未来を見据えてカナダのここに期待!|特集「エンデミック・カナダ2022」
コロナに始まりコロナで終わった2021年。パンデミックの影響を引きづりながら2022年の幕は開ける。多民族国家として、G7の一国として、多様性を重視するカナダについて2022年も引き続き期待されている「移民受け入れ」「性的少数派の社会的平等」「大麻合法化」に焦点を当てて紹介する。
本文=菅原万有 / 企画・編集=TORJA編集部
2021年に40・1万人の移民受け入れを実現移民の歴代記録を更新
1867年の建国以来、寛容な移民政策で知られ、外国人が永住権を取るのも他の国と比較して門戸が広いことで知られているカナダ。「住みやすい国ナンバー1」として名が挙がるなど、生活の質、教育、治安、福祉、雇用などにおいて優れているとされている。
カナダ政府は2021年から2023年にかけて、毎年40万人以上の新規移民を受け入れる目標
パンデミック以前は、毎月2万5千人から3万5千人の移民を受け入れていたが、昨年はパンデミックの影響で18万4千人にとどまっていた。カナダ政府は、2021年から2023年にかけて、毎年40万人以上の新規移民を受け入れるという目標を掲げることを発表したが、昨年12月のカナダ移民省(IRCC)のニュースリリースにて、2021年、カナダは建国以来2度目の40万人を超える新規永住者を迎えたことが確認された。また、年間の永住権取得の歴代記録を更新したことも明らかになった。
2021年6月以降、毎月一貫して3万5千人以上の新規永住者を受け入れ。
ここ数ヶ月は毎月4万5千人を超える新規移民数を記録し、目標を達成
IRCCは、パンデミック後の経済回復を支えるためにより多くの一時居住者を永住者に移行させるため、業務の転換を図った。この変更には、5月に開始されたカナダ経験クラス(CEC)候補者を対象としたエクスプレス・エントリー抽選会の開催や、カナダに住む9万人もの留学生、一時的な外国人労働者に永住権取得の道を開くためのパスウェイ6種の実現が含まれていた。パンデミック時には、カナダに住んでいた一時滞在者を永住権所持者へと移行させることに重点が置かれた。
これまでよりも更に多くの新規移民を迎え入れることを検討。
2022年2月10日までに新しい移民レベル計画を発表する予定
12月のニュースリリースにて、新移民大臣であるショーン・フレーザーは、
と続けた。
今年の最優先事項である目標を達成した今、IRCCは新たなマンデートレター(今後の政策の要となる具体的な指針を担当省庁に指示するための委任状)の発表を受けて、2022年に41万1千人、2023年に42万1千人とこれまでよりも更に多くの新規移民を迎え入れることを検討している。フレーザー氏は、2022年2月10日までに新しい移民レベル計画を発表する予定だと述べ、新計画がこれまでよりも更に高い目標を伴う可能性を示唆した。
カナダ議会、LGBTQ2Aの治療である「転換療法」の禁止を決議
世界で4番目に同性婚を合法化した国であり、世界でも最も早くから法改正などに取り組んだカナダ
2003年には、ブリティッシュ・コロンビア州とオンタリオ州で同性同士の結婚が認められ、2005年にはカナダ全土で同性同士の結婚が合法となった。性的少数派が法的に社会的平等権利を得るまでには長い道のりがあったが、大きな法改正が行われる背景には、活動家と当事者らの声が大きく反映されていることは言うまでもない。
そんなカナダだが、LGBTQ2(L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシャル、T=トランスジェンダー、Q=クィアーあるいはクエスチョニング、2=トゥースピリット、A=アセクシュアル)の人々を「治療」する「コンバージョン・セラピー(転向療法)」も、長らく存在してきた。
転向療法とは
転向療法とは、心理的または精神的介入を用いて、性的少数派を異性愛者に矯正しようとする疑似科学的で同性嫌悪的な試みである。カウンセラーと話しながら進めていく会話療法や嫌悪療法、電気ショック療法、同性愛者の指向を薬物や酒の依存症と同じような問題として扱う手法、他性行為の強制、ロボトミー、化学的去勢などの非人道的な手法が用いられてきた。
