【数字で見る】人もモノも運びます!西へ東へ カナダをつなぐ鉄道|特集「歴史とロマン、カナダの鉄道・駅物語 」
カナダを横断するには、電車に乗ってノンストップでも5日はかかるとか。東から西まで広大な土地を誇るカナダでは、その東西を結ぶ鉄道の役割は当然に大きい。人だけではなく、私たちの大切な荷物や商品まで運んでくれるから、その存在に私たちの生活も経済も支えられている。通勤、通学でもお世話になる交通手段である鉄道について、トロント民になじみのTTCやGOトレインも含めて深掘りしてみよう。
1. 国より長い歴史あり!初の鉄道は1836年
カナダの鉄道の歴史について簡単にふれておこう。最初の鉄道は、カナダ建国(1867年)より前へとさかのぼる。まだイギリス領だった1836年、モントリオール郊外にシャンプラン・セントローレンス鉄道ができたのが始まりだ。初期の頃の鉄道は、貨物ではなく10㎞程度の短い距離で石炭を輸送するために建設されたものだったという。現在カナダのシェアトップ2に君臨するカナダ太平洋鉄道は、当時世界最長の鉄道として1885年に開通した。1900年以降は経済成長の影響もあり鉄道事業が大きく盛り上がりを見せたが、第一次世界大戦によって移民が減少。資本不足から1923年までにグランド・トランク鉄道(1860年開通)など複数の鉄道会社が国営化され、1918年に開業したカナディアン・ナショナル鉄道と合併し巨大な国鉄ができあがった。かつて国の建設に必要不可欠とされた鉄道だったが、自動車の登場により存在感が薄れ始めたのが1920年代。旅客事業を積極的に行ってきたものの、政府は1978年についに多数の鉄道会社の旅客事業を統合しVIA鉄道を設立。1995年にはそれまで国鉄だったカナディアン・ナショナル鉄道を民営化させ、現在に至る。カナダに存在する主な鉄道としては、先に挙げた主要鉄道会社の他、オンタリオ州を走るオンタリオ・ノースランド鉄道やサスカチュワン州とマニトバ州で運行するハドソン湾鉄道などがある。
1860年 当時世界最長のグランド・トランク鉄道開通
1867年 カナダが自治領へ
1885年 当時世界最長のカナダ太平洋鉄道開通
1918年 カナディアン・ナショナル鉄道開業
1921年 TTC開業
1923年 複数が合併しカナディアン・ナショナル鉄道開通(国営)
1967年 GOトランジット開業
1978年 旅客輸送のVIA鉄道開通
1995年 カナディアン・ナショナル鉄道の民営化
2. 産業の85%を占める2大鉄道 CNとCPR
カナダの鉄道業界は貨物輸送と乗客輸送の2つに分けられる。貨物輸送がそのほとんどを占め、Statistaのデータによると2021年の貨物輸送による収入は150億ドルで全体の91%、旅客輸送は1億3100万ドルで8%にしかなっていない。貨物輸送といえば空路やトラック輸送といった方法もあるが、カナダの都市間輸送のうち70%は鉄道によるものであり、輸出貨物の輸送も50%が鉄道を利用したものだ(Railway Association of Canadaのデータより)。1年間で実に3500億ドルにも及ぶ貨物を国の端から端まで運んでいる鉄道が、カナダにおいていかに必要不可欠なものかは言わずもがなだろう。
カナダの鉄道業界は大きく2社が支配している。カナディアン・ナショナル鉄道(CN)とカナダ太平洋鉄道(CPR)だ。カナダ政府のデータによると、年間100億ドル以上を生み出す鉄道業界の総収入のうちCNが50%、CPRが35%。2つ合わせると国内の輸送トン数の75%を占めるという2大鉄道として大きな存在感を放つ。
3-1.<カナディアン・ナショナル鉄道>国内No.1ビル・ゲイツと深い関わりも
- 貨物専用鉄道
- カナダ東西・五大湖~メキシコ湾をつなぐ
- ビル・ゲイツが最大株主
1918年に設立されたカナディアン・ナショナル鉄道(CN)は、かつて国営だったが1995年に民営化。1978年まで旅客のための運行もしていたが、以降は貨物専用鉄道に変わった。大西洋側のノバスコシア州から太平洋側のブリティッシュコロンビア州までをつなぎ、その他にも五大湖からさらに南下しメキシコ湾まで線路を伸ばしている。そのカバーの広さから、カナダNo.1鉄道会社であるだけでなく北米でも大きな影響力を持つ。
