日本人による日本人のための法律相談 ー 第3回 マリッジ・コントラクト
マリッジ・コントラクトとは、離婚することになった場合の財産の分け方や金額、サポートの有無やその金額などをあらかじめ決めておく契約書です。法的には夫婦でない場合でも配偶者としての権利や義務が発生する場合があるので、同居を始める際にアグリーメントを作成することも一般的です。
日本人には馴染みのないマリッジ・コントラクトですが、「車を運転する前に保険に加入するのと同じ」だと考えれば、納得できるかもしれません。事故を前提に運転する人がいないよう、離婚を前提に結婚する人もいないでしょう。しかし、万一のために備えておくことは、大切なことなのです。
◆マリッジ・コントラクトの良いところ
マリッジ・コントラクトを作成しておくことで、離婚時の精神的、経済的ストレスを軽減することができます。財産分与やサポートの金額が決められてあれば、離婚によって配偶者に大金を支払わなければならないと悩んだり、突然家を追い出され路頭に迷うのではないかと怯えたりすることがなくなります。
また、マリッジ・コントラクトでは、法に縛られることなく当事者の意思を尊重できます。ふたりが同意できるのなら、自由な取り決めが可能となるのです。
もう一つ、マリッジ・コントラクトの作成費用は、離婚時に必要なセパレーション・アグリーメントのそれよりはるかに低いのが一般的です。マリッジ・コントラクトでは、互いへの愛情から相手の立場に立つことができるからではないでしょうか。
◆マリッジ・コントラクトで決めておけること
マリッジ・コントラクトで決めておけることに、財産の分配方法や放棄、サポート・ペイメントの義務や放棄など、配偶者の権利と義務にかかわるものがあります。また、子どもの宗教の選択や教育方針を決めておくことも可能です。
一方、離婚に際しての子どもの親権やアクセス(面会交流)については、たとえ記載されていても執行力を持ちません。ですから、「マリッジ・コントラクトで決めておけば、離婚した時、子どもと一緒に日本に帰れますか」という質問へのお答えは、NOなのです。
◆マリッジ・コントラクトの執行力(法的効力)
マリッジ・コントラクトは、夫妻とそれぞれの立会人(witness)の署名があって初めて契約書として認められます。また次のような場合には、裁判所がマリッジ・コントラクトを無効と見なします。1.コントラクト作成時に財産や借金など経済状態の完全開示がなかった場合、2.どのような内容の契約に同意したか当事者が理解していなかった場合、3.うそや威圧などによって署名を強要された場合。
契約書の内容をすべて把握できないまま「署名しないと結婚しない」と脅されたり「形式だけだから心配ないよ」となだめすかされたりした場合、裁判所はそのマリッジ・コントラクトを破棄することができるのです。
◆経済状態開示とインディペンデント・リーガル・アドバイス(ILA)
マリッジ・コントラクトに執行力を持たせるためには、双方が自分の財産や借金、そして収入や支出の詳細を明記したファイナンシャル・ステートメントを作成しておくことが必要です。さらに、それぞれが別の法の専門職にアドバイスを受け、内容を理解したことを証明するILA証書を発行してもらうと良いでしょう。
カナダでは、離婚の時と同じように結婚の時も法の専門家を訪ねることが一般的です。人生のもっとも大切な決断のひとつである「結婚」をする前に、法律事務所のドアを叩くことは理性的な行動であると考えられているのです。
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野口ひろみ
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