当然のことながら、性的少数派でいることは病気ではなく、セクシュアリティは「矯正」されるものではない。医療機関は、転向療法の実践が無意味で潜在的に重大な有害な結果をもたらす可能性があると警告しており、調査の結果、転向療法を受けた人の多くが不安やうつといった症状を呈し、自殺や自傷を試みる確率も高いことも示されてきた。
最新の国連の報告書によると、現在、少なくとも68カ国で転換療法が行われており、いまだにこの転換治療が法的に禁止されていないため、多くの性的少数派の子供たちが苦しめられているという現実がある。
このような状況下で、カナダの与党である自由党は、2020年からたびたび「LGBTQ2Aの治療を禁止する法案」を提出してきた。ところが、2020年3月に提出した法案はCOVID-19の影響で議会が停止し、可決が断念され、2021年6月に再提出した法案も9月の総選挙に伴う議会の解散で可決されなかった。
2021年12月、カナダ議会は保守党と自由党が全会一致という珍しい形で、悪名高き「転換療法」の実施を禁止する動議を可決
法案の可決により、転向療法を行うことで5年間の実刑、カナダ国内国外での治療の強制も同罪となり、また転向療法に関する宣伝の強制撤去をした大人へも誘拐罪や監禁罪、暴行罪などの実刑の求刑が可能となった。
自由党の閣僚の一団は、採決後に保守党の同僚と抱き合った。ジャスティン・トルドー首相の特別顧問を務め、自身も同性愛者であることを公言しているランディー・ボワソノー観光大臣は記者団に対し、
と続けた。
カナダから見るマリファナ合法化のあと
カナダが大麻の娯楽的使用を合法化してから2年が経過
合法化当時は反対派の声も挙がったものの、大麻使用による罰則や起訴、そしてそれらが課す負担が特に黒人カナダ人や先住民といった、社会から疎外されたコミュニティーに不釣り合いに及んでいる刑事司法制度の不平等に対処できると政府は公言していた。
実際に新法により所持罪はほぼなくなり、大麻所持の非犯罪化はより公平な司法制度の構築に向けた一歩と考えていいだろう。2018年、10月中旬に合法化が施行されるまで警察は2万6,402件の大麻所持を記録していたが、2019年のカナダ統計局によると、その数は46件に減少した(しかしながら30グラムを超えるマリファナの所持は依然として違法である)。
トロント大学の社会学教授で、カナダにおける人種問題と警察による暴力について研究しているアクワシー・オウスベンパ氏は、
とNew York Timesに述べている。
2021年カナダ大麻調査から判明した事実
●大麻を使用する者の半数以上が、闇市場ではなく合法的な入手先を選んでいる。
53%が普段の入手先として合法的な店舗を回答し、2020年の41%から増加したのに対し、11%が合法的なオンラインから大麻を入手していると回答した。
●カナダ人の10人に7人は、大麻の使用について十分な情報を得た上で意思決定するための信頼できる情報にアクセスできていると感じている。過去12カ月間に大麻を使用した人のうち、およそ10人に9人である。
●合法化が大麻の積極的使用を促すという意見があったものの、過去12カ月に大麻の使用を報告した16歳以上のカナダ人の毎日あるいはほぼ毎日の大麻の使用頻度は、2020年(25%)と2021年(26%)でほぼ変化がない。毎日あるいはほぼ毎日の使用も、16歳から19歳では横ばい(21%対19%)である。だが、20歳から24歳では増加(2020年23%対2021年29%)している。
●過去12カ月間に大麻を使用したと回答した16歳以上のカナダ人の割合は、2020年の27%から2021年には25%に減少した。
●COVID-19は、大麻の使用にも影響を与えている。過去12カ月間に大麻を使用した人に、パンデミックによって大麻の使用量に変化があったかどうかを尋ねたところ、49%が同じ量の大麻を使用していると回答。2020年の56%から減少したが、29%は使用量が増えた(2020年の22%から増加)、22%(2020年から変化なし)は使用量が減少していると回答。
●過去12ヶ月の大麻使用後の運転(16%)は、2020年の結果(19%)と比較して、過去12ヶ月の大麻使用を報告した人の間で減少している。
まとめ
世界では今、グリーンラッシュと呼ばれる「合法大麻」ビジネスが活況を呈し、北米や欧州、アフリカ、中南米、アジアなど世界各国は大麻を合法化し経済成長している。先進国としては初めて大麻の合法化に踏み切り、世界をリードしているカナダの今後の動向に注目である。