カナダだから発揮できる、日本食の力 その歩みと未来|特集「日本食の力と担い手たちの未来」
カナダに暮らしていると何不自由なく日本料理が食べられる。ここトロントでもバンクーバーでも寿司やラーメンのほか、カジュアルに食べられるおにぎりから高級懐石料理まで、店の数もメニューのバラエティーも豊富だ。日本食がこの街の風景の一部であるのが当たり前になるには長い道のりがあった。日本食・和食はこれまでどんな道を辿ってカナダで浸透し、この先どのようにこの国を彩ってくれるだろう?
カナダにおける和食文化のはじまり
戦争で遠ざかった祖国の味
カナダに移住した日本人たちの歴史は第二次世界大戦前にさかのぼるが、彼らの食生活については多く知られていない。
1942年、ブリティッシュ・コロンビア州政府は移民とその子孫たちをロッキー山脈の強制収容所へと送り、彼らが所有していた1200もの漁業船を没収した。それまで移民たちはサーモンやワカメ、貝類などを主食とし、味噌や醤油などの調味料は日本から輸入していた。収容所での生活は貧しく、魚介類も調味料も手に入らなかったが、彼らは敷地内の土地を耕し大根やイチゴ、とうもろこし、スイカ、ほうれん草、白菜などを育てていたそうだ。
「日系料理」の誕生
和食材の有無は一世と二世独自の食文化の形成に影響した。日本人鉱山労働者が集まったカンバーランドにて考えられたカンバーランド・チャウ・メイン(Cumberland Chow Mein)やニュー・デンバー収容所で発明された大根の漬物「デンバー漬け」(Denbazuke)、キュウリをビールと味噌で漬けた「ビヤ漬け」(Biyazuke)などが代表的なメニューにある。2022年9月4日の「Discover Nikkei」の記事によると、それまで伝統的な和食が守られていたが、戦争でバンクーバーエリアの日本食は「Japanese Food」から「Nikkei Food」に変わったと説明されている。戦時中の「もったいない精神」も日系人の料理への姿勢に大きく影響したそうだ。
戦後のカナダの和食事情
戦争で負けた日本は壊滅的な被害を受け、カナダへの調味料の輸出再開は絶望的であった。必要な食料も、住むところもコミュニティーも失ってしまった日系人たちの多くはバンクーバーを離れることを決心した。西海岸から遠いトロントなどの場合、彼らが和食材にありつけることは滅多になく、乳製品などその土地で手に入る西洋食材に慣れるしかなかった。そのため一世と二世たちの食生活や味覚は大きく変わったと考えられている。
終戦から30年、和食ビジネスがついにトロントに上陸
トロントと和食の出会い
1970年代、トロントで初めて和食文化がビジネスとして紹介された。当時は和食と言ってもカナダ人が想像で作り上げた寿司でしかなかったが、トレンドの発祥地ニューヨークで寿司がすでに大流行していたためトロントの人々はその波が押し寄せてくるのをそわそわと待っていた。実際ニューヨークほどの反響はなかったが、「寿司レストラン」という新しいジャンルが生まれたことはトロントのレストラン業界を大きく変えた。それとともに寿司は「食べ放題」というイメージが定着していた。
「Kaiseki」と「Omakase」
寿司の次に有名になったのが「Kaiseki」だった。カナダ初の懐石料理レストラン「Kaiseki Yu-Zen Hashimoto」の人気が火付け役となり、それまでカジュアルで食べ放題が多かったジャパニーズ・レストランのイメージがガラリと変わった。より一層優雅なダイニングスタイルとともに「Omakase」という食事体験がカナダでも知られるようになった。「Omakase」の本当の作法や言葉の正確な発音が全てのカナダ人に理解されていなくとも、日本食のフレーズが異国で当たり前になったことは和食文化にとって大きな進歩となった。
和食の人気をさらに引き上げた2010年代
トロントで寿司と懐石以外のメニューが定番化していったのは2000年代に入ってからのこと。バンクーバーではすでに「居酒屋」という言葉が90年代後半から知られていたが、トロントで見られるようになったのは2009年のことだった。それから和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたのが2013年。2008年の不況と2011年の東日本大震災を乗り越え、2010年代にはトロントに来る日本人留学生の数、そしてトロントから日本への観光客も飛躍的に増えた。この勢いこそがトロントの日本食ビジネスをさらに進化させるビッグチャンスとなった。
海外を目指す日本人シェフの急増
