情熱の国で生まれたスペインの伝統菓子|特集「ヨーロッパの伝統菓子」第二弾
ヨーロッパ南西端に位置する情熱の国スペインは、地方ごとに全く異なる景色を見せてくれる。そんな地で生まれたデザートはミルクがふんだんに使われ濃厚な甘さをもつものが多め。寝起きの1杯はお家で、朝のひと息タイムはバルやカフェで、というくらいコーヒーが大好きな国民性のスペイン人が愛する伝統の甘いお菓子を濃いめに淹れたコーヒーとともに楽しんでみては?
Ave Maria Latin Café & Groceries
硬いのに滑らかなフランがやみつきになる
コリアタウンに掲げられる鮮やかな黄色をモチーフとした看板は、ラテンアメリカフードやデザート、調味料などを販売しているAve Maria Latin Café。こじんまりとした小さいお店だが、ラテン系のお客さんで常に溢れかえっている人気店。レジ横には、ホットショーケースにエンパナーダや、チーズボールが美味しそうに並べられている。
デザートが置かれた冷えたショーケースにあるのは、人気商品だというフラン。カラメルに浸ったみっちり硬めの卵感が強いそのフランはまさに冷たいカスタードを食べているよう。一つ食べ終わればまたもう一つとリピートしてしまいそうなやみつきになる一品。
近年では、フランスやイギリスから来たプリンと同じ扱いを受けることもあるスペインのフランだが、プリンは、どちらかと言うと柔らかめで冷蔵庫で2時間ほど冷やして作られるのに対し、フランは「硬めのカスタード」という考えられ方で、最低でも8時間は冷蔵庫に入れて作られるそう。フランの原型となるものはローマ人によって食べられていたTyropatinam(ティロパティナン)と呼ばれる鶏卵に牛乳と蜂蜜を加えて、焼き固められた料理だと言われている。
ホイップクリームと合わさってダブルでミルキーなケーキ
手のひらサイズの正方形の箱に入って売られるこちらのトレスレチェケーキは、ホイップクリームがデコレーションされている。フォークをいれるとジュワッとミルクが溢れてくるとてもしっとりとしたケーキ。甘さは控えめでそんなにくどくないが、ミルクでひたひたになったスポンジケーキと上に塗られたホイップクリームが相まってまろやかなミルキーさが口に広がる優しい一品。午後のおやつに熱々のコーヒーと楽しみたい。
スペインや南アメリカでもよく食べられるというトレスレチェケーキ。スポンジケーキにミルクを浸したしっとりしたケーキ。19世紀にはメキシコで食べられていたという記録があり、1940年にはインスタントコーヒーでも有名なネスレ社のコンデンスミルク缶のレシピに掲載された。
Madrina Bar Y Tapas
伝統のデザートをモダンなアプローチで
ディスティラリー地区にあるスペインの「タパス(小皿料理)」と種類豊富なお酒を楽しめるレストランMadrina Bar。人気のカジュアルレストランから、ミシュランを獲得した高級レストランで経験を積んだシェフのラモン・シマロさんが生み出す、スペインから取り寄せる季節の食材を使用したバルセロナの伝統と革命の味が楽しめる。「スイートタパス」と呼ばれるデザートも、食後のおまけとしてではなく、むしろデザート目当てでお店に訪問してもらえるようにと丹念込めて作られている。
そんなお店が作るクレマカタラーナは、まさに伝統の味と新しいアイディアの融合と言えるものだ。ソフトクリームのように絞り出されたカスタードは、リッチなフレーバーに滑らかな食感。上に飾られたパリパリのカラメルと一緒に食べればその食感と深い味わいが包み込み、やみつきにさせる。
クレームブリュレによく似たカタルーニャ地方の洋菓子。通常、スペインの父の日でもある、3月19日の聖ヨセフの日に食べられる。カスタードの上にパリパリとしたカラメルがトッピングされているのが特徴。フランス発のクリームブリュレととてもよく似ているがカタラーナには、レモンの皮とシナモンが入っていて、湯煎ではなく鍋で炊くという違いがある。
D’amo
専門店がつくるユニークなトレスレチェケーキ
トロントでトレスレチェケーキの専門店として人気の当店。本来、名前の由来のとおり3種類の牛乳が使用されるトレスレチェケーキだが当店は4種類の牛乳を使って作られるスポンジケーキがベースになっている。ホイップクリームとキャラメルソースがトッピングされている「オリジナル」から、「オレオ」、「ロータスビスコフ」など、常に15種類のフレーバーを提供していて、1、2ヶ月ごとに新しいフレーバーを発表している。D’amoで作られる絶品のケーキはこちらの店舗だけにとどまらず、トロント市内のレストラン8店舗にも提供され、トロント中にファンをもつベーカリーだ。
Dulclnella
@dulcinella.ca
ミルクジャムとチーズケーキの融合
郊外ではあるものの、本格的でありながら、家庭の味をも思い出させるペーストリーや、ラテンの国の揚げ物が人気のこちらのお店。トレスレチェケーキと並んで大人気なのがチーズケーキの上にドゥルセ・デ・レチェが贅沢にのったケーキ。丁寧に作り上げられるこちらのケーキは、くどくなり過ぎないようにバランスが取られた絶品の味。お近くまで行かれた際はその五つ星の味をぜひ堪能してみてほしい。
ラテンアメリカの伝統的な糖菓であるドゥルセ・デ・レチェは、たっぷりの砂糖とミルクを長時間煮詰めて作るキャラメルのような濃厚ミルクジャム。アルゼンチンや、中東、ヨーロッパ諸国にも広がるこのレシピは、さまざまな起源説がありはっきりはしていないが、そのまろやかでしつこくない甘さは国境を超えて多くの人に愛される。スペインでは、その対応性のある風味から国民に愛されるさまざまなデザートに使われている。
Pancho’s Bakery
トロントで知らない人はいない?チュロスといえばここ!
