ジェトロ・トロントとカナダ投資庁主催「カナダIT投資・イノベーションセミナー」
6月11日に開催されたセミナーでは、AI研究で世界を牽引するカナダにおいて、すでに投資、共同研究、協業を行う日系企業によるパネル・ディスカッションのほか、人材、コスト、移民に寛容な政策等で優位性を持つカナダの投資環境について、トロント、モントリオール、エドモントン他各都市の投資誘致機関によるプレゼンテーションが行われた。
最初に登壇したジェトロ・トロント所長の酒井拓司氏は、カナダへの投資を通し日系企業の進出支援に力を注いできたジェトロの役割について説明した。いまだ中小企業の間ではカナダ市場への注目が低いとしながらも、AI産業の実績や移民の受け入れへの積極性など魅力を紹介し、「ITやAIで日本企業の可能性が広がることを願う」と結んだ。
続いて駐カナダ日本国特命全権大使の石兼公博氏は、4月の安倍首相のオタワ訪問で太平洋における日加の多面的で具体的な協力方針が決まったことは成果に値するとし、特にCPTPPの発効は「日本とカナダの投資関係を一層促進する重要なものだ」と強調した。さらに、大使館としても投資環境の整備に積極的だとコメントした。
ジェトロ・トロントの江崎氏は、カナダのエコシステムの魅力を説明。2017年から多額の予算が確保されAIが国家戦略として位置付けられているといい、地域的にも、カナダはトロントをはじめに多数のハブを持つ。「それぞれの地域が強みや特徴を持っており、関心に合わせて検討してもらいたい」と語った江崎氏。最後に、人のつながりや政府や地方自治体の積極的支援などにも言及した。
続いて挨拶したNGenのDirector、マクレオード氏は、スーパークラスターの重要性について言及。スーパークラスターとは、連邦政府が資金を提供し、企業や団体が協力して集中的に研究開発を進めることで、「新ビジネスや新商品の創出を促す」ものだという。カナダ政府も既に多額の資金を投入しオンタリオ南部では経済に活発な影響を与えているというが、投資を促すことでカナダ企業が新市場にアクセスしやすくなり、新技術を創出していく今後の更なる展望を語った。
第一部:パネルディスカッション
★モデレーター:カナダ投資庁長官 イアン・マッケイ氏
パネリスト:デンソー 田中裕章氏、富士通 木船雅也氏、三菱電機 三輪祥太郎氏、ハイク・ベンチャーズ 安田幹広氏
既にカナダの技術に注目し投資している日系企業をパネリストとして招き、カナダのビジネス環境の良さを知ってもらい、第一の投資先として提案したいという思いからこのパネルディスカッションが行われた。
マッケイ氏: なぜカナダに投資を始めたのですか?
田中氏: 新たにAI分野での研究を考えていた時に、一番ベーシックな研究が進んでいるモントリオールに魅力を感じました。製品につなげるスタートアップ企業があり、エコシステムが充実しているのも魅力でした。
木船氏: ローカルな大学と研究していくうえで、トロント大学は弊社に魅力的でした。トロント大学の先生方は企業との共同研究で18年以上も経験があり、日系企業のやり方を理解してくれており、政府の支援もありました。
安田氏: 投資でリターンを多く得たい私としては、タレント性が高くエコシステムが構築されていて、バリエーション評価額がリーズナブルだったのが決め手でした。あとは、シリコンバレーは既に比較的飽和状態である一方、カナダはこれからの市場なので早めに入りたかったのもあります。
三輪氏: AI分野において、アメリカや中国で著名な研究者とコネを持つのは難しいですが、エドモントンのアルバータはそれが可能でした。研究員として大学に滞在する際の研究費用もアメリカと比べ抑えられるので魅力的でした。
マッケイ氏: カナダと日本の共同研究の違いは何ですか?
木船氏: 本質的な部分では違いませんが、カナダでは学生と協力していくイメージですね。先生も協力的ですし、汗をかいて一緒に課題や技術を問題解決する感じです。
田中氏: 大きな違いはそんなにないですが、日本はどこか丸投げ体質なのに対し、北米では、学生もリアルに仕事をすることができ、課題にも意欲的に取り組んでくれます。先生方も意義を理解し、企業とのモチベーションにズレがないよう課題を提示してくれるので、いい方向に進んでいきやすいです。
マッケイ氏: 日本でカナダ市場が注目されないのはなぜですか?
安田氏: 注目されてることはされてます。シリコンバレーから戻った人もいますし、ビジネス面でも知見がたまっていて魅力的です。サンフランシスコとトロントがNBA決勝で戦いましたが、実はスタートアップでも同じ地域で戦っています(笑)。日系メディアが取り上げる前に手を出すのが賢いと思います(笑)。
マッケイ氏: カナダにおける共同研究での商業活動の挑戦はどうですか?
