ルールの恣意性、ドーナツはおやつか食事か?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第98回
先日、日本で食料品の消費税を2027年4月から2年間、8%から1%に引き下げるという方針が閣議決定されました。1989年の消費税導入以来、初めての減税だそうです。
カナダに暮らしていると、正直「さっさとやってしまえばいいのに」というのが率直な感想です。というのも、こちらではとうの昔に食品と外食の税率は分かれていて、消費者として大いにその恩恵を受けているからです。
ところが、日本の外食業界の反応を見ると、そう単純な話ではありません。食料品が1%になっても、店内飲食は10%のまま据え置かれるため、税率差はこれまでの2%から9%にまで拡大します。日本フードサービス協会は客離れを懸念して反対を表明し、大手チェーンの経営者からも強い懸念の声が上がっています。ある調査では、7割の企業がこの減税は業績にマイナスに働くと回答したそうです。特にファストフードやファミリーレストランなど、日常的に利用される業態ほど、内食・中食に代替されやすいと見られています。
5個なら課税、6個なら非課税?
その懸念はもっともだと思う一方で、カナダの方がよほど恣意的で場当たり的だと感じます。オンタリオ州では、外食は13%、食品は0%です。この差はもう何年も前からある話で、店側もお客さんもすっかり慣れてしまっていますが、あらためて数字だけ見ると、9%どころではない差がついています。
しかも、線引きは驚くほど細かいところにまで及びます。有名な例が、Tim Hortonsのドーナツです。5個までは「贅沢品」として13%の税金がかかりますが、6個以上まとめて買うと「食品」とみなされ0%になる。1個の違いで税率が変わるという、なんとも不思議なルールです。
2024年末から2025年2月にかけては、連邦政府による期間限定の減税、GST/HST Holidayもありました。外食や総菜などが対象外税となり、実際に外食産業の売上は前年比7.5%増、倒産件数は前年の半分以下、雇用は3万人以上増えるという目に見える効果がありました。その一方で、中小企業の7割近くが「何が対象品目なのか分からず混乱した」と答えており、わずか3週間ほどの準備期間で現場に急な対応を強いた側面もあったようです。
こうして並べてみると、日本の減税も、ドーナツの数え方も、期間限定の免税も、根っこにあるのは同じ問いのように思えてきます。「食品とは何か」「贅沢とは何か」という線引きは、突き詰めればどこまでいっても恣意的で、時代や政治の都合によっていくらでも動くものなのではないでしょうか。
雷神の冷凍ラーメンも、この「冷凍食品」という区分に収まっているおかげで、消費者から見たときに税金はかからず、店内飲食よりも相対的に安く見えるという恩恵を受けています。これは狙った戦略ではなく、単に運が良かっただけです。ただ、日本の大手外食チェーンが慌てて店内飲食から持ち帰りやデリバリーへと軸足を移そうとしているのを見ると、雷神はたまたま先にその二本目の脚を持っていたことになります。
変わるルールに、何本の脚で立つか
リソースを分散させることは、短期的な利益の最大化という点では、決して合理的とは言えないかもしれません。一極集中で勝負をかける方が、うまくいけば大きなリターンを得られるでしょう。しかし、変わりゆく環境の中で商売を長く続けていくのであれば、目先の最大化よりも、多少非効率でも複数の脚を持っておく方が、性に合っているような気がしています。
それが経営判断として正しいかどうかは、正直まだわかりません。むしろ、正しさは勝てば事後的に与えられるものという気もしています。だとすれば、僕にできるのは、正しさを追い求めることではなく、変わりゆくルールの中でも生き残れるだけの脚を、できるだけ多く持っておくことくらいなのでしょう。








