今夏マリファナ合法化から考えるカナダの狙いとマリファナの可能性|特集「カナダの社会ニュース・時事問題を深読み解説!」
カナダに来たばかりの日本人の中には「マリファナ=悪」という概念が強く植え付けられているかもしれないが、ここカナダでは事情が違う。事実、LCBOはマリファナ合法化に伴い展開するマリファナショップのロゴ、名称、ブランドガイドラインの作成のために65万ドルを広告会社に支払ったことを認めたことは記憶に新しい。この金額にカナダ政府がどれだけマリファナ産業に力を入れているかが見てとれるのではないだろうか。日本人にとって遠そうで実は身近であるマリファナ問題に今回はフォーカスをあててみよう。
そもそもなぜマリファナを合法化するのか
当初はあと数年してからマリファナが合法になると話されてきたが、トルドー首相の発言によると今年の夏を予定しているようだ。オンタリオ州の発表によると、19歳以上で購入可能、実店舗以外にオンラインでの購入も可能になる。今までの法律だとマリファナは医者の処方箋がある場合のみ、医療用マリファナとしてライセンスを所持する店にて合法で購入可能だが、トロントだけでも数百の違法取扱店が存在し、警察も見て見ぬふり、または追えていないのが現状である。世界的にマリファナを完全に合法としている国は数か国に限られ、南米やヨーロッパに多いのはマリファナの「非犯罪化」と言うグレーゾーンな扱いである。非犯罪化とは、交通違反をして切符を切られて罰金を払うことで行政罰を受けるものの前科が付くような刑事罰にはならない、という意味だ。勿論、これが合法化になると行政罰、刑事罰の両方とも対象にはならないのだ。
そんな中、なぜカナダがマリファナを合法化しようとしているのだろうか。トルドー首相が所属するリベラルは、「現在のマリファナ排除のシステムは上手く作用しておらず、若い人のマリファナ利用を防げていない。よって多くの国民が少量のマリファナ利用により犯罪歴がついてしまっている。また、この犯罪を取り締まるのはコストがかかりすぎる。そのため、以前より厳しい新しいシステムを作り、マリファナ関連の法律を整えることによりこれらを防止する」と説明している。しかし使用者が多いとされているマリファナは暗黙の了解で合法となっているのが現状だ。これを踏まえ、酒やたばこのようにマリファナにも税金を課すことで、税収入を増やしていくことが狙いではないかと言われている。
確かに冒頭でもあったように、トロントでは違法のマリファナ取扱店が乱立し誰もが簡単にマリファナを入手できてしまう。街を歩いていてその独特な匂いを嗅ぐ機会の多さを考えれば「現法が機能していない」と言う主張は頷けるのではないだろうか。罰則についても日本の大麻の所持、取引は5年以下の懲役(営利目的の場合は7年以下)や罰金になる。その一方、2018年現在カナダでは、大抵は罰金になるくらいで済み、最長の懲役である2年が課せられるのも大量のマリファナを販売した場合くらいのものだ。
合法化するにあたり、これからまだ課題は残っている。飲酒の場合と同じく、使用時は車の運転を制限する法律の整備をし、厳しい制限や罰則を作ることは薬物使用によって引き起こされる犯罪の防止になるだろう。
法的、そして実際にマリファナを目にすることが増えてくる私達の精神的な面での準備は必要になってくるこの合法化の動きだが、これによって正規店が作られ、ルールを守らない違法店が減るため、わざわざ違法店に流れる人も必然的に少なくなってくる。その上、この産業から多くの税収入が見込めるため、マリファナを使用しない方にとってもプラスが多くなると言えるだろう。
マリファナ合法化でプラスが多そうな一方でネガティブなことも
ここまでマリファナ合法化による利点を挙げてきたが、もちろんネガティブな点も複数想定されている。まず、非正規店がそのまま生き延びる可能性がある。正規店が年齢制限を掲げ、マリファナを購入するのに高い税金を払うことが義務付けられるとなると、若年層や低所得者たちは違法店へ流れることは想像に難くない。しかし、ここでポイントになってくるのは違法店が使っている裏のマリファナ流通ルートが法律改正後に生き延びられるかどうかである。正規ルートになるためには様々な厳しい項目をパスし、税金も払わなければならないため、小規模の生産者にとってはかなり厳しい。仮にこのような厳しい目を潜り抜けて闇業者として続けられたとしても、合法化以前のような動きを取っていくことが難しくなることは間違いない。
次にマリファナを使用する目的でカナダに外国人が流れ込んでくる可能性だ。日本でも話題にあがっているカジノの合法化が、外国人にお金を落としてもらうことを目的としているように、マリファナの合法化を推進する国からすればマリファナ目当ての外国人はいわばお客様である。しかし、そこには確実に招かれざる客も含まれているだろう。どれほど法律を厳しくしたとしても、国に流れ込んでくる人数が増えれば必然的に犯罪は増えてくる。その状況を許せば、常習者が街に溢れてしまい、街の雰囲気や治安にも関わり、観光客を招待するしないの騒ぎではなくなってしまう。それだけでなく、マリファナが酒やたばこと同じ立ち位置になり、人々の生活の中でも身近なものになるため、使用者の母数自体が増える可能性も大いにある。事実、トロントより先にマリファナを合法化したオランダでは、常習者が増えてしまい、取り締まりが以前よりも厳しくなったという実例がでているのだ。
マリファナが医療品の救世主に
今回の法改正はマリファナを使用しているかいないかによって、受けるアドバンテージ、ディスアドバンテージが大きく異なってくる。それに加え、世界的に見ても前例があまりないため、実際に法律が施行されるまではわからない点も多い。だがその中でマリファナが医療目的で使われることによって人々が大きく恩恵を受けるのは間違いない。
現在カナダでは複数の会社がマリファナに含まれる化学物質「カンナビノイド」をベースとする医薬品を開発しており、この製品がアメリカで問題になっている鎮痛剤「オピオイド」への依存を軽減する新たな薬としても世界中から注目を浴びているのだ。カナダの医療用大麻を栽培するキャノピー・グロースもこのカンナビノイドに注目している会社の一つであり、彼らは2016年後半にはカンナビノイドをベースとした医薬品を製造し、特許を取得して政府から承認を得るためにキャノピー・ヘルス・イノベーションを設立した。同社の最高経営責任者であるマーク・ウェイン氏は「キャノピー・ヘルスのような企業が今後どんどん出てくる。要するに、医療用大麻2.0の到来だ」とも語っている。
実のところマリファナから作る薬品の開発はどの国も規制によって難しいため、合法になった暁には開発を後押しすることになるだろう。カナダ政府はこの最先端の新薬から得られる利益も計算の内なのかもしれない。