2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて以来、日本から海外へ出店する日本食レストランが急増した。これと同時に海外に移住する日本人シェフも自然と増加。特に寿司が健康的な食べ物だという理由で流行している日本国外ではシェフの収入も良く、労働時間も規則正しいため移住は料理人の間で好まれた。
彼らの望みに応えるかのように寿司の人気は衰えることなく、今では焼き魚やおにぎり、蕎麦、焼き鳥などバラエティに富んだヘルシーアイテムが流行している。トロントのように忙しいオフィスライフを送る人が多い街では特にお手頃でサクッと食べられて、しかも「Guilt-free(罪悪感なし)」という点がカジュアルな和食メニューの流行をさらに助けたのではないだろうか。
他のアジア系料理との「差」
カナダで日本食レストランの人気が高まるにつれ、日本人スタッフがいないお店を目にしたことがあるかもしれない。お隣のアメリカでは中国人移民が自国の料理では金にならないという理由で日本食店を経営する人たちが大勢いる。
「日本食には他国の料理に比べて品格があり、人々はその価値を信じているため寿司に金を出す抵抗がない」と「The Sushi Economy」の著者サーシャ・アイセンバーグ氏は語っている。しかし金儲けだけのためにレストランを開いた非日本人シェフたちは寿司などの和食の修行や経験がないことが多く、アメリカでもカナダでも将来の和食の味や見た目が正確さに乏しくなることが懸念される。
本物の和食の味をカナダでどう守っていく?
移民大国と呼ばれてきたカナダは現在、移民プログラムに大きな規制をかけ始めている。建設と医療にニーズが集中している中、それ以外の業界、特に飲食業界の人たちがこれから永住権を得にくくなることが最近ニュースで話題になっている。
日本人以外が本格的な和食を作れないことはないが、日本でしか培えない技術や「おもてなしの心」、そして勤勉な働き方には日本人料理人特有の何かがある。和食は単なる料理だけではなく、それらの魔法がかかってこそ成り立つエクスペリエンス(体験)なのではないだろうか。
飲食業界で活躍する人たちの永住権取得が難しくなる中、本場の日本食の味、そしてそれを継承するシェフたちはなぜカナダにとって必要なのか?今まで発展してきた日本食文化はなぜカナダにとって重要なのか?この国にとっての利点を主に考えていきたい。
カナダの利点 01
シェフはトレンドメーカー、そしてビジネスパーソンでもある
これまでカナダのレストラン業界で挑戦してきた日本人シェフたちは海外の日本食文化の開拓者であり、新しいメニューを生み出してきたトレンドメーカーでもある。例えば今では世界的に知られる「カリフォルニアロール」はバンクーバーで東條英員氏が1974年に考案したものだった。魚がまだ日本から輸入できる技術がなかった時代、彼はBC Rollというサーモンの皮を使ったメニューも発明している。
トロントでは「Nami Japanese Seafood Restaurant」のシェフKaoru Ohsada氏が1993年ごろにPizza Sushi、またはSushi Pizzaを発案。これは外をパリッと揚げたお米のパティの上にアボカドやサーモンかトロの刺身を乗せたピザのような寿司だ。フランス料理の修行を積んだOhsada氏が、フランスでも日本でもないカナダで名作を作ったとは感慨深い。東條氏やOhsada氏のような料理人たちはカナダという国をインスピレーションに才能を開花させたイノベーターであり、日本とカナダを新しい料理で繋いでくれている。
トロントでも本格的な「Omakase」が定着したいま、最近では時間制限でお手頃に食べられる新しいスタイルの「Omakase」を提供する寿司レストランも誕生し、食料費や家賃高騰が続くなか高級寿司を手の届くものにしたことで多くの客を呼び込んでいる。
料理は人の好みだけでなく経済の変化にも影響される。世の中の流れを読み対応できるシェフ、そして新しいトレンドやビジネスモデルをつくるシェフがカナダのレストラン業界をさらに盛り上げてくれると期待したい。そして大事なのはその彼らに対応できる移民システムだ。
カナダの利点 02
和食文化と和食材は信頼を象徴している
「和食」が世界的に有名な理由の一つは調味料に頼りすぎず、素材の味を生かしていることだ。珍しく生魚を食べる国であるからこそ調理方法に関しても、安心そして安全を証明している。
