世界経済の良いブロック、悪いブロック
TPP交渉の最後の山場がなかなか越えられない。アメリカ中間選挙までにどうにか形になるのだろうか?そうこうしているうちにウクライナを巡るロシアと欧米の激しい経済制裁合戦が世界経済に水を差す展開となっている。世界は今後、どのような体制の下で成長していくのだろうか?
私の大学の卒論は「東西貿易」に関了するものであった。が、ふと思ったのだが、「東西」が何を意味しているのか今の人はもしかすると知らないのではないだろうか?東西を分ける世界というのはこの場合、ヨーロッパの西ドイツ(当時)、オーストリア、イタリアあたりを境に西側と東側に分けていた。東側がいわゆる東欧と称する国々でその向こうにはソ連が威光を放っていた、そう、ベルリンの壁が壊され、ソ連邦が解体するまでは。
これは政治や主義主張に基づくブロック化ともいえる。それとは別に本当の意味での地域経済主義を固めていたことがある。それが1930年代の大不況の際の通貨によるブロックと称されているものである。イギリスポンド圏、フランスフラン圏、アメリカドル圏そして日本円圏が組成されていた。これはそれぞれの経済ブロックが他の通貨を持つ国からの影響を受けにくくするよう関税などで防御し、ブロック圏だけの経済圏を作り出すという動きであった。
自由貿易を良しとする現代の考え方からすれば当然、このブロック経済の仕組みは良いわけがなく、現代においてもあの当時のブロック経済というのは決して良く言われることはない。
その後、ドルが基軸通貨となり、アメリカは自由貿易を標榜したものの海外の安価な商品がなだれ込み、国内産業がボロボロになりストライキや暴動が起きている。特に日本との争いでは「日米貿易摩擦」として60年代の繊維、70年代の鉄鋼、80年代の電化製品と自動車、そしてバブル経済期には不動産を通じて日本がアメリカを買うという批判が渦巻いたのである。当時、日本車がひっくり返され、火をつけられたシーンは我々にとって衝撃であった。
あれから30年。いま、世界は新たなるブロック化がゆっくりと、しかし確実に形成されつつある。そもそもは二国間のFTA(自由貿易協定)を通じて企業がそのメリットに乗じることでグローバル化が進み、結果として地域内の貿易を自由にするという動きに特徴がある。
EU(欧州連合)は戦争を繰り返さないという意思を背景に作り上げた欧州石炭鉄鋼共同体がもともとであった。それが今では共通通貨を含む人とモノの自由な行き来を通じた巨大な地域経済圏を作り上げることに成功した。また、94年に発効した北米自由貿易協定はアメリカの自由貿易への自己主張とEU経済圏に対抗するという二つの意味合いがあったはずだ。
今、世を賑わせているTPPは必ずしも戦争への反省や地域間の自由貿易とは言い切れないむしろ、二国間のFTAが進み過ぎた結果、二国間よりも三国、それより多国間といった論調で経済統合を進め、グローバリゼーションを進めたほうがよいという強力で勧誘的な意味合いが強いようにみえる。なぜなればこれに乗じなければ不参加国は貿易上、不利になるからである。
タイとオーストラリアにはFTAがある。ならば日本はタイに自動車工場を作ればタイ製の日本車としてオーストラリアにFTAのメリットを最大限活用して輸出することができる。同じことはアメリカと韓国のFTAを利用し、アメリカから日本車を韓国に輸出することもできるのだ。こんな細工をし続けるのなら、地域間協定を結んでしまった方がはるかに楽でグローバルなのである。いや、地域間協定を結ばないと日本の産業空洞化を促進する結果ともなるのだ。
これが新たなる世界経済のブロック化である。つまり、1930年代に横行した関税引き上げによる植民地囲い込みのようなブロック化とは全く違う。どこの国も貿易の壁の低さを競いあうが、低さがまちまちで企業がそれをすり抜け、壁がより低い所をめがけて攻め入っていることから後追いで国家同士がブロック化を形成しているとも言えよう。
企業が現地化を進めていることは企業の国籍も分からなくなってきた。企業の所有者である株主もグローバル化し続けているのだ。例えばサムスンという韓国最大企業は5割以上の株は外国が握っている。つまり、サムソンはどこの会社といえば韓国企業ではないという見方もあるのだ。
ところで、最近、この壁を低くする「良いブロック化」に対して「悪いブロック化」が再び顕在化してきた。ロシアである。ウクライナを巡る欧米とロシアの争いは双方の経済制裁の応酬と化してしまった。ヨーロッパ諸国はロシアに工業製品や畜産農産物を輸出できない。ロシア側にも厳しい制約がかかっている。ロシアが生き残るために中国からの安定供給を受けるのは目に見えている。その上、ロシアと中国が中心となり、BRICS諸国で開発銀行なるものを形成し、いわゆるドル外しを企てている。これはまさにグローバル化の中で「悪いブロック化」が形成されつつあるといえよう。
ここで気がつくかもしれないが、経済のブロック化は結局、冒頭のとおり、政治や主義主張を通じた国家間関係によって起きているともいえる。ウクライナ問題に端を発した政治システムの相違が世界経済を二分しようとしているとしたらそれは遺憾以外の何物でもない。グローバル社会の中のブロック化を推し進めることが日本にとって重要な意味があることは言うまでもない。
了