第五回 「角口酒造店」|女史が綴るカナダ日本酒歳時記|カドエンタープライズ・宮下清子
今回のコラムは、Kado Enterpriseの出発点となった角口酒造店についてのお話です。
角口酒造店は、私の母の実家であり、東京で両親が酒類販売事業をスタートさせる礎を支えてくださった酒蔵です。執筆は、角口酒造店専務であり六代目社長予定の村松裕也さんにお願いしました。
明治2年創業・角口酒造店。「北光正宗」を育んだ
飯山という土地と蔵の歴史

角口酒造店は1869年(明治2年)創業の酒蔵で、日本有数の豪雪地帯に所在しています。冬の間は3メートルを超える雪の中で酒造りが行われています。降雪効果により冬季の気温が低く安定し、人工的なエネルギーに頼らない理想的な日本酒の醸造環境が生み出されています。またこの雪溶け水が地表に取り込まれ、年月をかけて原料となる米の栽培用水となり、また北光正宗の仕込水となります。

創業者である村松彦三郎は現在の蔵元所在地で米穀商を営み、屋号を「こくや」とよんでいました。酒造業は明治2年から始めたと言われています。創業当時は蔵元所在地の「今井」という地名から命名した「今泉」の銘柄で営業をしていまいたが、その後「北光正宗」と改称しました。当家の仏壇の引き出しから初代・村松彦三郎が書いたと思われる「明治弐年 我慢 彦三郎」という書が出てきました。穀屋として、その地域の酒造りに向かったのでしょう。

「北光正宗」は北の夜空に光輝く北斗七星より命名されました。飯山の地で長きに渡って飲み継がれてきた、キレの良い軽快なタイプの日本酒造りを造り続けています。ちょっとした豆知識ですが、ここカナダ東部(Maritime地方)で現れるオーロラは、現地で「Northern Lights」と呼ばれています。日本語にすると、まさに「北の光」という意味!なんだか「北光正宗」に運命的なつながりを感じてしまいますね。
海外市場、そしてカナダ市場で広がる「北光正宗」
現在世界市場で流行している日本酒は香り高く甘酸っぱいタイプのものですが、カナダでは「北光正宗」という玄人向けの味わいの日本酒を20年以上前から受け入れてくださっています。そのため味覚や味わいのバランス感覚に優れた方が多い土地であると感じています。またカナダも冬が厳しい環境であり、北光正宗のアイデンティティと一致する部分もあるのだろうと思っています。
プレミアム日本酒市場で際立つ「北光正宗」の個性と強み

伝統的にドライでキレの良い味わいの日本酒を醸しており、このようなタイプのプレミアム日本酒はまだ市場が確立されていません。弊社ではこの酒質の最高峰を目指して製造を行っておりますので、遠くない未来にドライなタイプのプレミアム日本酒を「北光正宗」ブランドでお届けできると信じています。
技術と人の感性を融合させる、これからの酒造り
AIやDXなど、酒造りにおいてもさまざまなデータ管理が可能となってきました。しかし、微生物という生き物の働きで日本酒が出来上がってくる以上、すべての製造をAI任せにすることは不可能です。また画一化された製造の元では銘柄ごとや地域ごとの差が生まれず、多様性も損なわれてしまいます。
人間の負担を減らすこれらの技術を積極的に取り入れつつも、酒蔵の於かれた自然環境や人間の感性を大切にした酒造りを続けていきたいと考えています。
北光正宗純米酒について

酒蔵から見える範囲の田んぼで収穫した「ひとごこち」を使っています。「北光正宗」ブランドらしい、甘さの少ないドライでキレの良い酒質に仕上がるよう、毎年製造にあたっています。近年は温暖化の影響で酒米の品質が安定しませんが、旨味や膨らみが感じられるような麹作りを行い、やや高めの温度でもろみの発酵を進めつつ、酸やアミノ酸が少ないキレイな仕上がりになるよう心がけています。
「北光正宗」の純米酒に限らず、地酒は本来、地元の郷土料理や名産品に合わせるのが一番です。同じ水と土から育まれたお酒と食材は、お互いを引き立て合う最高の相性を持っています。ここ飯山地方の名産品といえば、何と言っても「野沢菜」です。トロントでの入手は容易ではありませんが、北光正宗の純米酒にはこれ以上ないほどよく合います。また、長野県を代表する「蕎麦」や「味噌」を使った料理も、このお酒のお供にぴったりと言えるでしょう。
■ 角口酒造店
https://www.kadoguchi.jp/














