こんなイメージ持たれているけど…カナダにまつわる “これはウソ”|特集「芸術に触れる春。 嘘も楽しむ四月。」|数字で見るシリーズ
カナダに来る前と来た後で、思っていたことや想像していたことと違う側面を見つけたこともあるのではないだろうか。カナダをよく知らない人から持たれているイメージというものは、カナダに住む私たちからすると「これはウソだよ」と言いたくなるものもあるはず。今回は、さまざまな角度からカナダにまつわるウソを紹介していく。
#01. 氷山は北極・南極でしか見られない
【嘘】カナダにも2000個以上
氷山と聞くと、南極や北極でしかみられないのではないかと思いがちだ。しかし実は、カナダでも数多くの氷山を見ることができる。
大西洋に面したカナダ東部のニューファンドランドには、「アイスバーグ・アレー」という氷山通りがある。タイタニック号が氷山と衝突した現場でもある沖合では、北極海から流れてきた1万年もの長い歳月をかけてできあがった氷河を見ることができるとあって、言わずと知れた観光地となっている。
氷山を全く見ることができない年もあるようだが、年によっては2000個以上目視できることもあるとか。氷山の近くまで行くことができるツアーも用意されており、興味のある人はぜひ行ってみてほしい。
- 氷山通り「アイスバーグ・アレー」
- 2000個以上の氷山を見られる
- タイタニック号が氷山にぶつかった現場
- 氷山を見るツアーもあり
#02. カナダ人は不健康
【嘘】平均寿命世界15位
長寿大国の日本から来た私たちから見て、欧米は食生活がファストフードだらけで不健康なように見えることもあるだろう。しかし実は、カナダも世界的には長寿大国だということを知っているだろうか。世界保健機関(WHO)の公表している各国の平均寿命ランキングを見てみると、1位に84.26歳の日本、そして15位に82.24歳のカナダがランクインした。日本との差は2歳でそこまで大きな差はなく、アメリカ大陸では1位の長寿を誇る。同じような食生活、環境であるはずのアメリカ(平均寿命78.5歳)よりもなぜカナダの方が寿命が高いかというと、カナダは医療費が無料であり、定期的に医療へアクセスすることができるからだと考えられている。
しかしその一方で、カナダの平均寿命が少しずつ下がってきているという悲しい事実もある。Statistics Canadaのデータによると、2021年には81.6歳だった寿命が2022年には81.3歳まで微減(WHOと集計方法が違うためデータに差あり)。2019年には82.3歳だったことと踏まえると、平均寿命が1歳減少したというのはかなり大きい意味を持つ。人生100年時代と言われる中、100歳以上の人口が約1万人にのぼるカナダも長寿国として生き残っていけるのか注目だ。
#03. 治安が良い国
【嘘】殺人事件の割合で銃犯罪1位
世界的に治安の良い国として知られているカナダだが、実はお隣アメリカの影響もあって銃を使った犯罪が多いことを知っておくべきだろう。ここではトロントに絞って傾向を見てみる。トロント警察のデータ(2019~2023年)によると、銃を使った犯罪件数自体は右肩下がりだということがわかる。
2019年は500件近かったものが、2023年には150件も減少し良い傾向を見せている。しかし公開されている今年3月10日までのデータからは、他の年と比べて同時期の銃犯罪発生件数が高い(2024年は82件。他の年は平均60件)。うち7人が死亡し23人が負傷したとのことで、決して楽観視できる数ではない。
全体として銃関連犯罪数は減少しているものの、トロントで起きた殺人事件のうち最も多い死因とは銃関連のものだ。これは2019年から一貫して続いている傾向で、2019~2022年は平均して年に43件の殺人事件に銃が関わっていた。2023年は29件にまで下がったものの、依然として殺人の割合のうち最も高い比率を占めている。2022年にはカナダ国内での拳銃売買や譲渡を禁じる措置がとられ、国として銃犯罪撲滅にむけた動きが活発化している。
#04. カナダ人は英仏バイリンガル
【嘘】5人に1人
