東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第36回
5月に行われ盛大なにぎわいをみせた日本酒フェスティバル、Kampai Toronto vol.4。
このイベントに参加した岩手県、南部美人の蔵は3.11東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。南部美人の5代目である久慈氏は震災直後から日本酒を通じて地域復興に様々な取り組みを行ってきた。TORJAでは久慈氏が体験したこと、復興に向けての取り組みなどを寄稿してもらった。
陸前高田にある宝物「北限のゆず」を使った最初のリキュールが出来上がりました。その数は360㎖で約500本。前回お話した通り、約500本のお酒を当社の流通で流して、岩手県内の酒屋さん、全国の地酒専門店さんで販売すると、この数は一瞬で無くなってしまいます。せっかく陸前高田の宝物「北限のゆず」を使ったリキュールの第1号ですから、広く岩手県内や全国で販売するのではなく、北限のゆず研究会と相談した結果、ゆずの生産を担当している陸前高田の産直の1つはなんと酒類販売免許を持っていることがわかり、それではこの約500本の北限のゆず酒は、その産直でだけ販売して行こうという事になりました。
1年かけて大事に大事にまずは地元陸前高田の方々に知ってもらい、飲んでもらう。そして復興支援に来ている全国の方々に、ここでしか買えない陸前高田の新しい名産品として認知してもらう作戦にしました。
さらに、ゆずの生産量を5年計画で試算したところ、ゆずの生産量は新しい苗木を植えていかない限り、この何十倍の量にはならないこともわかり、そうなると、来年以降もお酒の量は劇的に増えることが考えにくく、しばらくは地元陸前高田でだけ販売することで、商品に付加価値も付くことと、ゆずを販売した代金と、リキュールを販売した代金の2つが農家の方々に収入として入り、復興支援にもつながるという考え方から、北限のゆず酒は陸前高田の産直のみでの販売としました。
ところが、この北限のゆず酒の取り組みがテレビや新聞で大きく報道され、ありがたいことにたくさんの方々から「買いたい」「飲みたい」「復興支援につなげたい」という申し出が多くありました。
ほとんどが生産元の当社に連絡があるのですが、そのたびに「陸前高田に行かないと買えません」「当社では販売していません」という答えをしなければならず、もどかしい面もありましたが、1つ1つを丁寧に説明し、陸前高田でしか買えない「価値」をしっかりとお客さんにお伝えしたところ、文句を言う方は全くおらず、「その通りだ」「陸前高田に買いに行こう」というお話を多くいただきました。
実際に盛岡や一関、中にはわざわざ仙台から陸前高田まで北限のゆず酒を買いに来てくれた方々もいたようで、本当にうれしく思いました。
戸羽市長が、このプロジェクトを始めるにあたり、全面協力の体制を整えてくれたこと、そして私との会談の中で「陸前高田には何もなくなったけど、これから新しい産業や名産品を立ち上げ、明るい話題をいっぱい振りまいてほしい」という願いが少しはかなったかと思います。
実際に北限のゆず酒の話題はどんどん広がり、復興支援に来た方々がお土産にぜひ買っていきたいというところまできました。そうなると、やはりお披露目会をしたい、というお話が出てきて、落ち着く2月頃に陸前高田で「北限のゆずを楽しむ会」が出来ないか検討に入りします。しかし、陸前高田には結婚式や宴会などをやるホテルも会場もありません。どうなることか…
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人
http://www.nanbubijin.co.jp
本文:南部美人 五代目蔵元
東京農業大学客員教授
久慈 浩介