カナダ日本レストラン協会(JRAC)の木村重男会長(GINKO Japanese Restaurant)や柏原清一プレジデント(Zen Japanese Restaurant)、先に触れたカリフォルニアロールの生みの親の東條英員氏は日本食普及の親善大使として和食の良さを広め続けている。
カナダで日本の食材が信頼され続けている理由はそのクオリティーにある。店で出される料理の味の80%は食材で決まるからと語られる中、レストラン業界は信頼で成り立っている。店は客から信頼を得ないといけない。何回も来てもらえるようになるにはシェフが信頼する食材を提供する必要があるとされる。
彼らのように日本の食材を厳選して使う人がカナダで増えれば、日本の輸出の未来にも期待できるかもしれない。
カナダの利点 03
日本食材はカナダ料理を進化させてくれる
昔はカナダでお寿司を食べるだけでも珍しかったが、この10年ほどでは抹茶やほうじ茶、柚子、きなこ、小豆など、デザートや飲み物で使われる日本食材がローカルメニューで目立つようになった。2017年には日本で沸騰していた麹菌ブームがカナダに上陸し、The Globe and Mailはアメリカとカナダのトップシェフたちが麹菌をメニューに取り入れるようになったこと記事にした。ソースのベースに使うシェフもいれば、こま切れ肉に米麹を混ぜて発酵させて無駄をなくすエコな使い道を探索するシェフもいた。
寿司テイクアウト専門店「Oroshi」の責任者の一人であるジェフ・カング氏は当時経営していたレストランで麹を使った料理に挑戦していたことをこの記事で紹介されていた。自分の店の料理を「決して日本食ではないがカナダは異文化に溢れている国。カナダの料理はプティーンだけでないと証明したい」と答えていた。日本食材や和食独自の調理法がカナダでもっと知られていけば彼の期待通りカナダ料理が進化するであろう。
食材とともにその扱い方をよく知る日本料理シェフもたくさんいれば和食の味や技術を引き継いでくれる人たちの教育も前進させることができる。
カナダの利点 04
ヘルシーな和食はカナダの未来をサポートしてくれる
世界的に和食の典型的なイメージといえば健康的であることだ。日本が長寿大国であることがそのイメージに大きく貢献している。素材の味を生かした調理法や、一汁三菜のようなバランスの取れた食事をカナダ中に広め続けることができれば、この国全体を健康にする可能性も期待できる。
カナダといえばスポーティーでアウトドア派の人が多いと思われがちだが、実は2015年から2021年の間で高血圧や心臓病、肥満に悩む人が増加したデータがある。平均寿命も過去3年連続で低下している。この国の470万人近くはかかりつけ医師さえおらず、これから医師の高齢化が進むとさらに医師不足が深刻化する。
もし和食を通じて健康的なカナダ国民が増えれば生活習慣病を予防できたり、風邪を引きにくくなったりするほか、全体的に生産性がよくなるかも知れない。高齢化で介護が必要な人が増えると、将来的にはケアラーたちの健康が懸念される。そんな状況の側に和食文化があれば、強い味方になるのではないだろうか。
カナダの利点 05
カナダが異文化を守ることは国民の信頼を育む
移民大国であるカナダのここ数年の大きな課題は、この土地に誰よりも長く住んでいた先住民族との和解だ。ヨーロッパ人らが乗っ取るまで彼らの土地であったこと、そして白人らが彼らの歴史や文化、言葉を消し去ったことをようやく真実として受け入れて認めるアクションが取られている。そんなデリケートな問題に真摯に取り組んでいる今のカナダだからこそ、移民の母国の味や文化を守ることは国民や移民たちにとって重要なトピックなのではないだろうか。
ある調査によると、昔の先住民は伝統的な食材を狩りや釣りなどで賄っていたが現代ではFirst Nationsの48%が食料不安を経験している。温暖化や水道水の整備不足など問題が山積みで、仕方がなくスーパーで高くて不健康な加工食品を買わなくてはならない生活を強いられている。伝統的な食材が食べられないということは、彼らの文化だけでなく健康も蝕んでいる。これは先住民だけの問題でなく、日系人が戦時中に直面した問題にも関係する。
伝統料理は言葉と同じように国、そして文化の顔である。バンクーバーで和食材が存在した時代の日本料理をそのまま二世や三世に継承していくのに必要だったのはカナダ政府の異文化へのリスペクトと和解だったのではないだろうか。
戦後、1970年代以降に移民してきた「新一世」とも呼ばれる世代が築き上げてきた和食文化を守っていくためにもさらに日本とカナダの協力関係を深めることが大事だ。
日本人料理人はカナダの外食業界にとって有益、そして不可欠だ。この視点は日本にとってどのような意味がある?