マイクロソフト創業者のビル・ゲイツは2006年からCNに投資。その総額は160億ドルにもなるとされ、2021年にはCNの最大株主となった。2022年には株の12%を売却し、現在の持株比率は約9%と考えられる。ビル・メリンダ・ゲイツ財団の方でも約2%の株を保有し、ビル・ゲイツも注目する企業なのである。
3-2. <カナダ太平洋鉄道>背景に国と移民の歴史を持つNo.2
- 移民誘致キャンペーンに利用された
- 計1050kmを走る豪華観光列車がある
カナダのさまざまな土地を開拓し線路を作りながら1881年に会社が設立され、1885年に初の大陸横断列車として開業された。当時鉄道で東西が結ばれたものの、中央の広大な地域は住民もなく十分に開拓された状態ではなかった。そこで、カナダ太平洋鉄道はヨーロッパから移民を募り、CPRの船と鉄道を使った移動とCPRがカナダ政府から与えられた約10万平方kmの土地(中央地域)をパッケージ化して販売するという方法で、鉄道事業と国内の土地をうるわす方法をとった。カナダ中央の州で小麦など農作物が豊富なのはこの移民のおかげだと言われている。
2000年からはロイヤル・カナディアン・パシフィックという豪華観光列車の運行が始まり、毎年6~9月限定でカルガリーを出発し1050kmを走り乗客を楽しませている。
4. 世界5位の長さ!線路の合計約5万km
世界2位の面積を誇るカナダ。その広大な大地を走る鉄道システムは、世界的に見てもかなりの規模を誇る。The Canadian Association of Railwayによると、カナダの線路は合計4万9422㎞。そのうち鉄道2大企業であるカナディアン・ナショナル鉄道(CN)が49.1%の2万2186㎞を所有し、カナディアン太平洋鉄道は25.6%の1万1574㎞を所有することから、この2企業だけで国内の4分の3の線路を所有していることになる。
貨物輸送を主とするこの2社に代わり、国内の旅客輸送でトップなのがVIA鉄道だ。東西を結ぶVIA鉄道は、計1万2500㎞を走る(CNとCPRの持っていた旅客部門を政府が買収してできた歴史があり、線路は2社と大半をシェアしている)。
約5万㎞の線路を持つカナダだが、The Daily Guardianによると実は世界5位の長さだとのこと。1位は25万㎞と圧倒的な長さを誇るアメリカ、2位は10万25㎞で中国、3位にロシア、4位にインドと人口や面積比を考えると世界トップの国々が名を連ねる中、広大な土地を誇るカナダもトップ5入りを見事果たした。
5. 踏切事故は減少も、侵入事故は平均+12件
鉄道事故のデータなどを集めるTransportation Safety Board of Canadaによると、2018~2022年の鉄道関連事故は増加傾向にあると言えるような状況であることがわかる(連邦が管理する会社のデータのみ考慮)。2018~2019年にかけて微増していたが、2020年から新型コロナによるロックダウンなどの影響で外出する人口が減ったために事故件数自体は減った。つまり、ポストコロナの2023年以降再び右肩上がりになる可能性はある。しかし大事故はほぼなく、事故の半数は線路の切り替え作業中に起きる軽微な事故だと記録されている。
死亡事故とけがを伴う事故数は、2018年のけが人数が著しいのを除けば毎年平均110件程度だ。2022年の死亡事故66件の内訳は、踏切事故が14件(前年比3件減)、不法侵入が52件(前年比11件増)。踏切事故による犠牲者に関しては2012年から10年間の1年平均が22人であることを考えると、事故数は減少傾向にあると言えるだろう。一方の侵入事故は1年平均が40件だとされ、2022年は平均より数がかなり増えたことがわかる。侵入の理由は例えば自殺があるが、その他過去には住宅街を通る線路の周りで遊んでいた8歳の女の子が急に動き出した電車にひかれ右足を失った痛ましい事故があり、鉄道会社の対策が十分ではないという指摘もある。
6. 北米でNo.2!1年の利用者数70Mのユニオン駅
トロントで最も大きく利用者も多い駅は、もちろんダウンタウンに位置するユニオン駅だというのはみなが知るところだろう。国全体で考えても最も人が多く集まる駅であるユニオン駅だが、実は北米の駅の中でもトップクラスに利用者が多い。世界のデータを紹介するWorldAtlasによると、2019年と少し古いデータにはなるがユニオン駅は1年の平均利用者数が7200万人で北米第2位にランクインしている。
