散歩しながらそして足元の草花を楽しみながら、丁寧にデッサンされた彼の自然に対する想いに共感してみたり…私の中でアートと自然がその場で一体化したユニークな時間だった。駐車場から離れた別の森には六花亭アートヴィレッジがあり、小川游、安西水丸ほか数人のアーティストの作品館があったが時間の都合上割愛した。
六花の森では北海道を代表する6種類の花(カタクリ、エゾリンドウ、ハマナシ、シラネアオイ、オオバナのエンレイソウ、エゾリュウキンカ)を育てている。カフェ併設のギフトショップで六花亭のお土産選びに悩んだ末、一番気になる洋菓子は帯広のホテルで食べた。日本のスイーツは繊細でよろしい。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。www.makikoishiharaphotography.com
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