AIがもたらす世界|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明
AIの進化が人間生活に浸透してきた。AI君はスマホの中にもロボットの中にもコンピューターの中にも潜み、ひたすら勉強し続ける。その結果、我々人間よりはるかに多くの情報を一瞬のうちに解析し、正しいと思われる判断を導く。今はそれを「楽しい!」「すごい!」「便利!」と喜んでいるだろうが、AI君に振り回される時代ももう目と鼻の先だろう。
AIの話に必ずつきものなのがイギリスの作家、ジョージオーウェルが1949年に発刊した「1984」だ。70年前に将来の監視社会を描いたものだが、今読んでも何ら違和感なく読めるのが恐ろしい。すべての人は監視され、その行動はモニターされる、というあらすじの本を20年前に読んだならば「そんなことはないよな」と一蹴したが、今現在、我々の行動は相当把握されていると言ってよい。
中国ではよく、ほとんどの人が監視され、膨大な監視カメラを通じて罪人がすぐに摘発されるニュースをよく耳にするだろう。だが監視カメラは日本でもごく普通に、何処にでもある。そしてその性能は驚くべく進化を遂げている。
その結果、日本で殺人や強盗など、重要な犯罪の検挙率は8割を超えるし、最近の自動車を巡る事故はほぼ確実に犯人が割れるようになっている。テレビニュースで報じられるひき逃げなどの事件はほぼ確実に数日内に犯人が捕まるのは個人の情報があらゆるところでチェックされているともいえるのだろう。もちろん、非のない人の情報には目もくれないはずだが、一旦悪いことをすればとことん、足跡を洗うことが可能になった、とも言えそうだ。言い方を変えれば警察の仕事も現場100回からAI君頼みになるのだろうか?
今年1月にラスベガスで開催されたCESは世界最大のハイテクの展示会とも言え、注目は5Gだった。通信速度が今より飛躍的に向上することでスピードだけでなく、大容量、多重の接続が可能となる。この5Gの技術は今年から来年にかけて一般に出てくるのだが、これで新たにITの社会に大きなステップアップがあるとされる。
4Gになった時、我々は携帯からスマホに代えた。5Gになると例えば、医療の遠隔操作やネット上のオーケストラ演奏会も可能になる。特に自動車業界では自動運転の実用化に更に一歩近づくことになりそうだ。
問題は我々の生活への影響である。一度便利なもので味をしめると後戻りできないのが人間の性。例えばあなたはスマホからガラケーに戻れるか、と言えばとんでもない、と首を横に振るだろう。AIやIoT、ロボットに5Gがもたらす世界は人が人として苦労したり、苦手とする分野を十分に賄ってくれるともいえる。それに頼り、もたれ続けると我々は何故、生きているのだろうか、何を目指しているのだろうか、将来何をしたいのだろうか、という疑問を持つようになるだろう。
実際、世の中はコンサートやスポーツなどの観戦ブームとなっている。なぜ、リアルワールドに人が集まるかと言えばそこに共感、共鳴、賛同という人間らしい「つながり」を求めているからだろう。
言い換えれば5Gで高速でシームレスにつながる社会が出来れば、人間同士もよりつながりを求める時代が来るということではないだろうか?
最近、若い人に「将来は?」と聞けば「分からない」と答える人は案外多い。その背景を私なりに勝手に想像すると世の職業がテクノロジー革命に押され、10年後の業界地図すら描けないからかもしれない。そんな中、料理人になりたいとか、美容師になりたいという人は割と多いのだが、それは自分の世界を技能者として守れるから、という理由だったらどうだろう?
例えば仮にロボットがあなたの髪をカットしてくれるとしてもそこにサービスを求めるだろうか?美容師とよもや話をすることが美容室に行く楽しみだという人は案外多い。特に高齢者になると美容室の固定化が進む。料理人とは職を通じたクリエーションの業種。だからこそ、今までにないメニュー、あるいは一歩上を行く料理を生み出す面白さがあるに違いない。
将棋の藤井聡太クンの活躍ぶりは誰でも知っているだろう。仮に不敗のAI棋士が登場した場合、世の中は盛り上がるだろうか?否である。彼が中学生でデビューし、高校生という若さの中、夢と希望があり、普通の生徒との顔と使い分けるから盛り上がるのだろう。それゆえ、藤井君の昼めしのメニューがニュースの話題になったりするわけだ。
私はテクノロジーと人間生活、社会生活は区別をつけるべきだと思っている。そうしないと人間がそこにいる必要は全くなくなるからだ。失敗をする、100点満点を取れない、汗をかく、苦労する、怒られ、乗り越え、満面の笑顔がある…といった人間らしさこそが我々をほっとさせるのではないだろうか?
常に100点満点のAI君と付き合っていたら我々は誰の批判をし、誰の悪口を言うのだろうか?世のオヤジにしてみれば酒の肴がなくなるというものだ。人間とは失敗をしながら積み上げてこそ、成長をしていく動物だ。ドラマ「ドクターX」をご存じだろうか?米倉涼子演じる大門未知子が「私、失敗しないので」と言いながらも麻雀をすれば負け、いつもお金にピーピーしている、だけど手術させればサイコー、というアンバランスさこそがその面白さではないか。
いびつでもいい、未熟でもいい、だけど、前に進んでいくためにテクノロジーとうまく付き合うことがこれからの時代の処世術とも言えそうだ。
了
岡本裕明(おかもとひろあき)
1961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。