日本が今一番恐れているのは少子高齢化。それは実は日本だけの問題ではなく、カナダでも起きていることなのだ。これまで日本人シェフがカナダで働く利点をいくつか挙げてきたが、「日本に得はあるのか?」と考えたかも知れない。今度は日本にとっての良い点を見ていこう。
日本利点 01
日本文化の持続性のカギは海外での人気にある
世界中で人気がある寿司、天ぷら、蕎麦などは全て江戸時代の「ファストフード」だった。今ではロボットが回転寿司のすし飯を握ってくれるようになり、注文はタブレットでするなど日本での寿司の食べ方もだいぶ変わってきた。寿司職人のイメージが薄れる日本とは反対にカナダでは職人技が輝く「OMAKASE」スタイルの人気が根強く、レストラン名とともにシェフの名前が有名になるケースが多い。
日本とは和食の楽しみ方が少し違ったとしても、カナダの人は現在の和食文化に喜んで投資している。漫画やアニメが外国人に受け入れられたようにその国に合った楽しみ方を見つけられれば、和食はさらに世界的に浸透し、持続性を保つのではないだろうか。
日本利点 02
酒(各種アルコール)も和食文化の一部として広められる
北米で人気がある和食の楽しみ方といえば料理と酒のペアリングだ。和食とともに日本の酒類がペアとして流行すれば日本とカナダ両方の飲食業界が潤うのではないだろうか。
日本酒が世界である程度の認知と人気を誇る中、最近ではジャパニーズ・ウイスキーも圧倒的な人気を誇っており日本国内では品薄状態が続いている。だがこれを機会に小規模な蒸留所で製造されるクラフトウイスキーやクラフトビールなどの地酒が注目されれば主要観光地だけでなくあまり知られていない都道府県や小さな街にスポットライトを当てることができる。
そして可能性としては「Yona Yona Ale」や「水曜日のネコ」で人気の「Yoho Brewing」や「常陸野ネストビール」のように北米でたくさん飲まれているメイド・イン・ジャパンのブランドをさらに増やすことができる。
日本利点 03
日本の農業・漁業の技術を知ってもらえるチャンス
現在日本もカナダも農業人口の減少と過疎化が問題になっている。2023年4月17日のCBCの記事によると、 この先10年でカナダの農業従事者の約40%が引退すると見込まれている。そのうちの66%は後継者がいない。この危機に備えるためにカナダは3万人ほどの臨時労働者を呼び込むことを目標にしているが、永住権なしには人不足は解消しないと移民政策の専門家たちは指摘している。さらに数を増やすだけでなく新しい国で農業を始める移民を支える知識とサポートが必要だという。
日本では現在「スマート農業」や「スマート水産業」と言われるインターネットやパソコン、ロボットなどを使った技術が発展している。自治体ぐるみで作物をブランド化して農業を活気づけたり、農業・漁業両方においてSNSで情報発信したりするなど人手不足や町の過疎化の問題に積極的に取り組んでいる。日本の和食は野菜と魚が無ければ成り立たない。
カナダで日本食が広まれば、日本の農業・漁業、そのクオリティの高さ、生産地の素晴らしさも全て知ってもらえる機会ができる。そしてカナダと農業や漁業の問題や解決法を共有し、お互いの産業を高め合うチャンスができると期待したい。
和食を広めるのに必要な日本とカナダの協力関係
これまでカナダで和食文化が発展し、持続するための様々なアイデアに想像を巡らせてきたが、それらを現実にしてくれるのは日本とカナダの交友関係の強さだと信じたい。両国は民主主義国という共通点に始まり、貿易関係、地球環境への配慮、国家安全保障などあらゆる面で協力し合っている。ビジネスの観点で日本がカナダに信頼されているのはもちろんフード業界だけではない。日本からカナダへの輸出が一番多い自動車産業で2024年5月に大きな進展があった。
