祝!オープン1周年を迎えた、RYUSヌードル オーナーシェフ・高橋さんが振り返るRYUSヌードルのこの1年
去る6月28日に、めでたく開店から1周年を迎えたRYUSヌードル。同店は麺やスープ、チャーシューといったベースの味にしっかりとこだわりながら、AAAランクの極上牛肉を使用したローストビーフのらーめんや辛味噌マーボータン麺をはじめとした斬新な創作メニューを取り揃えているらーめん店で、近隣施設へと通う人々を中心に、多くのリピーターが通う人気店だ。この1周年という節目に際し、オーナーシェフの高橋隆一郎さんに同店開店までの道のり、そしてこの1年間を振り返ってもらった。
元々は飲食関係のコンサルタントを目指して、大学卒業後から飲食業界へと携わっていた高橋さん。「日本では店舗運営やフランチャイズでの店舗拡大といった事業を中心にやっていました。フランチャイズの立ち上げやトレーナーとしての指導、多店舗管理をしたり。でも、まずは現場を知らなければと、最初の頃にはキッチンに入って、このまま職人になるのではないかと思うほど、現場にどっぷりと浸かっていました」。その後、自分自身のライフプランを描いた際に、35歳での独立を目標に据える。そして5年半勤めていた会社を退職して、海外に一度出てみようとカナダへの渡航を決意する。「僕が日本にいた頃は、狂牛病やら鳥インフルエンザが直撃して、飲食業界に大きな影響があった時期でした。自分で事業を起こす時に、できる限りのリスクを軽減する意味でも、自分自身が海外ともある程度話せるような環境にしておくことがプラスになるだろうと考えたのです」。そして、29歳でバンクーバーに渡航。1年を勉強に、その後4年半を飲食業界でのマネジメント業務に費やし、そこで出会った知人経由でトロントに店を出すこととなった。「他地域での出店のお誘いもあったのですが、トロントにはバンクーバーからの知人が多くいたことやバンクーバーの2倍のマーケットがあること、そして、何よりも独立するにあたって新たな土地で一から始めたいという思いがトロントでの出店へと繋がりました」。
高橋さんはこれまで日本、そしてバンクーバーで中華、焼肉、焼き鳥、居酒屋、ファストフード、らーめんなど、様々な業態の飲食店のマネジメントに関わってきたが、その中でも自身の店としてらーめん店をオープンさせようと思ったのは、らーめんの持つ、幅広い応用力からだという。「らーめんって麺、スープ、うわものの具材があれば、あとは何でもあり的な所があって、そこにどのような技術でもアイデアでも組み込めるのですよね。僕は、専門調理の修行こそ少ないですが、20歳から15年もの間様々な業態での培った経験の集大成をひとつのどんぶりとしてお客様に提供したい!その思いかららーめんを選びました。もちろんプレッシャーもありますが、やりがいと新たなものを創る楽しさがらーめんにはあると感じています」。高橋さんのこれまでの歩みが、RYUSの独創的ならーめんに表れ、それが多くの人々を惹き付ける大きな要因となっているのだろう。
そうしてトロントに入る前には、パートナーが店主を務める日本の有名らーめん店を見学するために一時帰国。仕込みを手伝ったりと、らーめん作りにおける一連の作業のレクチャーを受けて、満を持してトロントへと入る。そしてすぐに、会社設立、メニュー製作や物件探し、会社登記など、慌ただしい日々が始まった。短期で借りていたシェアハウスのベースメントでメニュー製作を行い、その場でメニューの撮影。物件選びの交渉が長引き、開店が延期となってしまうのではないかという場面もあったりと、それまでマネジメント側として携わった数多くの新店立ち上げでも経験したことのないことばかりだったという。
様々な“初めて”を経て迎えた昨年6月のオープン。オープン直後の話を訊いてみると、「かなり厳しかったですね。広告もせずにスタートして、その1ヶ月後に宣伝を始めるまで、隣店のパティオにはお客さまがいるのにうちにはいないといった状況も続きました」とと、少し苦笑いを浮かべながら語った高橋さん。さらに、今年の冬は、大停電や例年以上の厳しい冷え込みで、想定していた売り上げを大幅に下回ったことも話してくれた。「冬のトロントはある程度の売り上げが見込めると同業者仲間から聞いていたのですが、今年の冬はとんでもない例外だったようですね」。
だが、この1年の間に感じたものは苦労だけではない。「今まで誰かの下で働いていた自分が、独立したことで一から十まで、全て自分でやったものをお客さまに提供するということは、ある意味ですごく緊張する部分です。でも、お客さまに“おいしかったよ”と言われると、やはり嬉しいのですよね。従業員たちに対しても、以前はマネージャーとして雇用者側と他の従業員の中間に入る立場だったのですが、自分が雇用者になったことで、働いている子たちが“ここで働いてよかった”と、日本に帰国した後も近況報告をしてくれたりすることに、今までよりも大きな嬉しさを感じています」。
1周年を迎えた今、その率直な気持ちを訊いてみると、「なんとか1年できたなという感じですよ。今年の厳しい冬があっても1年間継続することができて、従業員や関係者に感謝しています」と話す高橋さん。「これまでは調理にかかりきりだったのですが、だんだんと人材も育ってきましたし、この1年で経験したことを踏まえて、もっともっと自分たちがやっていることを知ってもらえるよう、外に打ち出していきたいですね。それが広がっていくことで、自然と結果はついてくるのかなと思います。それと、RYUSのらーめんは基本的にはある程度ローカライズをしていますが、日本人が食べておいしくないものは出したくないという思いがあります。日本人とローカルの人の両方が“おいしい”と感じるものは必ずあるはずで、日本人のお客さまからも良い評価をもらえることが多いので、もっともっと日本人の人にも食べてもらいたいですね」と高橋さんは同店の次へのステップを確実に定めている。日本人にもローカルの人々にも美味しいらーめんを提供する同店が、2年目を迎えさらに賑わっていくことは必至だろう。