一眼レフが教えてくれる旅の時間 〜ポイントレイズを歩く〜|TORJAモノがたり|MONOGATARI
古いカメラは光を撮る。そんな言葉を聞いたことがある。僕が愛用しているカメラの一つは、2011年から使っているキヤノンのデジタル一眼レフEOS 60Dだ。カナダに来てから15年。ずっと大事に使ってきた1台だ。
この60Dの魅力は、海霧に包まれた朝の海岸、木漏れ日が差し込む並木道、夕方の犬の散歩、光を透かした花びら、そして人肌の温もりまで自然に残してくれる。写真を見返したとき、不思議とその日の光や空気まで思い出す。
この4年間、サンフランシスコを中心に何度かカリフォルニアを訪れた。今回初めて足を延ばした「ポイントレイズ(Point Reyes National Seashore)」は、海から流れ込む霧の様子を眺めたり、光が差し込む角度を確かめたり、少し立ち位置を変えながら風景の見え方を探したり、久しぶりに「ああ、旅先で大きなカメラを抱えて写真を撮るって気持ちいいな」と思えた場所だった。
サンフランシスコから車で約1時間半。ポイントレイズは、野生動物の宝庫としても知られている。半島北部では、トゥールエルクの群れが生息しており、運が良ければ草原を歩く姿を見ることができる。海岸沿いではアザラシやアシカ、沖合にはクジラが現れることもある。僕のような鳥好きにとっても魅力的な場所だ。海鳥から猛禽類まで数百種がいるとされ、歩いているだけで聞き慣れない鳴き声が聞こえてくる。
白い断崖に囲まれた穏やかな砂浜「ドレークビーチ(Drakes Beach)」は、16世紀にイギリス人航海士フランシス・ドレークが上陸したとされる場所に由来している。しかし、この海岸の主役は歴史ではなく、ゾウアザラシたちだ。近づくにつれて、それが巨大なゾウアザラシだと分かる。成熟したオスは4メートルを超え、体重は2トン以上になることもあるという。
霧の向こうから波音だけが聞こえ、ゾウアザラシたちは砂浜でじっと横たわっている。一般的な野生動物の写真であれば、その大きさや迫力を強調したくなるかもしれない。しかし、私は、あえて少し引いた構図を選んだ。手前には砂浜で眠るゾウアザラシたち。その向こうには波打ち際が続き、さらに奥には海霧に溶け込む太平洋が広がる。ゾウアザラシの写真でありながら、彼らが暮らすポイントレイズの風景そのものを残したかったのだ。
白い断崖も印象的だった。この断崖は海岸線に沿ってゆるやかに続き、ポイントレイズらしい景観をつくり出している。海霧が天然のディフューザーとなり、光を優しく拡散してくれる。岩肌の質感は過剰に強調されず、地層のラインが穏やかに浮かび上がる。派手な絶景ではない。しかし、あの場所で感じた潮風や湿り気を含んだ空気まで、一緒に写り込んでいるように思える。

100年以上前に植えられたモントレーサイプレスは、海から吹き付ける強い風に耐えながら成長し、今では枝を重ね合わせて大きな緑のトンネルをつくっている。


今回過ごした時間もそうだった。海霧に包まれたゾウアザラシたちと、静かなサイプレストンネル。写真として残ったのは一瞬だが、その場所で感じた空気は今も記憶に残っている。
スマートフォンでは便利さを、一眼レフでは少しだけ豊かな時間を手にしているのかもしれない。そんな小さな贅沢を、これからも大切にしていきたいと思う。