カナダの公用語は英語とフランス語だ。ではカナダ人はみんなバイリンガルかというと、そうではない。2021年の国勢調査によると、英語が第一言語だと答えたのは75.5%で、フランス語は21.4%だった。また、5人に1人のカナダ人(永住権者含む)が英語とフランス語の両方を話すことができるバイリンガル。この数字はこれまでの調査で最も高い数字となった。フランス語圏として知られるケベック州では、バイリンガルが20年で6%上昇し46.4%、逆にケベック州以外では微減した(9.5%)。カナダで唯一公式にバイリンガル州として認められているニューブランズウィック州では、現在34%の人口が英語とフランス語のバイリンガルである。ちなみにオンタリオ州では、10.8%がバイリンガルだと答えている。
ダイバーシティに富んだカナダならではなのが、10人中4人は2つ以上の言語、11人に1人は3つ以上の言語を話せると回答していること。公用語は英語とフランス語だが、さまざまな言語が街の中で聞こえてくるのはおもしろい。
#05. カナダは若い国
【嘘】14000年前から先住民が生活
「カナダ」という国ができたのは、今から157年前の1867年。先住民の言葉であるニューロン・イロコイ語で村、集落を意味する「kanata」からカナダという名前が付けられたと言われている。先住民文化も多く残るカナダだが、先住民の歴史は今から1万4000年前の氷河期に北アメリカ大陸に移住し定住するようになったときから続いていると考えられている。シベリア地方からアラスカにかけて存在していたと信じられているベーリング海峡(陸橋)を渡り、先住民たちは大陸に進出することになったという。
カナダという国自体は歴史がまだまだ少ない国ではあるが、世界的に「地域」、「大陸」として知られるようになったのは、1492年のイタリア人・コロンブスがアメリカ大陸を発見した時からだと考えられている。しかし、実はその500年前の10世紀にはアイスランドの探検家であるレイフ・エイリクソンが現在のニューファンドランド島に降り立ったという伝承も残っている。真相はわからないが、長い歴史を経て今のカナダがあると考えれば興味深い。
- 先住民の言葉「Kanata」に由来
- 14000年前に先住民が居住スタート
- 1492年にコロンブスが大陸発見→ その500年前に大陸に上陸した人がいた可能性
#06. カナダは寒い国
【嘘】気温約50℃の記録あり
トロントでは「1年の半分は冬」と言われたり、アルバータ州やサスカチュワン州などでは毎年大雪が降り気温が−30℃以下になったり、どうしても寒いイメージがついているカナダ。実際、世界の国別で1年間の平均気温を比較してみた時、カナダは世界で最も平均気温が低いことがわかっている(平均−3.99℃)。しかし今年の冬は暖冬だったように、少しずつ「カナダは寒い」という神話が崩れつつある。また、実はカナダには“あり得ないほど暑い日”もあった。
カナダで最も暑い気温を記録したのは、2021年6月29日と最近のこと。その日ブリティッシュコロンビア州のリットンでは49.6℃というあり得ない気温を観測し、世界中で大きなニュースになった。これは1937年7月にサスカチュワン州で記録された45℃を超え、カナダ史上最高気温として記録されている。リットンは夏の平均最高気温は28℃前後だが、盆地に位置しているため突発的な酷暑になりやすい地域として知られる。湿度が高く多くの熱中症を引き起こす日本の夏でも、最高気温は41.1℃(埼玉県熊谷市で2018年)だということを考えると、ほぼ50℃という気温がいかに狂ったものかわかるだろう。
- 2021年6月29日 BC州・リットン 49.6℃
- 1937年7月5日 SK州・ミデール&イエローグラス 45℃
#07. カナダは子育てしやすい
【嘘】待機児童26%
「日本で子育てをしたくない」という理由でカナダ移住を検討している人もいるだろう。しかし、カナダの育児事情もそこまで楽観できるものではない。カナダの両親がひと月に費やすチャイルドケアの費用は2022年が649ドル、2023年には100ドル下がり544ドルだった。カナダ政府は2026年までにチャイルドケアにかかる費用を平均1日10ドルにまで下げるとしているが、そう簡単にいかないと言われているのが、そもそも保育の場所が足りないという問題があるからだ。