ホンダはカナダ・オンタリオ州にて電気自動車(EV)完成車工場とEV用バッテリー工場を建設することを発表。Hondaは旭化成と合弁会社「旭化成バッテリーセパレータ」を今年10月に設立し、EV向け電池の主要材料である「セパレータ(絶縁材)」の工場を新設する。稼働開始は2027年が目標。ホンダはゼロ・エミッション車のフル・バリューチェーンをカナダに構築するため総額150億カナダドルを投資しており、ホンダとしては過去最大規模の投資になり、またカナダ政府などの資金支援も受ける。この新事業は北米での(EV)需要増加に向けた供給体制強化に貢献する。
このニュースのわずか一ヶ月前には大手総合商社の双日と双日米国会社の連結子会社である鉄道車両総合メンテナンス会社の「Cad Railway Industries Ltd. 」がトロントと郊外を結ぶ「Metrolinx」の旅客車両など900両の保守・改修事業を受注したことを発表。民間企業が1つの公共機関から受注する車両数としては世界最大規模だ。来年から2047年まで作業が行われる。
日本の「安心・安全」の評判は一部の業界の特徴だけでなく、日本の産業全体に信頼される点である。日本食のように日本企業だから存在する効率さや品質の良さが評価し続ければそこで働きたい国民や移民も増えるかもしれない。どちらの業界にも存在する日本人らしさがカナダで愛し続けられることを願いたい。
トロントとバンクーバー以外での和食の未来予想図
トロントやバンクーバーでは近年ミシュランガイドに載る日本料理レストランが増えており、各都市のグルメ業界を賑わせている。もし日本食がカナダの他の都市も活気づけることができたらどうだろう?
例えば、プリンスエドワードアイランド州(PEI)では移民の4人に1人がフードサービス業界で就職している。だがローカルたちは農業や観光業などに興味がなくIターンが流行している。そこでシーフードが有名なPEIでもしミシュランレベルの和食レストランが成功すれば地域経済が変わるかも知れない。PEIには卒業生の多くがミシュラン星レストランで働いる有名料理専門学校「Culinary Institute Canada」がある。生徒らが和食を学べるようなコラボが発展すれば、和食文化の持続性にも期待できるだろう。
観光産業とホテル業界に力を入れているアルバータ州では連邦政府に頼らない独自の方法で移民を増やし人手不足を解消する意向を示している。アルバータは牛肉やバイソンが圧倒的に有名だが、根菜も実は特産品なのだ。ニンジンやカブ、ビーツなどの栽培がアルバータの天候に適しているそう。根菜をよく使う「和食」がアルバータの農業の価値をあげることを想像してみてはどうだろう。日本の農家のように作物をブランディングして農家を有名にすることもできる。そして需要が増えればカナダ中の和食レストランに作物を流通できる。食物繊維やミネラルが豊富な根菜が流行れば、国民の健康維持も夢ではない。
この想像の繋がりで和食のヘルシーさを広めたいのがノバスコシア州だ。2022年に「Nova Scotia Food and Beverage Strategy」という政策を発表し、この州は州民をより健康にすべく作物の自給自足と地産地消を促すほか、先住民や移民などのマイノリティー文化の料理の紹介に力を入れている。
しかし、外食産業とホテル業界への就職を希望する移民は去年の約2倍に上り、そのため移民プログラムが一旦停止されている。体に優しい和食で外食産業を潤し、人の健康を変えることができたら、医療で必要な移民の数も抑えることができるのではないだろうか?
おわりに
カナダですでに人々の生活に馴染みがある和食だが、グルテンが摂取できない人は醤油や味噌もグルテンフリーでないと食べられないという理由で和食を避ける人もいる。生魚の匂いや食感がダメな人もいれば、宗教的な理由または健康のためにビーガンやベジタリアンの人もいる。
いろんな人がいる国だからこそ巡り会えるチャレンジやチャンスがあり、それらは未来の日本食の可能性をさらに豊かにしてくれるのではないだろうか。日本で知られる伝統的な和食は芸術性や季節感にあふれるアートのような存在だが、カナダという環境で和食は健康促進や産業活性化など人々の人生の質を良くしてくれる力があると心から信じたい。