東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第34回
5月に行われ盛大なにぎわいをみせた日本酒フェスティバル、Kampai Toronto vol.4。
このイベントに参加した岩手県、南部美人の蔵は3.11東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。南部美人の5代目である久慈氏は震災直後から日本酒を通じて地域復興に様々な取り組みを行ってきた。TORJAでは久慈氏が体験したこと、復興に向けての取り組みなどを寄稿してもらった。
陸前高田に「北限のゆず」という宝があり、東日本大震災以降、この「宝」を何とか利用して復興につなげられないか、連日陸前高田市に通う日が続きました。
ゆずを栽培している農家の皆さんと打ち合わせるため、そして現地での北限のゆずの可能性を探るため、南部美人の酒蔵のある二戸市から陸前高田市まで車で3時間30分のロングドライブです。二戸市からは東京まで新幹線で約2時間50分ですから、それはそれは遠いドライブとなりました。陸前高田では、岩手県大船渡農業改良普及センターの職員である佐藤さんと連携をとり、ゆずの農家の皆さんと打ち合わせを重ね、「北限のゆず研究会」を立ち上げる事にしました。
主体は農家の皆さん、そこへ、ゆずをしぼったりするのを手伝いたいということで、福祉施設の「あすなろホーム」さんが加わり、研究会を結成しました。そして、南部美人はサポーターとして参加する形にしました。これは南部美人をはじめ、これから協力してくれるであろう企業の皆さんが、遠慮なく参加できるようなシステムにするように考えられた形になりました。
北限のゆず研究会が動き出し、まずは、陸前高田にどのくらいゆずがあるのかを調べることにしました。以前から陸前高田にはゆずがたくさんあったそうですが、それらは計画的に栽培されていたものではなく、自然にできていたものも多く、農作物として積極的に栽培されているものではない、という事がわかりはじめました。
そうなると、各家庭に生えているゆずの木を調べていかなければいけなく、これは重労働でした。さらに、そういった方々がたくさんいて、話を聞いていくと、ゆずはもうやりたくない、ゆずを刈り取るのがとても重労働で、トゲもあるので取りにくく、さらに人もいないので、積極的に関わりたくない、というネガティブな話が多く出てきました。
今までは庭になっていたゆずを、見える部分だけ刈り取り、それを産直にちょっとだけ売って小遣いにしている程度の認識だったため、「北限のゆず」がどれだけ宝なのかあまり最初は理解してもらえませんでした。
しかし、北限のゆず研究会の皆さんの説得や、説明のおかげで、個人のゆずの木を持っている方々も、ゆずの協力をしてくれる方々が増え始めてきます。 それと並行して、今後「北限のゆず」をどう生かしていくか、長期の計画を練ることも始まります。それは、陸前高田の復興につながる大事な部分で、どちらかと言うと、この部分に最初は大きな力を入れて取り組みました。
そしていよいよ、北限のゆず研究会が立ち上がり、あっというまに2012年の11月を迎え、初のゆずの収穫が始まります。
しかし、ここで、大きな問題があることがわかりました。北限のゆずを刈り取る「人」が圧倒的に足りないことがわかりました。専門的にやっている農家の皆さんの木のゆずはしっかり刈り取れ収穫できますが、個人の方々の木は全く収穫が出来ない事態に陥ってしまいます。この辺をどうしていくか、大きな問題になりました。
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人
http://www.nanbubijin.co.jp
本文:南部美人 五代目蔵元
東京農業大学客員教授
久慈 浩介