北海道5:帯広から白老へ|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第96回
帯広でアラスカを見る?
人口約17万人の小都市帯広。ここで一泊して早朝トマム駅向かう予定だった。しかし、運よく北海道立帯広美術館で「星野道夫写真展」をやっているのを知り急遽出発を午後に変更した。展示された彼のアラスカの撮影記録は南極圏やラブラドール北限へ行った私に語りかけるものが多かった。星野道夫氏(1952-1996)は北極圏の自然や人々の生活に魅せられアラスカを拠点に活動していたが、残念なことに44歳の若さでこの世を去る。彼は動物の表情に人間に通じるものを感じてシャッターを切っていた気がする。気持ちよさそうに陽を浴びているシロクマの看板写真は彼がカナダのハドソン湾で撮影したもの。
トマム駅
トマム駅は標高573m、北海道で一番高い所にある駅。トマムとはアイヌ語で「湿地」の意味だそうだ。無人駅でエレベーターもなくスーツケースを持って古い階段を上り下りせねばならない。想像するに、一般にはJR〝以外〟の手段で来るようだ。
トマムが有名な理由の一つは星野リゾートがあること。我々も話のタネに予約しておいたのだが、まさか駅が階段とは。
運よく列車の到着に合わせて来ていたホテルの送迎バスの運転手さんが駅構内まで助人にきてくれた。元自衛隊員だったこのお兄さんの筋力と優しさに感謝(ちなみに帰りの運転手は手伝ってくれなかった)。
星野リゾート・トマムというところ
サービスのシャンペンを飲み、部屋へ。ゲレンデが目の前にあり冬は楽しそう。さて気になるお食事。レストランは散在していて連絡通路を何本も歩いていく。やっと待たずに座われそうなところを見つけて安堵。で、朝食はどこにする?勧められたレストランは遠く、朝の列車に間に合わなくなるので諦めた。
日本最大級のプール(ミナミビーチ)や露天風呂は敷地内を循環するバスでいく。限られたルートでカートも乗り回すことができ、我々も短時間のお遊びに没頭した。正式な牧場ではないが牛や馬も飼っていて都会客には大うけだ。〝売り〟の「雲海」は早朝でないとみられないが、私たちもロープウェーで標高1088mの展望台からさらに山を登り、雲海抜きで、クラウドウォーク、クラウドプール(ハンモック式)など体験する。目の前に悠然と広がる日高山脈が雄々しく青く美しい。
一言。1983年にスキーリゾートとして出発したこのホテルは改良改築のため資金が必要となり、所有権を2015年に中国の投資会社に売却した。それが理由か中国客が多い。だがその後も目まぐるしく投資会社が変わっている。ある記事によると星野リゾート経営者の星野佳路氏は「投資」と「運営」の分離をビジネスモデルの旗印に、投資でなく運営(レストランや客へのサービス)に徹するのだとか。
スキーに来てみないと冬の状況はわからないが、今回泊まった経験から私が個人的に感じたのは私たちよりもかなり若い世代をターゲットとしていて、リゾートに泊まること自体を主目的としてくる人に遊んでもらおうという趣旨のようだ。
白老(しらおい)のウポポイって何?
苫小牧駅まで(石狩線+室蘭線)JRを使う。駅でレンタカーを借り、約30分で白老へ。幾枚ものコンクリートアートの壁の間を通ってウポポイに入る。森の情景を描いた壁の一枚一枚がデジタルに彫刻されていてハッとするほど幻想的。森の響きが伝わる。
2020年にオープンし、日本のアイヌ文化振興拠点となったウポポイ(民族共生象徴空間)は四季を通してイベントを行なっている。敷地、1万㎡、国立アイヌ民族博物館は8600㎡(東京の武道館は5178㎡)と広大でウポポイ内にはアイヌ式家屋、デモンストレーション、パフォーマンス、など色々なイベント用の建物もある。博物館の展示室はモダンで明るく見やすい。鮭の皮で作ったブーツを初めて見た。
衝撃的だったのは上映室でみたドキュメンタリー映画だ。大昔のアイヌ民族の品々がソ連やヨーロッパに過去に渡ってしまっていること。日本が今になって建てた博物館にも展示できないアンティークの数々が流出していた。遅かった!とは言ってもウポポイは大いに行く価値がある。
苫小牧で車を返し、千歳空港から羽田に飛び10日弱の北海道の旅に幕を下ろした。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。www.makikoishiharaphotography.com
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