ジャパンファンデーション・トロントで「動きの感覚:日本のスポーツ・ポスター展」のキュレーションを務めた北沢永志氏が講演
現在ジャパンファウンデーションで開催されているスポーツ・ポスター展に関連して、展覧会のキュレーションを務めた北沢氏が7月15日に講演会を行なった。この展覧会は1964年の東京オリンピックポスターなど昭和から令和にかけて生み出されてきたスポーツに関わる作品の数々を紹介おり、講演会では日本のグラフィックデザインとスポーツポスター、そしてデザイナーについて紹介・解説した。
北沢氏は、日本を代表するグラフィックデザイナーやアートディレクターらと交流を持ちながら、キュレーターとしての著名なほか、長年携わってきた「ギンザ・グラフィック・ギャラリー」(ggg)は、グラフィックデザインの聖地として世界的にも評価されている。
講演で一番印象に残ったのは、やはり日本を代表するグラフィックデザイナーの亀倉雄策氏の作品についての話だ。亀倉氏の代表作といえば、1964年東京オリンピックのシンボルマークとポスターである。北沢氏の解説でも出てきた陸上競技のスタートの瞬間を鮮烈に捉えた第2号ポスターのインパクトは陸上選手の緊張感や躍動感を捉えており、北沢氏はグラフィック史上最高傑作と評価されていると紹介した。
解説によると、100メートル走のスタートダッシュの一瞬を捉えたこのポスターは、高速写真が撮れない時代に、しかも暗闇の中で東京中のストロボを集めて撮影されたという。オリンピックのポスターに写真を使ったのは亀倉雄策が初めてだったそうで、ジャパンファンデーションに亀倉氏の東京オリンピック公式ポスターシリーズが展覧されているので、ぜひその力強さをリアルに体感してもらいたい。
そのほかにも札幌五輪、長野五輪などのオリンピックポスターの紹介をはじめ、佐野研二郎氏の世界柔道2003公式ロゴマークやポスター、ラグビー日本代表ポスターを紹介。同氏が関係した東京オリンピックエンブレム問題についても参加者からの質問に応える形で個人的な見解を述べた。
そのほかにも横尾忠則氏の日本ダービーポスター、最速の球技と言われる卓球のその一瞬をおさめた上西祐理氏による世界卓球大会ポスター、浅葉克己氏による日本の伝統美術をモチーフに制作された卓球大会のポスターなど数十点近くが紹介されたほか、「スラムダンク」などで知られる漫画家・井上雄彦氏が協力した日本車椅子バスケットボールの大会ポスターも紹介し、マンガやアニメーションは文字や写真以上に受け手の想像力を掻き立てる効果があると述べた。
また講演会の終わりには、スポーツポスターではない福田繁雄氏「VICTORY」が紹介された。これは、1975年のワルシャワ戦勝30周年記念国際ポスターコンクールグランプリの作品で、大砲から発射されたはずの砲弾が、その大砲自身に向かってぶつかろうとしており、戦争の無意味さを表現している反戦ポスターだと解説。戦争の愚かさをユーモアを持って表現しており、昨今のウクライナ情勢を背景に今こそ必要なポスターなのかもしれないと締め括った。
「動きの感覚:日本のスポーツ・ポスター展」はジャパンファウンデーション・トロントで9月9日まで開催している。