心をあたためる贈り物|オンタリオ州・アウトドアの魅力。楓の森の歩き方 第66歩
カナダには長い旅(Journey)という言葉がよく似合うと思っています。古の昔、ファースト・ネイション、先住民の方々は遥か遠いユーラシアから、この地へと長い長い旅路の果てに辿り着きました、そして後にヨーロッパから長い旅路を経て、開拓者たちが辿り着きます。
長い旅路の果てに辿りついたこのカナダの地で、人々の心を甘くやさしくあたためたのは、楓の樹液から採れるメープルシロップだったと思うのです。
メープルシロップは、主にシュガーメープル(砂糖楓)の樹液を採取して、煮出し濃縮して作ります。冬の間に楓は越冬のために根に養分(樹液)を溜めています。そして、春先に芽吹きのための養分(樹液)を幹から枝へと送ります。その甘い樹液を楓の木から少しだけいただいて、メープルシロップを作るのです。
五大湖の一つ、ヒューロン湖ジョージアンベイの北部に住むアニシナーベ族は四月の月を『砂糖を作る月』または『採取の月』と呼んでいました。彼らはこの時期にシュガーメープルの木から樹液を採取して、シロップや砂糖、キャンディーなどを作ります。
かつて彼らは、シュガーメープルから甘い水が採れることは知っていましたが、それを煮詰めて砂糖を作ることをどのようにして知ったのかを、森の精霊『Bgoji-nisnaabenhsag, 小さき人』とのテレパシー、魂の交流によって教わったという美しい物語を語り継いでいます。
私は、メープルシロップを作るための木の知識や時期、伝統的な道具などと同様に、春の到来を祝う気持ちやスピリチュアルな伝統的儀式といった想いも受け継がれていると考えています。
オジブワ族のメープルシロップ作りは、親戚一同が参加する伝統的な家族行事でした。樹液が木を昇り始めると、家族一同で白樺の皮で覆われたウィグワム(北米先住民のテント)に移り、樹液の採集が始まります。
楓の木の南側、地面から約1メートルのところに穴を開け、白樺の樹皮で作ったバケツに樹液を集めます。切った木の幹をくり抜いて樹液を集める大きな桶を作り樹液を集め、そこに焼いた石をどんどん入れて沸騰させ水分を飛ばし、メープルシロップを作っていました。
後に、ヨーロッパからの開拓者と先住民の間に貿易がはじまり、樹皮のバケツはブリキ缶に置き換えられ、大きな鉄鍋に樹液を集めて直火に掛け、作られるようになりました。
メープルシロップは栄養価も非常に高く、薬としても扱われていたので、ヨーロッパからの開拓者はこれに目をつけてビジネスとし、安価なサトウキビに対して、メープルシロップを高級品として売っていました。
メープルシロップの独特の風味、深いコクのある味わいは癒しなどの薬効があって、長い旅で疲れた身体や厳しい冬の寒さで冷えきった身体や心をやさしくあたためてくれます。
古く先住民の方たちより伝わった、甘くやさしい贈り物が長い旅(Journey)を経て、今では世界中の人たちの笑顔へとつながっていますね。
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Holly Blefgen(ホリー・ブレフゲン)
オンタリオ・アウトドアアドベンチャーズの代表。ナチュラリスト。春から秋にかけてカヌーととトレッキング、冬はテレマークスキーでネイチャーフィールド へ。30年余りに及ぶガイド経験を持ち、オンタリオ州及び日本における文化・歴史・自然にフォーカスしたツアーを通して、クライアントとその情熱を共有す ることを愉しみにしている。
Special Thanks, Cameron T Powell 写真 / アートワーク / レイアウト:尾西知樹 翻訳:瀧川貴子