三輪氏: カナダはAIテクノロジーでリーダーシップをとれる研究者がいて、アドバンテージがあります。エコシステムの出来上がってるトロントではテクノロジー中心で、学術的な範囲では企業プロダクトとの間にギャップがあるように思いますが、海外は自分で進めるというスピード感はあります。
マッケイ氏: シリコンバレーと比べて、カナダのエコシステムでびっくりしたことは何ですか?
田中氏: テクノロジーに関しては、モントリオールはベーシックな研究に熱心で驚きました。スタートアップ企業もそれを受けて製品化するプロセスを持っているので、そのようなエコシステムをうまく使い、弊社も製品化が早まるのではないかと思っています。
マッケイ氏: スタートアップ企業の特徴は何ですか?
安田氏: まずはバックグラウンドの重要性です。思い入れのない問題を解決しているビジネスだと途中で撤退するケースも出てきますが、それでは投資家として困ります。また、問題をスピーディに解決する素質も求められています。
マッケイ氏: 学生からのコンタクトはよく来ますか?
三輪氏: エドモントンではスタートアップ企業の数や外部とのパートナーシップはもともと少なかったですが、最近だんだんと増えてきていて、学生と企業が議論したり、学生がスタートアップ企業に魅力的なプレゼンをする機会は増えています。
マッケイ氏: 最後にコメントをお願いします。
田中氏: カナダに来て北米のビジネスの仕方や仕組みが全然違うことに驚きました。スタートアップは3か月経つと存在するかわからないですからね(笑)。いかに仕事を続けるか考えるのが、反省も含め大事だと思っています。
木船氏: アメリカやカナダで様々な方と共同研究をしていくうちに、カナダでは何をやっているか説明することが重要だと気付きました。わからないことはディスカッションしていくことが大事だと思っています。
三輪氏: カナダでビジネスをするために重要なのは、計画書を年2回は必ず見直すことです。計画通り進んでいても、順調ならば早く達成できるようなスピード意識が必要です。
安田氏: 日本人は論理的な国民で考えてしまいがちですが、エコシステムにどう貢献できるか長い目で考えていくことが大切だと思います。「先に貢献する」という考え方がトロントに根付いていることを意識したほうがいいと思います。
第二部:カナダ各地の投資誘致プレゼンテーション
カナダ各州の代表者により、投資誘致のためのプレゼンテーションが行われた。各都市が地域的特徴や特性を活かして独自に発展しており、AIやIT産業の受け入れに積極的だ。
アルバータ州エドモントン
シューチャック氏(エンタープライズ・エドモントン)、ジェリッツ氏(エドモントン・グローバル)
都市エドモントンは人口が比較的多く、ビジネスが参入しやすい税制度やアルバータ大学がある。アジアやアメリカの都市にもほど近い。ヘルスケア分野やオイル産業に優位を持ち、最近ではアグリフードの研究も進む。
オンタリオ州ミシサガ
ドレミン氏(ミシサガ市)
トロント西部に位置し、現在では多分野の日系企業も集まり、国際的に開けたダイバーシティが強みとなっている。サイエンス分野などで強みを持ち合わせ、最近ではAI分野も発展している。
オンタリオ州マーカム
チェイト氏(マーカム市)
ダウンタウンや空港も近く、トロントとミシサガと強固な協力関係を築く。イノベーションの交流が盛んで、スーパークラスターも規模が大きい。日系企業もも関心を寄せており、市も企業とのパートナーシップに協力的とした。
ケベック州
ユー氏(モントリオール・インターナショナル)、ヴィズダック氏(インベスティセメント・ケベック)
100の言語が飛び交い国際的な環境のケベック州。州一の都市モントリオールはニューヨークなど大都市へのアクセスも良い。AI分野のディープラーニングやビデオゲーム業界にも強みを持ち、日系企業も多く集まる。
ノバスコシア州
ブロテン氏(ノバスコシア・ビジネス・インク)
大学とのパートナーシップは市レベルで推進され、小さいコミュニティのため協力体制が大きいのが特徴。西アメリカやヨーロッパへのアクセスも良い。海洋分野やデジタルコミュニケーションが発展し、費用も抑えられるとした。
カナダ
阿部氏(カナダ投資庁)
優れた税制やAIの強みををカナダの魅力として挙げた阿部氏。カナダ進出の際は、カナダ投資庁が最初の窓口となり、プランニングや展開する段階で力強いサポートを行うと発言した。
経済開発雇用創出貿易省・パルサ大臣政務官の閉会スピーチ
パルサ大臣政務官は、「オンタリオ州の価値は、日本との関係の強さにある」とコメント。協定の締結やエコシステムの向上で今後多くの分野でカナダ・日本の両企業の障壁は低くなり、今後も発展や利益が見込めるという。
オンタリオ州政府は「オープンな貿易投資を優先事項にしている」と強調し、具体的な税の引き下げを盛り込んだ2020年目標を提示した。国際的に開けた深いコラボレーション促進のためにビジネスをしやすい環境づくりを約束した。