1位はアメリカ・ニューヨークのペンシルベニア駅で1億741万人、3位が撮影地などでも有名なグランドセントラル駅で6695万人だった。グランドセントラル駅は、単一の駅として世界最多の44のプラットフォームを持つ巨大な駅だが、それよりもユニオン駅の方が利用者数が多いというのは驚きの事実だ。
ユニオン駅はGOトレインやピアソン空港~トロント市内などを結ぶUPエクスプレス、カナダ全土をつなぐVIA鉄道など5つの鉄道とTTCといった地下鉄などさまざまな交通手段のハブ駅であるため、利用者数が多いのも納得である。
7. 年間7000万人が利用するGOトランジット
1年の利用者7000万人 → 91%がユニオン駅で乗降
カナダの鉄道を種類別に分類すると、カナディアン・ナショナル鉄道のような貨物鉄道、VIA鉄道などの旅客鉄道、そしてTTCのようなライトレール(地下鉄・路面電車)の3つが存在する。トロントとその近郊エリアを電車とバスで結ぶGOトランジットは、まさに旅客鉄道だ。1年間の乗客数は7000万人を超え(同社のデータより)、西はハミルトンとキッチナー・ウォータールーまで、東はニューキャッスルとピーターボロ、北はオレンジビル、そして南はナイアガラの滝までという1万1000平方kmもの広大なエリアでサービスを提供している。同社によると、全体のうち91%の鉄道利用者がユニオン駅で乗車/降車しているようで、グレーター・トロント・エリアに住む人々の通勤、通学、ちょっとした小旅行には欠かせない存在なのだろう。
ちょっとしたトリビアだが、GOトランジットでは日本でお馴染みの「右よし、左よし(英語では「Clear right, clear left」)」という指差しでの安全確認方法がとられているという。指差しが鉄道大国日本の安全運行に役立っているとGOトランジット関係者が関心を持ち、同社でも使ってみようと思ったのだとか。日本と少しゆかりがあるのはうれしい事実だ。
8. 開通はいつ?TTCの描く新ラインの未来
現在75の駅を持ち、路線合計は7㎞であるTTC。同社はその路線の拡大に積極的だ。見渡せば年中工事をしているような駅も見受けられるように、以前から新しいラインの建設、駅数の増加を計画。しかし人手不足やパンデミックによる工事の大幅な遅れにより計画が押しているのが現状だ。
もともと2020年に開通予定だったのが、エグリントン・アベニュー・ストリートに沿って東はケネディ駅、西はエグリントン・ウェスト駅よりさらに左側に位置する予定の新駅マウントデニスまでの25駅を1つにつなげるライン5だ。ライン5はライトレールという電気で動く車体を使った路面と地下鉄のどちらも走るシステムになるそうで、いつの開通になるかを今年中に発表するとTTCは明かしている。
もう1つのライトレールも建設中だ。フィンチ・ウェスト駅から西へ11㎞、18の駅をつなぐライン6は今年中に開通すると発表されていた。テスト走行も行われており開通がすぐそこまできていることを感じさせるものの、実際の見通しはいまだ立っていない。
さらにはケネディ駅より東側のスカボロー地域を走るライン7も計画されていて、18㎞を結ぶライトレールになるとのこと。ライン5などの建設に10年以上かかっていることを踏まえると、ライン7の開通はこれからさらに10年以上後になるかもしれない。
9. 70分→30分へ2031年開通予定のオンタリオライン
2019年、オンタリオ州はトロント近郊の鉄道・交通計画についてさまざまな計画を発表した。フィンチ駅から北にリッチモンドヒルまで路線を伸ばすこと、ライン4のドンミルズ駅から東に路線を拡大することなどの計画を出したが、その中で一際注目されたのが「オンタリオライン」の建設だ。ダウンタウンの南に位置するオンタリオプレイスとエグリントン・アベニュー・イースト沿いにあるオンタリオ科学センター間の15.6㎞の距離を、従来70分かかるところ30分未満に短縮するという新ラインは、当初の予定より大幅に遅れた2031年に開通予定とのこと。15カ所に新しい駅を作り、ラッシュアワー時には90秒に1本の頻度で走らせるという。通勤ラッシュで交通混雑がひどいと言われているトロントにおいて、新しいラインが問題解決に一役買うことが期待されている。