Statistics Canadaの調査によると、ちゃんとした保育の場所を見つけるのが難しいと考えている親は62%で、2019年の53%より増加。日本でも問題になっている待機児童については、2023年に5歳児以下の26%がウェイティングリストに載っているという現状がある。これは前年より7%も増えた数字だ。そもそもチャイルドケアを利用している子どもの数が、2019年の54%から2023年には48%に減少し(オンタリオ州)、その理由として保育料が高すぎること、そして保育のスペースが不足しているため仕方なく待機児童にならざるをえないことが挙げられた。チャイルドケアを利用しないことで、片親が仕事を辞めて家にいるか育児休暇を取得するかといった選択肢に限られ、仕事と育児の両立、また育児と収入のバランスなどの問題を家庭にもたらしている。
#08. カナダの医療費は無料
【嘘】税金を通して支払っている
カナダの医療費は“無料”だ。もちろん留学生などカナダの国民皆保険に加入できない人は、その“無料”の恩恵を受けることができない。医療費が無料と聞くと聞こえは良いが、実際は医療関係者の数が足りずに病院の待ち時間が長く(場合によっては数十週間)、病床数はOECD内でほぼ最下位といった悪い側面を持ち合わせているのがカナダの医療だ。
そして“無料”というのも実は違うのではないかという声が上がっている。というのも、なぜ医療費が無料かというと結局のところ税金で全て賄っているからだ。
Fraser Instituteの調査によると、1家庭あたり1年に726~4万1916ドルの医療費を税金を通して払っているという。この数字は、直接的な医療費として私たちが支払っているものではなく、所得税などさまざまな税金として私たちが払った税金のうち、カナダ政府が医療費当てた割合を計算して捻出した数字だ。
とあるシンクタンクの計算では、1997年以来平均所得が109.9%の増加にとどまっている一方で、カナダの家庭における医療費は177.6%上昇している。医療が無料なのは事実だが、その背景にある問題を知ることも必要だろう。
- 待ち時間が長い
- 病床数が少ない
- 医者の数不足
- 1家庭あたり1年に$726~4万1916ドル税金を通して支払い
#09. 合法化された大麻使用は安全
【嘘】入院患者10万人以上
2018年10月17日にカナダ国内で大麻が合法化された。青少年による大麻へのアクセスや犯罪、違法市場の取り締まりを目的に合法化されたわけだが、一般的に大麻は覚醒剤のような激しい身体症状が出にくく、中毒性も比較的低いと言われている。ガムやグミなどの形で大麻が販売されることもあり、今では簡単にどこでも手に入れることができるものだ。しかし健康被害が確認されていることも事実であり、合法化されたからといって100%安全なものというわけではない。
National Library of Medicineのレポートによると、2015年1月~2021年3月までの大麻による入院患者数は約10万5000人。うち3分の1は15~24歳の若者が占めた。合法化前(2018年9月以前)が5万9117人、合法化後(2018年10月以降)は4万6096人が入院している。危険な大麻使用が入院理由の半数を占め、次いで大麻依存症が理由として挙げられている。大麻自体は認められてはいるが、個々人の使用に関する意識が求められるだろう。
ちなみに、大麻が合法なカナダ国内においても日本の法律が適用される日本人が大麻を栽培、所持、譲受(購入含む)をした場合には罪に問われる場合があるので注意だ。
#10. カナダのどこでもオーロラは見える
【嘘】運が良くないと見られない
誰しも一度は見たいと憧れるのがオーロラだ。オーロラは気象の現状ではなくて宇宙の現象であり、地球でオーロラが見えるのは緯度60~70度の場所にあるオーロラベルトと呼ばれる場所のみ。カナダはその中に位置していて、オーロラを見ることができる国として知られている。しかし、国内どこでも見ることができるわけではないことはカナダに在住の皆さんならご存知だろう。カナダではホワイトホースとイエローナイフがオーロラ鑑賞地として有名だが、それでも必ずオーロラが出現すると約束されているわけではないから難しい。オーロラは夜の時間が長い冬に見える確率が高いと言われ、秋から春にかけて(大体12~2月ごろまで)が一般的なオーロラシーズンと言われている。
1週間滞在してやっと1回見ることができるか、運が悪ければ全く見られないこともある。ここで朗報だが、今年2024年11月~2026年3月まではオーロラ鑑賞に最高な時期なのだとか。太陽周期から考えて、この時期はオーロラが出現する可能性が高いという。オーロラ鑑賞を考えている方は、この間にぜひ計画を練ってみることをおすすめする。