カナダでゲーム屋三昧 新連載 #001
バンダイナムコ、カナダにきたる
みなさん、初めまして。中山淳雄と申します。
職業「ゲーム屋」、人がHotになるには何があればいいのだろう?を考えはじめて、はや2年半(短いです)、今回バンダイナムコのカナダ・バンクーバースタジオを立ち上げ、北米エリアでゲームを開発していくところの責任者をやることになりました。塩原さん(TORJA編集長)と日本人会で出会った縁で、とつぜんコラムまで書くことになりました。もともとリクルート、DeNA、デロイトと起業家精神たくましい土壌に育ったものでこうした新規開拓は大好物、かつ趣味で本をちょこちょこ書いておりましたので、まあせっかくなので何か面白いネタを提供できればと思い、筆をとりました。
みなさん、ゲームってどんな印象ですかね?スーパーマリオとかインベーダーゲームが懐かしかった時代と比べるとなんだか様相も変わってきていて、「なんか携帯でちょこちょこやってるくせに、えらい儲けまくっているアコギな商売」という感じではないでしょうか??これ、僕自身が入社前に言っていた言葉です(笑)。確かに携帯のゲーム市場は血気盛んに成長しており、ゲームセンターで5000億円、家庭用ゲームで5000億円という日本の市場で、携帯向けは2009年には数百億だったものが、2012年には5000億を超え、昨年は7000億近い規模に。なんと30年近い歴史のあるゲーセン・家庭用を、ほぼ5年くらいで抜き去ってしまったんです。僕はコンサルとしてここ10年くらいの産業マップを追ってますが、正直50近い産業で、かつ不況期の日本でダントツNo.1の成長だったんです。これ、異例中の異例なんですよ。
さらに面白いのは、じつは海外にもこんなのは起こってないんです。Facebookのゲームなんかもありますが、あれも世界中あわせて2000億強。10億人以上がいるSNSの売上を、数千万人の日本のゲーム向けSNSが2倍以上も上回っている。で、出てくる反応がたいがい「日本人はゲーマーだから…」というコメント。
そんなことないんですよ。80年代日本を中心に急成長した家庭用ゲーム市場でいえば、任天堂とかナムコとかナムコとか、他にナムコとかが海外で活躍したおかげで、米国や欧州のほうが日本よりも大きな市場になりました。そんな世界ゲーム市場を、90年代は7割方を日本のゲーム会社がおさえるというメーカーからみると信じられない状況があったんです。いまや3割をきってますが…。どうも日本のメーカーは後半戦が弱くて、デジカメしかりカーナビしかり、最初は世界中に君臨するのに最終的に負け越してしまう…。
まあともかく日本の特殊なゲームが世間を席巻している例はアニメでもコミックでも実証済ですが、ことゲームに関してはいままさに飛ぶ鳥落とす勢い。ゲームセンターも家庭用も落ち着いてきちゃったけど、携帯向けは毎年倍々ゲームで増えており、こないだ「任天堂を超えた」と言われるGungHoさんはたった1タイトルPuzzle&Dragonsというおそらく歴史上もっとも売れたゲームを開発し、2013年は売上1600億に営利900億!半分利益というなんとも恐ろしい状態に…。
なんだかんだ説明しながら、「なんか携帯でちょこちょこやってるくせに、えらい儲けまくっているアコギな商売」というところから一歩も動いていない感じもします(笑)。まあとにかくゲーム業界総出で10年に一度のゴールドラッシュな状況なわけです。そして出てきたバンダイナムコ、この会社はまさに後半に伸びるタイプ。誰もが知っているガンダム、ワンピース、ナルト、パックマン、鉄拳などなど超優良IPのゲームをいっぱい出しているそんな会社がもっともっと北米を攻めるぞ!勝てるまで帰ってくるな!というのが私のミッションでございます。
まあ儲けの話は1st Priorityになっちゃいますが、個人的にゲーム屋っていうのはストーリー、キャラクター、遊ぶためのゲーム性すべてを自前で作りこむハイパーなコンテンツで、「人がハマるっていうのはどういう状態か」を常に考え続ける面白い仕事なんです。僕は「気持ちのデザイン」って呼んでるんですが、どこかの島国の携帯電話のようにカメラもビデオもメールもテレビも全部入れれば便利!ってわけじゃないんです。人は場面場面で気持ちのうつりかわりのなかでコンテンツを遊んで、本当は「どう気持ちが成長していくか」「どう他人と関わりたいか」っていう導線をデザインして、楽しい道筋をつくってあげることが本当のコンテンツだと思うんです。そういうことを日本人向けだけではなく、世界中の人間を相手につくっていて、50年前に「どうやったらアメリカ人が醤油を味わうようになるか」を考えたキッコーマンのように、僕も人間の共通した遊び感覚をさじ加減で微調整しながら、職人の味を究めようとする。そんな気持ちでゲーム開発をしています。
「アコギな商売」かもしれませんが、そのなかにきらりと光る「人間を追究する」という気持ちを忘れず、チャレンジしていきたいです。ここの話、興味ある方は『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP研究所、2012)をぜひお読みください。宣伝です(笑)。また毎月、本業が危うくならない限りはコラム続けていきたいと思いますので、ぜひ応援お願いします。コメント頂けると翌月反映させた内容書きますよ~。また来月!
中山 淳雄
1980年宇都宮市生まれ。2004年東京大学西洋史学士、2006年東京大学社会学修士、2014年Mcgill大学MBA修了。(株)リクルートスタッフィング、(株)ディー・エヌ・エー、デロイトトーマツコンサルティング(株)を経て現在 はBandai Namco Studios Vancouer. Incに勤務。コンテンツの海外展開を専門に活動している。著書に『ボランティア社会の誕生』(三重大学出版:第四回日本修士論文賞受賞作、2007年)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHPビジネス新書、2012年)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHPビジネス新書、2013年)、他寄稿論文・講演なども行っている。