カナダの東。食べることで、この島にふれる。|特集「カナダのはじまり。ニューファンドランド島」|食の編集部
【セントジョンズの美食目的地】
ニューファンドランドを旅するなら、絶対に訪れたい美食の目的地
─Portage Restaurant
カナダ最東端、荒々しい海と豊かな自然に抱かれた島・ニューファンドランド。この地に息づく素材と文化を、繊細かつ現代的な感性で表現するレストランがある。「Portage Restaurant(ポーテージ・レストラン)」。セントジョンズの歴史あるウォーターストリートに店を構え、今やカナダ美食界を牽引する存在だ。
「Portage」の料理の核にあるのは、ニューファンドランドの食材そのもの。北大西洋の冷たい海で獲れるタラ、オヒョウ、エビ、ウニ、ムール貝は、身が締まり、旨味が凝縮された逸品。さらに、海岸沿いに自生する野草や山菜、クラウドベリーやパーフルベリーといった地元のベリー類、野性味あふれるジビエなど、この土地でしか得られない旬の恵みが料理に命を吹き込む。
2023年にはAir Canadaの機内誌《enRoute》の「Canada’s Best New Restaurants 2023」に選出され、地元食材を昇華させたコース料理が「土地を味わう旅」として高く評価された。さらに、2023年・2024年連続で「Canada’s 100 Best Restaurants」にTop 50入りを果たし、国内外の注目を集めている。
Portageは単なるレストランではない。ニューファンドランドという大地と海の物語を、五感で辿る体験の場である。この島を旅するなら、地図にないもうひとつの風景──一皿の中に宿る風土と出会ってみてほしい。
https://www.portagenl.ca/
トロントで出会う、ニューファンドランドの海の恵み
─「Richmond Station」の一皿に宿るFogo Island Shrimpの魅力
トロントのダウンタウンに佇む名店Richmond Stationで供される「Fogo Island Shrimp – buttered brioche, rouille, pickled fennel salad」は、カナダ東端の漁師町フォゴ島(Fogo Island)から直送される海老の魅力を、都会の食卓に洗練された形で届ける一皿だ。
北大西洋の冷たい海で育ったFogo Island Shrimpは、引き締まった身と自然な甘み、そして澄んだ海のミネラルを感じさせる後味が特長。小ぶりながらも噛むほどに豊かな味わいが広がり、上質な海老ならではの食感が楽しめる。
そんな海老を、焦がしバター香るブリオッシュに重ね、ピリッと辛味の効いたルイユソース、歯ごたえのあるフェンネルのピクルスサラダとともに仕立てている。
仕上げにはミクロハーブが丁寧にあしらわれ、目にも美しく、香りも豊か。食感・味覚・温度・香りがすべて計算された構成で、海老の個性が一層際立つ。
トロントにいながら、遥か東の島の恵みを感じられる逸品。シンプルながらも素材の力を最大限に引き出した、洗練の一皿である。
1 Richmond St W, Toronto https://richmondstation.ca/
アトランティック・カナダを代表するクラフトビール
─Quidi Vidi Brewery
セントジョンズのダウンタウンから車でわずか10分。断崖と入り江に囲まれたクイディ・ヴィディ村(Quidi Vidi Village)の静けさの中に、カナダ東端を代表するクラフトビールの拠点がある。訪れると、醸造タンクの向こうには美しい湾の風景が広がり、テラス席では地元食材を使ったフードトラックの料理と、ビールのペアリングが楽しめる。
1996年の設立以来、地元向けの小さな醸造所としてスタートし、2023年には「Atlantic Canada’s Best Brewery」にも選出。エアカナダのenRoute誌では、「土地と水と文化が織りなす、“飲む旅”がここにある」と評され、訪れるべきブルワリーとして特集された。
代表作「Iceberg Beer」はその名の通り、北大西洋から回収した実際の氷山の水を使って醸造されるピュアなラガー。他にも、「Day Boil Session IPA」「Calm Tom Double IPA」「Bog & Barrens Berry Ale」など、ニューファンドランドの自然・歴史・言語をラベルと味わいに織り込む感性が光る。
https://quidividibrewery.ca/
世界の果ての美食体験
─Fogo Island Inn Dining
カナダ・ニューファンドランド島の沖合に浮かぶ小さな島、フォゴ島(Fogo Island)。その北端に佇むFogo Island Innは、ラグジュアリートラベラーや美食家たちの間で、“世界で最も意味のある宿泊体験”として語り継がれている。だが、ここを特別な存在にしているのは、その建築でも自然でもない。食の体験だ。
Fogo Island Innのダイニングは、2024年版のCanada’s 100 Best Restaurantsで高評価を受け、ラグジュアリートラベル誌Condé Nast TravelerやForbes Travel Guideにも特集されるなど、今や国際的なガストロノミーの最前線に立つレストランとなっている。
料理の中心にあるのは、“アイランド・キュイジーヌ”という概念だ。地元の漁師、猟師、フォレージャー(野草採集者)たちとの密な関係のもと、食材の90%以上をニューファンドランド産で構成。北大西洋の冷たい海で育つタラ、ウニ、ホタテ、ロブスター、さらに山菜、クラウドベリー、チーズ、ラム肉など、すべてが“この土地でしか出せない味”である。
例えば、ある日のディナーコースは、海藻バターで香りづけした真鱈のポシェから始まり、根セロリのスープ、ベリーでグレーズしたアイスランド種ラムのロースト、そしてデザートには塩キャラメルのタルトと発酵クラウドベリーのソルベが添えられる、と紹介されていた。
食事は全面ガラス張りのダイニングで、刻々と表情を変える海を眺めながら楽しめる。まさにそこにいるからこそ感じられる特別なひとときとなるだろう。
https://fogoislandinn.ca/
【グルメイベント】
ニューファンドランドの海と台所を歩く
─ガストロノミー・フェスティバル「Roots, Rants and Roars」
大西洋の果て、ニューファンドランド島の小さな漁村エリストン(Elliston)。この断崖の町で毎年9月に開かれるのが、フーディー注目のガストロノミー・フェスティバル「Roots, Rants and Roars」だ。
2009年に始まったこのフェスティバルの名は、地元の食(Roots)、音楽と語り(Rants)、そして会場を包む海鳴り(Roars)に由来する。舞台となるエリストンは世界でも有数のパフィンの営巣地であり、自然と文化の共存する希少な土地だ。
目玉のひとつは「Cod Wars(コッド・ウォーズ)」。カナダ各地から集まったトップシェフたちが、ニューファンドランドの象徴であるタラ(Cod)を使った料理で競い合う人気イベントだ。大西洋の絶景を前に、一流の創作タラ料理を食べ比べる非日常体験が待っている。
もうひとつは「Hike & Feast(ハイク・アンド・フィースト)」。これは自然のトレイルを歩きながら、地元食材を使ったコース料理を“途中で出会う”という体験型ダイニング。海沿いの小道を進むと、林の中や断崖の上で設えられたダイニングステーションが現れ、一皿ずつ料理が提供される。料理はその日限りのコラボレーションで、まさに“旬と土地”の一期一会。
地元食材へのリスペクトが核だ。料理には北大西洋の魚介類(タラ、ロブスター、ムール貝、ホタテ)、島のベリー(クラウドベリーやブルーベリー)、野草、地元のチーズやラム肉などが使用され、“ニューファンドランドの台所”を体感できる構成となっている。
今年の開催は、2025年9月19日と20日だ。フェスティバル情報やチケットは公式サイトを確認しよう。
https://www.rootsrantsandroars.ca/