世界がアートで満たされていったなら 第39章
お金の使い道日本の分かれ道。新国立競技場ってSite Specific?
Site Specific(=サイトスペシフィック)とは、特定の(=Specific)環境(=Site)にあわせたアートやデザインの事である。トロントにいると東京の、東京らしさがあるたたずまいに僕たちは時に郷愁を感じる。
その東京、やれやれ大変な事になっている。最近のニュースやネット上で話題になっている新国立競技場建設にかかる費用の件。建設費が当初の1625億円から2520億円に膨らみ、大手新聞各紙もこぞって反対多数の記事を掲載。ちなみに前回のロンドンオリンピックのスタジアムは900億円程度だった事を思えば、ちょっとお高いんとちゃう?皆さんはどう思われますか?
日本はGNI世界第3位の経済大国である。しかし、日本の公債残高は年々増加の一途をたどり、平成26年度末には約780兆円になる見込みで、これは税収の約16年分で将来世代に大きな負担を残すことになる(財務省ホームページより)。負の遺産を将来世代に残さない為に様々な倹約政策が画策されており…その将来世代も少子化がますます進み、2031年度には高校卒業時の18歳人口が100万人を切ると言われている。国立大学の文系が消失の危機にあるようなこの状態で莫大な維持費を要する数十年後の不良債権に2520億円の投資。各界の著名人たちが、借金を抱えた国が実現できる計画とは到底思えないと反対を表明しているのも無理はない。
とは言っても、新国立競技場のコンペを勝ち抜いたザハ・ハディド氏は、素晴らしい建築家であると思う。昨年は東京のオペラシティーアートギャラリーでも彼女を紹介する個展があったが、その斬新でシームレスなデザインで知られる彼女、1980年の独立後「アンビルド」と呼ばれる、デザインしても実現しない不遇の10年間を過ごした。しかし、テクノロジーの進歩が彼女のデザイン実現化に一躍買う事となり、現在では世界各国で彼女の作品を見る事が出来るようになった。残念なのは、2520億円を捻出するお金が今の日本(いや世界)にはないことと、あのデザインって東京を象徴するものなのかというところ。お金をかけてデカけりゃいいの20世紀型バブル日本経済黄金時代は、ノスタルジアでしかない(それも日本的なのだけれど)。
日本はかつてないほどの建築デザイン黄金期を迎えていて、例えば第12回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展では、石上純也がカーボンファイバーを使用した極限までミニマルな表現をして金獅子賞(最高賞)を受賞している。ミニマルで予算を押さえた画期的な方法を編み出すスゲー奴らが日本にはいるはずなのだ。
東京の、そして日本のスペシフィックさを追求する事に新しい時代を切り開く鍵があり、それは東京オリンピック成功への鍵でもあるのだと思う。現在の日本の状況で一番スペシフィックだなと思うのは、震災からの復興中であることと、地方創生が活発である事のように思う。震災から半年後に初めて被災地を訪れた時、そのスケールの大きさに言葉を失った。復興を後押しし、世界に日本の文化力を打ち出していく事が、まさにオリンピックにふさわしい。宮大工を投入し、文化を継承し、オリンピック後には材料を復興住宅建築に再利用しよう…みたく思うお偉いさん、いないでしょうか。
Today’s his WORK
福島のアリス/ FUKUSHIMA NO ALICE
『FUKUSHIMA アリスの迷い込んだ不思議の国』を福島を漢字にすることによって、実は不思議でも何でもない場所にしようと考えてみるプロジェクト。「の」は、ローマ字だと「NO」となり、NO ALICEという子どもであるアリスの存在できる場所ではないという意味もある。
武谷大介 Daisuke Takeya
武谷大介は、トロントを拠点に活動するアーティスト。現代社会の妥当性を検証するプロセスを通じて、その隠された二面性を作品として表現。ペインティング、立体作品、インスタレーションなどその作品形態は多様で、国際的に多岐に渡る活動を展開。展覧会に、福島ビエンナーレ2014(’12)、新宿クリエイターズフェスタ2014、六本木アートナイト2013(’12)、Artanabata 織り姫フロジェクト(仙台)、女川アートシーズン(宮城)、くうちゅう美術館(名古屋)、MOCCA(トロント)、国際交流基金トロント日本文化センター、在カナダ日本国大使館、ニュイブロンシュ(トロント、’06、’07)、六本木ヒルズクラブ、アートフォーライフ展(森美術館)、京都アートセンター、ワグナー大学ギャラリー(NY)、SVAギャラリー(NY)、ソウルオークション(韓国)、在日本カナダ大使館内高円宮殿下記念ギャラリー、セゾンアートプログラム(東京)、メディアーツ逗子など多数。今年は、トロント市内クリストファーカッツギャラリーにて個展開催予定
大地プロジェクト共同代表、遠足プロジェクト代表。過去にアートバウンド大使 、日系文化会館内現代美術館理事、にほんごアートコンテスト実行委員長、JAVAリーダーなど。カナダでのレプレゼンテーションは、クリストファーカッツギャラリー(www.cuttsgallery.com)、 著書に「こどもの絵(一莖書房)」。www.daisuketakeya.com