なぜ起きる、国家のいざこざ|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明
世界のあちらこちらで不和が起きている。我々の住むカナダも外交上、インドと不仲の関係になった。イスラエルではイスラム過激派ハマスと戦争状態に陥った。ウクライナの戦争はその行方が全く読めない。世界でなぜ急速に不和が起きているのだろう?戦後78年間の安泰の時は終わったのだろうか?
トルドー首相は外交下手
インドのシーク派指導者がバンクーバー郊外の都市で殺害されたことにインド政府が関係しているとトルドー首相は明言し、それ以降、両国は厳しい外交関係に陥っている。これをお読みの日本人読者の方には「へぇ、そんなことが起きているんだ?」という方もいらっしゃるだろう。
トルドー首相は正直、外交下手だ。中国とはファーウェイ副会長のバンクーバーでの拘束と人身御供となった2人のカナダ人の問題もあったし、2022年11月のG20の際に世界に生放送されている前で習近平氏によるトルドー氏への直接の苦言という一幕、更にはトルドー氏の行動や振る舞いにトランプ氏は血圧を何度も上げてきた。
これらはトルドー氏の外交下手ということもあるが、それ以上に世界の国々が繊細になっており、極めて神経質で綱渡りのような関係になってしまったのではないかと考えている。
根源はアメリカにあり
深く考えていくとアメリカにその根源を見出すことができるかもしれない。戦後、アメリカとソ連は冷戦関係で政治力や影響力に於いて世界を二分する関係であった。ところが1991年にソ連があっさり崩壊したところで世界地図は変わる。ちょっと難しい言葉でいうとパクスアメリカーナという。この場合の「pax」はラテン語の平和という意味でアメリカ一極時代とされ、それまでの地球を二分する関係からようやく平和が訪れた、という意味で使ってきた。
ところが、2001年12月に中国がWTOに加盟するや中国製品が瞬く間に世界を席巻し、日本でもアパレル業界は壊滅的打撃を受けた記憶がある方は多いだろう。その勢いに乗って2008年の北京五輪、10年の上海万博で中国は圧倒的な地位を築く。この辺りの経済成長ぶりについては日本の60年代の高度成長期と似ているのだが、唯一違うのは日本はアメリカの同盟国であった一方、中国は共産主義で権威主義を貫いていたという点である。つまり、せっかくパクスアメリカーナという平和の時代が来たものの20年もたたない間に実質的にアメリカは中国と超大国としての主導権争いを再度、始めたわけだ。
これがトランプ氏が大統領になった頃から更に勢いづく。その頃から世界はまた二極化に向かうのではと心配された。が、ここでコロナというほぼ3年間の外交停止期間が生まれ、世の中の歴史にクラックに近いギャップが生まれ、それが今、凶と出たというのが私の見方である。
事実、コロナになって直後の20年6月に中国は「国家安全維持法」に基づき、香港の統制を確固たるものにした。22年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が始まる。さらにはアフリカやアジアでも様々な紛争が起っている。一部の国では他国との連携化により争いを優位に進めようとする動きもあるが、多くは国対国の直接的な敵対関係であり、他国との連携は政治家の気休めにすぎないことも垣間見られる。
例えば今や世界一の人口となったインドは中国との国境紛争となっている。その中、日本、アメリカ、オーストラリアとのQUADがあると思えば中国やロシアなどとの連携であるBRICsという括りもある。大国インドはロシアから原油を買っている一方でQUADでは西側諸国と手を結ぶのだ。
パクスアメリカーナの終焉による混沌か?!
こう見ると世界中で紛争や仲たがいが起き、それが収拾するどころかむしろ問題が拡大しているように見える。
これがパクスアメリカーナの終焉による混沌ではないかと考えている。つまり、世界の国々をカリスマ性をもってリードする国がないのだ。わかりやすい例でいえばクラスに学級委員をやりたい人が2人かもしくはそれ以上になってきて誰が誰と仲良しなのかわからない状態だと言ってよいだろう。この問題の一つはアメリカがリーダーシップを放棄、いや放棄せざるを得ない状態になり、アメリカ国内ですら混沌してしまった自業自得がある。
もう1つは経済の進化と共に様々な国が声を上げるようになったことがある。もちろん、グループ化したい大国からの甘い誘惑もあるが、それ以上に自国に有利な政治的配慮を得るために各国の声が大きくなったといってよいだろう。
例えばクラスに金持ちのA君がいて、彼はいつもクラスメートにごちそうしたりお菓子を配っていたので彼を慕う子分は多かった。だが、子分であるクラスメートの小遣いが増えてA君の傘下に入らなくてもお菓子が自由に買えるとなればA君を支持するより自分がよりおいしいお菓子を買えるような動きをするだろう。
言い換えれば地球レベルのクオリティが上がったのだ。アフリカは貧しいと思っていても多くの人はスマホを片手にしている。そこには情報という切り口がより多くの人に瞬時に伝わるようになったと言えよう。
私のこの見方が正しいとすれば今後、世界は猛烈な混沌がやってくるはずだ。エゴイズムとなり協調などできない。第三次世界大戦は起きないがその代わり地域紛争があらゆるところで起きるだろう。アメリカも中国も期待できないとすれば日本は自力で立ち上がれるのか、これが即座に問われる時がさほど遠くないうちに来るはずだ。
きな臭い時代になったものだ。
了