ダファリンとケンジントンマーケットに店舗をもつPancho’s Bakery。トラックでの移動販売なども行っており10年以上にわたってトロントのチュロス界を盛り上げてきたお店。こちらのチュロスは真ん中に穴があいていてお好みのソースを注入してもらえる。チョコレート、ストロベリー、ドルセ・デ・レチェ (キャラメル) 、コンデンスミルクがありこのソースは当店のウェブサイトでも購入できる。出来たてアツアツのチュロスに溶けるソースが絶品。
スペインの王道のお菓子といえばチュロス。日本でも人気のチュロスだが、スペインでは定番のおやつや、朝食とされていて、「チュレリーア(Churreria)」と呼ばれるチュロス専門店まであるんだそう。チュロスの起源とされているのは中国から伝わった細長い揚げパン。スペインの羊飼いが長期に渡る野外活動でパンの代用としてチュロスが作られ始めたんだとか。名前の由来もナバホチュロという羊の角に似てるからチュロ(複数形でチュロス)と呼ばれ始めた。
Le GOURMAND
ギュッと詰まった美味しさがたまらない
クイーンとスパダイナにある、ボリューミーなチョコレートチップクッキーや、マフィンが人気の当店。ヨーロッパのカフェからインスパイアされたというこのベーカリーは2002年にオープンして以来、毎日、ハイクオリティな食材でシンプルなレシピを使用し、美味しい商品を作ってきた。その中でも、1度食べた人の心を掴んで離さないバスクチーズケーキは知る人ぞ知る名品。濃厚なチーズの風味がギュッとつまり、中は柔らかく、レアチーズケーキをもっちりさせたような食感で、焦げた部分はベイクドチーズケーキの落ち着いた美味しさがあり、1人で3、4切れは余裕で食べられてしまいそう。
日本でも2018年頃に大流行したバスクチーズケーキは、外側を焦がした濃厚な風味のあるチーズケーキ。スペインのサン・セバスティアンにある料理店ラ・ビーニャのレシピをもとにしたケーキでバスク地方ではバスクチーズケーキにあたる名称では流通してないんだとか。
Patria
大人な味のチョコレートプディング
古くからチョコレートを親しんできた国で好まれるチョコレートプディングに、世界一の生産量を誇るスペインの良質なオリーブオイルをかけ、シーソルトをまぶした大人なプディングを提供するのはトロントのレストラントップ10にも入ったことのある有名レストランPatria。新鮮な海鮮を使ったシーフード料理や、種類豊富なワイン、手の込んだメニューが人気だが、スイーツも極上。
チョコレートは60%から70%のダークチョコレートを使用した滑らかなプディングの上に、オーガニックでコールドプレスした最上級のオリーブオイルをかけ、まろやかさをプラス。シーソルトの塩気でチョコレートプディングの上品な甘さを引き出す。サイドには、フランス生まれの極薄クッキー、チュイールを加えて、カカオの香ばしさと食感を足す。特別な日に大切な人と食べたい極上の逸品。
チョコレートとスペインの関係はとても深く、アステカ王国がスペインの植民地になった後、アステカの特急階級の嗜好品であったチョコレートドリンクが庶民に広がり、1534年にはスペインの中部アラゴン州にあるピエドラ修道院にてヨーロッパ最初のカカオが調理されたと記録されている。
Latin Taste
@latintaste_lorena
ふんわり生地と濃厚なドゥルセ・デ・レチェが最高!
卵白で作られるメレンゲに黄身と砂糖、ミルクを加えて黄金色に焼き上げられるふわふわな生地。スペインデザートには定番のドゥルセ・デ・レチェを塗ってロールされたピオノノは出来上がったばかりということで買う直前に切り分けてくれた。ロールケーキの素朴な味が濃厚なドゥルセ・デ・レチェとぴったりあって独り占めしたい味であった。
スペインの南部、アンダルシア州グラナダの名物菓子ピオノノ。小さなロールケーキの上にクリームが乗ったお菓子。カスタードクリームや、チョコレート、ドゥルセ・デ・レチェなどさまざまなクリームが使われる。このピオノノを考案したのは1897年創業の老舗スイーツ店「Ysla」というお店の当時の店主。ローマ教皇のピオ9世の即位記念として作られたデザート。
雪どけのような食感のクッキー
人が溢れるケンジントンマーケットの中にある小さなお店、Latin Taste。こじんまりとしたそのお店では家庭的な雰囲気が漂う。レジ横にあるショーケースには1つずつ包まれたアルファホールが。ひと口食べるとほろほろっと砕けるやわらかいクッキー。ほんのり甘く、ミルキーさが濃厚なドゥルセ・デ・レチェが口の中にまろやかに広がる。小さなクッキーだが、勿体ぶってちょびっとずつかじっていたいようなクッキーだった。
なめらかな食感のショートブレッドクッキーにドゥルセ・デ・レチェが挟まれたクッキーサンドをココナッツフレークにまぶせばスペインを始め南米などでも広く愛される、アルファホールの出来上がり。スペインの世界進出に伴い、12~13世紀にかけてペルーや南米各国に伝えられたのだそう。