ポップアーティストの巨匠カナダに初上陸!AGOで「KAWS:FAMILY」展|特集「インタビューで綴る、文化の交差点 マンガ・アート・茶の世界」
世界的ポップアーティストとして知られニューヨーク州ブルックリンを拠点に活躍するKAWS(カウズ、本名ブライアン・ドネリー)の作品が、ついに初めてカナダに上陸した。オンタリオ美術館(Art Gallery of Ontario ; AGO)で9月27日より始まった展覧会「KAWS:FAMILY」では、KAWSの代名詞とも言えるポップなキャラクターたちがさまざまな形で展示され、来場者を楽しませる空間を作り出している。
キャリアの集大成集結
AGO主催の展覧会では、彫刻、ペインティング、スケッチ、広告風の作品などKAWSがこれまでのキャリアの中で制作してきた75点以上の作品を展示。AGO副館長兼チーフ・キュレーターのジュリアン・コックスさんがキュレーションを担当している。
1974年、アメリカ・ニュージャージー州出身のKAWSは、これまでのキャリアを通して時代を象徴するアーティストとしての地位を築いてきた。ストリートアーティストとして活動を開始し、広告に落書きのようなデザインを加える手法で名前を広げた。最近ではカートゥーンにインスパイアされたアートワークで特に知られ、これまでナイキやスプリーム、コム・デ・ギャルソンなどさまざまな世界的ブランドとのコラボ経験も持つ。その独特なアート手法に魅了されるファンは多く、インスタグラムのフォロワー数は450万人超、作品の落札額は10億円を超えるものもあるほど世界的人気を誇るアーティストだ。
ユニークに魅せるFAMILY
今回の展覧会のテーマは「FAMILY(家族)」。彼の家族をテーマにした作品はポップカルチャーの精神から生まれている特性を持ち、絵画やミニサイズの像、巨大彫刻作品に至るまで、形を変えてさまざまな場面で繰り返し生み出されてきた。作品としての「FAMILY」は、3つのキャラクターから構成されている。ミッキーマウスをモチーフにしたかのような「COMPANION」、タイヤメーカー「ミシュラン」のキャラクターであるミシュランマンをモチーフにした「CHUM」、そしてセサミストリートのエルモに似たキャラクターの「BFF」の3つだ。展覧会の入り口で来場者を迎える本作品は、人間とほぼ同じサイズのブロンズ像に黒っぽいペイントを施したアート作品になっている。人間ではない姿をしているものの、3つのキャラクターのサイズを変えることで親と赤ちゃんを含めた3人の子どもを表現し、まるで本物の家族のような雰囲気を醸し出している。
「FAMILY」も然り、KAWS作品の大きな特徴として挙げられるのは、どこかで見たことがあるような見た目をしたキャラクターたちの体に「×(バツ)」の印を入れている点だ。テレビアニメ「ザ・シンプソンズ」、「スポンジ・ボブ」、「スヌーピー」など世界的人気キャラクターをモチーフに、目を「×」に変えることで新しく息を吹き込ませ、彼のアートワークの代名詞とした。特に今回の展覧会では、シンプソンズに影響を受けた作品「KIMPSONS」をいくつも展示。KAWSがオリジナルキャラクターたちを自分なりにどのように解釈し、生まれ変わらせたのかをじっくり見ることができる。展覧会キュレーターのジュリアンさんは「有名なキャラクターを独自のアート作品に変えて表現する彼の手法はとてもユニーク。そういった作品からは、力強さを感じることができる」と魅力を語ってくれた。
日本からの刺激キャラクター作品の誕生
9月26日には、AGOでのメディア先行公開にKAWS本人が登場。今回の展覧会や自身の作品についての貴重な話を聞かせた。その中で、KAWS自身が日本に旅行をした際にとてもインスパイアされたという経験について言及した。実は日本と深い関係があるといい、90年代に東京を訪れてサブカルチャーに触れたことでストリートアートのプロジェクトに携わるようになった経緯がある。「日本旅行はとても大切な経験だった」と、今でも東京などを訪問しながら日本との繋がりを大切にしているというKAWS。もちろん日本語はできなかったためコミュニケーションには苦労したそうだが、街中で見た「シンプソンズ」のキャラクターに大衆文化の力を感じたという。「言葉は通じなくても、みんながそのキャラクターを知っている。キャラクターというのは〝ユニバーサル言語〟なんだと感じた」。この経験が、KAWSのキャラクターアートにも繋がっていく。
KAWSのもう1つの特徴は、同じキャラクターの大きさや色を変えたり作品の素材を変えたりすることで全く違った雰囲気のアートを生み出してしまうことだ。例えば、うつぶせに横たわったCOMPANIONは樹脂製で作られ、ピンク色をしたウサギのような風貌をしたCOMPANIONはファイバーグラス製、COMPANIONが手で目を覆い隠している「SPACE」という作品は木製とステンレススチール製だ。このような、同じキャラクターを元に別のものとして表現した作品が、展覧会の至る所に展示されている。似ていても1つとして同じものはないというユニークさが、KAWSの遊び心を表しているかのようだ。
拡張世界まで広がった世界観
今回の作品展には、AR(アグメンティッド・リアリティ)と呼ばれる現実世界を立体的に読み取り、仮想的に拡張する新しい手法を用いた作品も展示されている。AGO展示スペースGALLERIA ITALIAでは、AR作品「WATCHING」と「COMPANION(EXPANDED)」の2つを〝体験〟できる。ARの可能性についてKAWSは「ARによって実現され体験できるものを知った時、その可能性に惹かれた。これまで公共スペースで作品を展示してきたが、ARは作品の幅を新しい分野に広げてくれる」と語っている。
このAR作品を見るためには、スマートフォン(iPhone、Android両方可)で専用の無料アプリ「Acute Art」をダウンロードする必要がある。アプリを開き床に置いてある丸くて白い台に約1メートル離れた場所からカメラを向けると、目を隠しながら宙に浮いたCOMPANIONと、台の上に体育座りをしているCOMPANIONをそれぞれアプリを通して見ることができる。アプリを使って写真と動画撮影も可能。カメラを持ったまま動くと、AR作品を360度の角度から鑑賞することもできる。型にとらわれないKAWSらしさを楽しめる作品となっており、本展覧会の見どころの1つだ。
その他にも、グローバルな人気を誇る「BTS」のメンバー・J-Hopeのソロアルバム「MORE」のためにデザインした作品や、ナイキと日本のブランド「sacai」とトリプルコラボして作られたビビッドカラーが印象的なスニーカー、KAWS作品の元祖とも言える広告に落書きをしたかのような作品が展示されている。「FAMILY」のキャラクターたちを紙にインクで描いた下書きのような貴重な作品もあり、KAWSのアートをさまざまな角度から感じることができる。
キュレーターのジュリアンさんは、「KAWSの作品には日本文化や社会から深くインスパイアされたものがたくさんある。作品に与えた影響はかなり大きいものがあるので、ぜひ日本コミュニティーの皆さんには展覧会まで足を運んでほしい」と来場を呼びかけた。
「KAWS:FAMILY」は2024年3月31日まで展示される。入館料は大人30ドル、25歳以下とAGOメンバーは入場無料。展覧会の詳細はAGO公式ホームページへ。