第78回「カナダの親の教育熱が社会に与える影響」|カエデの多言語はぐくみ通信
子どもにより良い教育を受けさせたいと願うことは、世界中の親に共通します。カナダでもその傾向は非常に強く、親の行動が少なからず社会に影響を与えています。
人気学区の住宅価格が上がる
カナダ全国紙The Globe and Mailによれば、10年前までは家を買う時の一番の条件は通勤時間だったが、今では評価の高い公立学校があるかどうかにシフトしています。私も経験がありますが、どの学校を選ぶかはママ友との大きな話題でした。学校の評価を決めるポイントは、主に州の一斉標準テスト(オンタリオ州ならEQAOなど)の各学校の成績を参考にしています。
評価の高い学校の近くに住むために、住宅の購入に平均以上の金額を払う家庭が多いようです。トロント都市圏では人気学区の住宅価格は周辺より4~7%高く、バンクーバー都市圏ではなんと10%以上の価格差が見られる地域もあります。
子どもが生まれる前から学区を考えて家を購入する夫婦も増えているとのこと。また、良い学区に住むために、無理な住宅ローンを背負っている家庭もあります。人気校の近くには年収の比較的高い家庭が集まるので、教育格差は収入格差と関係するとも言えます。
高級住宅地の子どもは私立へ
住宅価格と公立学校の評価の相関関係は、高級住宅地区には当てはまらないようです。カナダの有名高級住宅地にある富裕層の家庭の子どもは私立へ行くのが一般的なようで、そのため、それらの地域の公立学校は、必ずしも標準テストで良い成績を上げているわけではありません。
ただ、トロントのブライダルパス=サニーブルック=ヨークミルズ地区のように、一戸460万ドル(約5.3億円)もする超高級住宅街を擁するにもかかわらず、学校の評価が10点満点中8.05と高い学校が存在する地区もあります。
大学入学のための成績インフレ
The Globe and Mailの他の記事では、「成績インフレ」を問題として取り上げています。
カナダでは、ここ数十年で教師の成績の付け方が甘くなりました。特に、コロナで一気に成績の嵩上げが顕著になり、90%(A評価)以上の好成績の生徒が増えました。しかし、現実では、生徒の習熟度は下がっています。特に数学、科学、読解の力が著しく低下しており、オンタリオ州の統一テストでは、2024~2025年度の小学6年生の半数しか算数の習熟目標に達しませんでした(20年前は60%が達成)。
カナダには大学入試や共通テストがなく、大学の合否は主に高校の成績で決まります。希望の大学に入るため、生徒、保護者、または高校の事務局さえも、担当教師に成績の嵩上げの圧力をかけることがあるようです。
入学希望の生徒の成績が高いため、大学側も足きりの点数を上げざる負えず、自然と競争が激しくなります。そうなると、高校でまた成績を嵩上げするという悪循環が起こります。トロント大学では、新入生の成績の平均は、2006年では83.9%だったのが、2023年では90.2%にも上がっていました。
成績嵩上げの影響と対策
成績インフレの影響として次のことが考えられます。
- 成績に厳しい高校の先生が敬遠される
- 成績の付け方の違う先生のクラス間で不公平が起きる
- 進級や卒業がたやすいので生徒の習熟度が下がる
- 生徒が根拠のない自信を持ち後で苦しむ
- 本来は大学進学に向かない生徒も大学に入る
特に4や5の根拠のない自信を生徒に持たせることは、人生設計を狂わしかねません。十分な基礎学力がないのに大学に進学すると、カナダの大学は厳しいので勉強に付いていけなかったり、進学せずに就職したとしても仕事に影響するでしょう。
カナダの大学は、成績の付け方が違うカナダ全国、または海外の高校から生徒が入学します。そのため、1年生の間に生徒の学力を基準値まで上げるために厳しい課題を大量に課します。私の娘が大学1年生の時、いくら勉強しても成績が下がり、カナダの大学の厳しさを実感しました。振り落とされた生徒は専攻を変えたり、他大学に転校したり、または中退しますが、幸い娘は2年生に進級できました。
見せかけの好成績への対策として、入学選考にエッセイや面接を取り入れたり、出身高校のレベルによって成績を補正したり、州によっては独自の統一テストを実施する大学も出てきました。
フレンチイマ―ジョン校の増加
また、カナダの教育に影響を与えた親の行動には、フレンチイマージョンに子どもを入れる家庭の増加があります。フレンチイマージョンとは、カナダで1967年に発祥した公的な英仏語バイリンガル教育を指します。
私立に行かなくても子どもをバイリンガルにできると、教育熱心な親の間で人気となり、過去25年間で生徒数が70%以上増え、その人気に伴いたくさんのフレンチイマージョン校が新設されました。
ただ、フランス語で科目を教えられる教師の不足や、教師の質の問題、フランス語に馴染めず小学校を終えるまでに半数の児童が英語の学校に移っていくという問題があり、運用の難しさがあります。
本当に子どもに必要なものは?
人気学区への集中や成績インフレ、フレンチイマージョンの増加など、親の教育熱がけん引して社会現象を起こしています。また、その現象には光と影を伴います。
子どもに必要なのは、「良い学校」に通うことだけではなく、自分に合った環境で学び、着実に力を伸ばしていけることではないでしょうか。学校の評価や成績だけに目を向けるのではなく、子ども一人ひとりの可能性を長い目で見守る姿勢が大切なのだと思います。
https://www.theglobeandmail.com/investing/personal-finance/article-parents-paying-premium-live-near-top-rated-schools-cost/?fbclid=IwY2xjawTDPplleHRuA2FlbQIxMABicmlkETFPMUFWazBjTElXNkdTM01Nc3J0YwZhcHBfaWQQMjIyMDM5MTc4ODIwMDg5MgABHoCy4pFmUBeU2ifVEQq_KRpVz9J36lNu-F4MfedVyF2xU-U-zaA2KZG3UY65_aem_f-Ye11s4eYoS7LTWT9I6VAThe Globe and Mail, June 21, 2026 ‘The hard costs of easy As’
https://www.theglobeandmail.com/opinion/editorials/article-grade-inflation-canada-education-system/?fbclid=IwY2xjawTHcd9leHRuA2FlbQIxMABicmlkETFlOUY4cmlGalpDaElDQ2xDc3J0YwZhcHBfaWQQMjIyMDM5MTc4ODIwMDg5MgABHty1l0jXNCfR2Z8VeBgQVdaC8WwwlrO7YCnuukJtyVkuLtnxJLuwdqb2cs9T_aem_j7fnBNXzCAwVfhz_qGbs0Q
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