危機の時には行動こそ正義。医療ケア児に消毒用アルコールを!|東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い【第96回】
消毒用アルコールを製造する、と決めてから、それでも私の心には迷いがありました。南部美人は1902年に創業してから、初代が残した家訓「品質一筋」を経営理念として掲げ、五代目蔵元の私の代まで「おいしい」のために酒造りにまい進してきました。しかし、今、コロナだからと言って飲むためではないアルコールを製造することがご先祖様に許してもらえるのか、しばらく悩みました。
しかし、東日本大震災でも学びましたが、危機の時には行動こそ正義です。自分を信じて前に進みました。そんな中、第一号の消毒用アルコールが出来上がりました。すぐさま地元二戸医師会に供給をはじめ、それ以外に自宅で難病の子供を介護する方々など医療ケア児のおうちに持って行く機会がありました。胃ろうや人工呼吸器など消毒を必要とする介護道具をコロナ前からずっと使い続けていて、コロナで消毒液の需要が一気に一般家庭にも増え、自力で手に入れることが出来なくなっていました。医療ケア児の過程では、子供の面倒を見続けなければいけません。子供をおいてドラッグストアなどに数時間並ぶ事は不可能なのです。私が訪問した時には、もうあと数回殺菌すれば消毒アルコールが底をつくところでした。南部美人アルコール77を持って行ったら、「助けてくれて本当にありがとうございます」と涙ながらに感謝をされました。
私は今まで「おいしいね、ありがとう」と言われたことはたくさんありましたが「助けてくれてありがとう」と言われたのは人生で初めての経験でした。私も涙無しにはその場にいられませんでした。それだけ、生死の境目で苦労していた人たちがいて、それを今までの私は見向きもしていなかった。それが情けなく、申し訳なくて、本当にごめんなさいという気持ちでした。
岩手県にはこのような医療ケア児がまだまだたくさんいて、そのネットワークで私の製造した消毒用アルコールを待っていてくれます。すぐに届けなければいけません。日本の田舎の岩手県でこれだけ困っている人がいる。それならば日本にはもっといます。そんな中、地域で消毒用アルコールを生産できればすぐに届けることが出来ます。アルコールを製造する日本酒、焼酎、泡盛などの蔵は日本全国47都道府県全てに存在します。そんな國酒の蔵が、地域のために地域で地域の消毒用アルコールを今後製造していけば、中央から消毒用アルコールを待っているだけではなく、地域で即座に困っているところに届けることが可能になります。まさにこれは、消毒アルコールの地産地消です。そして最高の地域貢献になります。
コロナ後の世界では消毒アルコールは地域で生産し地域に即座に供給する世界が来るのかもしれません。私は今後、岩手県で消毒用アルコールが不足する事が一切ない世界を創るために、これからも続けて消毒用アルコールを製造し続けて行く覚悟を決めました。誰も岩手県で消毒アルコールが足りず泣く人が出ないように、私の命をかけてこれからも頑張っていきたいと思います。
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人 / http://www.nanbubijin.co.jp
本文:南部美人 五代目蔵元 東京農業大学客員教授
久慈 浩介
岩手県の銘酒として知られる「南部美人」は、カナダ・トロントでも味わうことができる日本を代表する酒蔵で、2011年3月11日の東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。5代目である久慈さんは震災直後から日本酒を通じて地域復興の様々な取り組みを行ってきた。本連載では久慈さんが体験したことや復興の取り組みなどを寄稿してもらう。