物への敬意|金継ぎ開拓民のお茶休憩
Shuichi、てるてる坊主に日本酒はあげましたか?」Nuit Blancheでの展示を終えた翌日、生徒さんからメッセージが届きました。
展示当日は雨の予報だったため、てるてる坊主を作ったのですが、そのお陰か当日は見事な晴天に恵まれたのです。このメッセージを読んだ瞬間、笑みがこぼれたとともにじーんとしてしまいました。うちの教室に来るまで日本文化にさほど縁のなかった方が、子供のようなおまじないと工作に、お酒で労うという発想を持ってくれるなんて!ただの物に感謝の気持ちを抱くという意識がその方に根付いていることを知れて、とても嬉しい気持ちになりました。
Kintsugicaのクラスでは、実技に入る前に講義の時間を設けています。日本の文化、歴史、地理についてお話しすることで日本人がどのように森羅万象を捉えて行動してきたのか理解を深めていただき、金継ぎはその土壌の上に生み出された技法であるということを知って頂いています。特に、物への敬意を重んじる姿勢は日本特有であり、それは現代でも物の扱い方の違いに現れているように思えます。
〇〇供養などはその象徴的な例でしょう。日本には針供養からPC供養まで、あらゆる供養が存在します。物が使えなくなったり役目を終えたりしたときにただ捨てるのではなく、それぞれの物に対して労り、感謝とお別れを言う機会があるのです。
そのような心を持たず、金継ぎの表面的な部分だけを知った人が何をするかご存知でしょうか。ハンマーを持ち、器を叩き割って壊し、“日本の伝統的金継ぎ”だというのです。そこにあるのはエゴだけで、物への敬意も日本文化への敬意も存在していません。しかし、誰かが正しく教えなければ、その事実に気付くこともできません。
日本の文化は、目に見えないものや言葉にしづらいものを大切にするため、何かを説明する際に本質的な部分が抜け落ちてしまうことがあります。カナダでクラスを開くにあたって、それまで空気のように当たり前であった概念を丁寧に掬い上げ、言葉に起こし、わかりやすく説明立て、更に英語に翻訳する作業は中々大変なものがありました。
しかし、地道に種を蒔き続けた結果、日本的な文化が芽吹いてゆくのを目の当たりにした時は、本当に報われた気持ちになります。
勿論、てるてる坊主にはお礼の日本酒を振る舞いました。