世代をつなぐ若手の皆さんにバトンを渡すとき|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明
トルジャにコラム欄を頂戴して書き始めたのが創刊2号の2011年9月号。それ以来毎月つたない内容で大所高所から意見や異見を述べさせて頂いたが、そろそろ私もトルジャ引退の時期を迎えたようだ。コラムは本号が最後となり、12月号では少々早いが、2025年の10大予想、「今年はこうなる」をお届けして幕引きとさせていただくこととしたい。トルジャの読者の皆様には長くご愛読頂き、厚くお礼申しあげる。また塩原編集長を始め、多くスタッフのご協力に改めて感謝致したい。ひろのブログ「外から見る日本、見られる日本」(検索:外から見る)は引き続きオンラインで毎日更新となるので今後はそちらの方をご覧いただければ嬉しい。
て、トルジャのコラム欄の引退に当たり、「世代をつなぐ、若手の皆さんにバトンを渡すとき」と題したのは時代の流れを感じないわけにはいかないからだ。
私がバンクーバーに来たのは1992年初頭。それから32年間、不動産事業という仕事のテーマがあったが、実際のところ、海外で仕事を進めていくのにあまりにも不足していた能力に失望しながらも時間をかけて少しずつ努力した、そんな日々であった。
ワーキングホリディや学生の皆さんに「Youは何しにカナダへ?」と聞けば「英語がうまくなりたい」という答えが半数を超えるだろう。実に正直だ。
そういう私も学生時代、アメリカや英国に行っていたのは「英語がうまくなりたい」が本心であったが、そのうち、文化とか考え方の違いに大きなギャップを感じるようになった。
英語が仮にどれだけ流ちょうになっても社会背景や宗教を理解しなくてはその英語は空虚なものになるだろう。ローカルの人と言葉を介して会話しても真の意味での理解度は深まりにくい。
カナダは世界で最も友人が作りにくい国だとされる。その理由がなぜかずっと考えたのだが、多民族国家でエスニックバックグランドの相違を乗り越えるのが大変だからだろうと思っている。
エスニックバックグラウンドは出身国の文化や宗教、社会や習慣、考え方などが移民してきた人それぞれに深く根付いたものである。それを乗り越えて友人になるのは双方が相当の理解力と忍耐力を要するのではないだろうか?それぐらい人と人を繋げるのは難しい。
ではお前は32年間、どうやって社会人生活をしてきたのか、と聞かれると「二重人格」的な生き方をしたと思う。カナダにいる時はカナダモード、日本行くときは成田空港で日本モードに切り替えるのだ。
かつてアメリカに業務で毎週通っていた時はアメリカ国境でアメリカモードに切り替えていた。コミュニケーションをするに際に相手に応じて微妙に変えていくことで業務がスムーズに運べたからだ。
極めつけは私がバンクーバーの集合住宅開発で販売責任者をしていた時だ。売り子が顧客との交渉状況を報告しに来る際に「この方はどのような方?」と必ず聞き、その相手の背景をベースに最も満足度が高いオファーを選んだのだ。
例えば英国人はプライドが高いのでより高層の部屋を価格に関わらずオファーする。
台湾系はハードネゴシエーターだが、一度握手すると友達を連れてきて「この人にも私と同じ条件で売って頂戴」というケースがままある。
中東系は諸条件よりアフターケアで部屋の隅々まで完璧にしなければクレーマーになることを体得した。ちなみに日本人は粘りに粘り、質問攻めにして「やっぱり今回は買わない」というケースに泣かされたものだ。
これからの世代を担う日本の若い方にお願いしたいのは日本のプレゼンスや灯を消してほしくないのだ。多くのカナダ人は日本人に対して一定のパーセプションを持っている。一種のイメージだ。真面目、ハイテク好き、きれい好き、おとなしい、常識的振る舞い…といった具合だ。皆さんにはこの期待値を裏切らないようにしながらも日本人というイメージを乗り越えてもっと大きく羽ばたいて欲しいのだ。
カナダに移民してきたいろいろな国の人は新天地に来たことで夢と希望を膨らませている。ところが日本人の場合極端な話、移民権が取れたら満足してしまう人がかなり多いのが現実だろう。私は問いたいのだ。移民権取得が皆さんの夢だったのか、と。それは入り口に過ぎないのだ。
もう一つ、日本人は日本人の間でつるむ傾向が強い。だが、それを減らし、様々な国の人たちと接点を多く持つようにしたい。なぜなら他のエスニックの人は明らかに我々と考え方が違うからだ。「えっ、そう来るの?」という意見がどんどん出る。その時、あなたは気が付くはずだ。「あたしのものの見方は狭かった」と。
日本企業も最近は外国人従業員と一緒にミーティングをすることが増えているという。日本人同士で会議をしても何も目新しいアイディアが浮かばないからだろう。
まずは一歩踏み出し、声を出し、自分を表現してみよう。必ずあなたには素晴らしいフィードバックがあることを確信する。
では皆様のカナダライフが幸せで成功裏になることを祈念する。
13年強、ご支援頂き、ありがとう!
了