特別寄稿 東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第26回
昨日盛大なにぎわいをみせた日本酒フェスティバル、Kampai Toronto vol3。
このイベントに参加した岩手県、南部美人の蔵は3.11東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。南部美人の5代目である久慈氏は震災直後から日本酒を通じて地域復興に様々な取り組みを行ってきた。TORJAでは久慈氏が体験したこと、復興に向けての取り組みなどを寄稿してもらった。
東日本大震災後の被災地では様々な問題点が上がってきています。あまりにも問題点が多くてどれが問題か、ということがはっきりと言えないほどなのですが、その中でも大きな問題の1つに雇用の確保の問題があります。
特に岩手県の被災地の沿岸部は、震災前から人口減少、少子高齢化の問題が取り上げられており、仕事も漁業などの限られた職種が多く、若者が定住しにくいと言われておりました。そこに東日本大震災で、最大の仕事の場であった漁業が壊滅状態に追い込まれ、復興してきてはいますが、まだまだ震災前の水準には程遠いです。
震災前まで漁業などで生計を立てていた人たちは、震災後、復興工事関係の仕事についたり、町役場や市役所などの臨時職員で働いたりしておりましたが、これらも一時的な仕事であり、もともと漁師だった方々の仕事はやはり海にあるはずで、それが元通りになるまでは職場の復興とは呼べません。
そんな中、新たな希望の光と呼べもするし、地域にとって大きな爆弾とも呼べる雇用の場が出来ました。日本の 大手スーパーマーケットの「イオン」が被災地に建設され始めたのです。釜石市をはじめ、陸前高田市など、比較的震災前まで規模の大きい沿岸市町村とはいえ、今回の震災で甚大なる被害を受けた地域でもあります。
イオンの建設には賛否両論がありました。賛成される方は、雇用の場をつくれる、若者が地域に残ってくれる、などの意見がありましたし、反対する方は、今までの商店街がすべてつぶれてしまう、という意見がありました。
確かにイオンのような大手は大きな雇用を地元に生み出します。しかも老若男女、全ての時代の方々が雇用対象になり、特に震災後、若者の地元離れが相次ぐ中、イオンのような雇用の場は若者を地元につなぎとめる最高の仕事の場であると私も感じています。
しかし、古くからある商店街などは、完全にお客さんをイオンに持って行かれます。ただでさえ、震災前から小さな商店街は過疎化で苦しんでいる中、震災でのダメージもあり、人口減少がさらに加速していくのに、イオンのような「黒船」に来られたら、まさに商売ができない店も出てくると思います。
どちらの意見も正しいところがこの問題で難しいところですが、間違いなく言えるのは、震災がなければ釜石も陸前高田もイオンが来ることはそうそう無かった、という事です。これを共存共栄できるかどうかがこれからの地域の課題で、目の前の不利益よりも、長い目で見た将来の利益をどう考えられるか、このままにしておくと、どんどん若者は盛岡や北上などの内陸の仕事が選べるところに移住していってしまいます。
若者がいなくなった町は、今は何とかなるかもしれませんが近い将来存続が危ぶまれます。漁業という素晴らしい仕事の場があり、それが早く復興してくれば、仕事のバランスもとれるような気もしますが、なかなか難しい問題で、私たちも長い目で見ていかなければいけません。イオンは黒船なのか、救世主なのか、今は答えを出せないのが現状です。
■イオンタウン釜石ホームページ sc.aeontown.co.jp/kamaishi/node/902
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人
http://www.nanbubijin.co.jp
東京農業大学客員教授
久慈 浩介