「シュリンクフレーションは詐欺? 企業が抱えるジレンマ」|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第68回
前回のコラムで、インフレと飲食店の値上げについて書きましたが、おとなりアメリカではバイデン大統領が「シュリンクフレーションは詐欺だ」との発言をしたとして話題になっています。
シュリンクフレーションとは、「シュリンク」すなわち縮小と「インフレーション」をくっつけた造語で、日本では「ステルス値上げ」や、最近では「サイレント値上げ」なんて呼ばれたりもしています。価格はそのままで、商品の内容量を減らした実質的な値上げなのですが、消費者にバレないような巧妙なやり口でおこなわれることもあり、批判の対象になりやすい、リスクをはらんだ策であると言えます。
実際は、記載された内容量と違いがなければ、法的になんら問題はなく、バイデン大統領の発言も「ぼったくり」くらいのニュアンスではあるのですが、法的に問題ないがゆえに、企業が苦肉の策としてこの手法を取ってしまっている、そんな印象も受けます。
前提として、値上げをしてもお客さんが理解してくれて、同じだけ売れるのなら企業は当然そちらの方が良いはずです。しかし現実的には、値上げに対する過剰な反応とも言える買い控えは、残念ながら容易に想像ができる結果です。すると、それを避けるために、バレないように値上げする、という手段が浮上してくるわけです。
しかし、たいていの事が明るみに出てしまい、それがSNSで瞬時に拡散されてしまうこのご時世、顧客との信頼関係、というまた別の変数も考慮した上で判断する必要があることは言うまでもありません。
そもそも、一口にシュリンクフレーションと言っても、その手法は様々です。
例えば、5個入りの菓子パンが4個になったけど、一つ一つのサイズは大きくなったというケースがあります。この場合、企業は生産性を上げることでコストダウンを図って利幅を確保し、内容量はできるだけ下げないというような企業努力が見られます。出来る限り顧客に寄り添おうとする企業の姿勢に対しては、消費者としても理解を示せます。
しかし中には、容器の底上げであったり、具だくさんに見えて包装で見えないところはスカスカだったり、消費者を欺くような意図すら感じられるようなケースもあり、それはさすがに顧客の信頼を裏切ることになってしまいます。
もしかしたら、素直に値上げをした場合と、ステルス値上げをした場合で、どちらがより売り上げと利益が確保できるのか、というような比較データを蓄積しており、それに基づいた意思決定が行われているのかもしれません。
もしそうだとすれば、それはそれで資本主義にのっとってはいますが、売れれば何でもいいのか、という疑念を抱いてしまいます。
かつて、右肩上がりに物価が急上昇し続け、企業の売り上げも利益もうなぎ上りで、それにともなって給与もバンバン上がる、という時代があったそうです。セクハラもパワハラも日常茶飯事で、手放しでかの時代を称賛する気は毛頭にありませんが、当然、シュリンクフレーションやステルス値上げなんて言葉すらなく、狂騒はいつまでも続くのだと誰もが信じていたのだと言われています。
繰り返しになりますが、値上げをしても売れるならそれが一番良いのです。しかし、かつてのような時代が再来する気配は今のところ感じられません。それはマインドのせいなのか、政治のせいなのか、それとも市場経済の限界なのか、はたまた時代の大逆転劇がこれから繰り広げられようとしているのか。