震災と選挙 | 東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い【第86回】
日本は令和の時代になり、最初の大きな国政選挙が先日ありました。参議院議員選挙です。
岩手からは自民党で平野達男さんが立候補しました。平野さんは、東日本大震災の時には、民主党政権でしたが、初代復興大臣を務めた方で、東北の震災復興の代名詞みたいな方でした。しかし、結果は僅差でしたが落選。政党がどうのこうの言うつもりは私はありませんが、平野さんが東北の復興に対してどれだけ汗をかいてきたか。その事実と歴史が全て無に帰した感じで、とても残念な気持ちでした。平野さんにはこれからは国会議員としてではなく、個人として、いち政治家として東北の復興に力を貸していただければと思います。
震災と選挙の話をすると、東日本大震災で岩手県内でも大きな被害を受けた陸前高田市。ここの市長は戸羽市長と言いますが、本人が初当選した次の月に東日本大震災が発災。右も左もまだわからない新米市長に大きな試練が襲いました。しかも、戸羽市長はこの東日本大震災で愛する妻を失いました。そこからの復興に懸ける情熱と、男手一つで震災遺児になった子供たち二人を育てる生活は多忙を極めましたが、市民の皆さんの大きな応援と助けもあって、ここまで無事に市政と子育てを両立してこられました。しかし、今回の選挙では、対立候補になんとたった5票差での勝利。ここまで追い込まれた理由がわかりません。
震災で一番つらい思いをして、仕事と子育てを両立させながら、確実に陸前高田市は前進していたのに、どうしてこんな結果になるのだろうか。
私は陸前高田市民ではないので、分かりませんが、震災から長い月日が経過して、震災を経験していない有権者も増え、震災時に大変な思いをして、復興に努力したその成果が薄れてしまっているのだろうと感じました。これもまた震災の風化なのだと思います。
震災時に苦労して、涙を流して、汗をかいて復興に取り組んだ人が、どんなに月日が経過してもしっかりと評価をされて語り継がれることも大事なのだと思います。しかし、その震災を経験した人だけが正しい、という考え方もなかなか難しく、確実に震災を経験していない住民が増え、震災を知らない世代が大人になっていきます。だからこそ語り部は必要であり、選挙とか政治とかを飛び越えて、地域のために絶対に必要な人だとみんなに伝えてほしいという思いでいっぱいです。
まだまだこれから被災地でも選挙などあります。今後もそれは続きますが、震災でともに苦労した仲間がこれからも胸を張って復興に取り組める世の中になってほしいと願います。
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人 / http://www.nanbubijin.co.jp
本文:南部美人 五代目蔵元 東京農業大学客員教授
久慈 浩介
岩手県の銘酒として知られる「南部美人」は、カナダ・トロントでも味わうことができる日本を代表する酒蔵で、2011年3月11日の東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。5代目である久慈さんは震災直後から日本酒を通じて地域復興の様々な取り組みを行ってきた。本連載では久慈さんが体験したことや復興の取り組みなどを寄稿してもらう。