カナダは安全な国か? 安全神話の亀裂と、国境を越える犯罪|特集「カナダは安全な国か? 安全神話の亀裂と、国境を越える犯罪」
ドラッグ・恐喝・極右・銃・マネロン―カナダ危機の現在地
カナダは「安全な国」というイメージを保ちながら、その足元で複合的な危機が静かに深まっている。本特集は、国内で製造されたフェンタニルやメタンフェタミンが海外へ流出し、遠くオセアニアの社会問題にまで波及している現実から始まる。さらに、恐喝や暗殺を重ねるインド系犯罪組織の浸透、国際カルテルのテロ指定をめぐる法執行の変化、極右ナショナリズムの台頭、実効性が問われる銃規制、そして仮想通貨を経由したマネーロンダリングの闇まで、脅威は多層化している。事件は一部の「遠い話」ではない。国境、コミュニティー、日常の隙間を通って、危険は身近に入り込む。だからこそ、危険や社会問題を「知識」として持っておくことが、防げるリスクを増やす。今、何が起きているのか。どこに構造的な弱点があるのか。具体的なケースを通して事実を積み上げ、備えへとつながる視点を提示する。
1. カナダで製造されるドラッグが及ぼす国際問題
カナダで起きていた巨大規模のドラッグ製造
近年、カナダ国内での違法ドラッグ製造、そして流通が問題になっている。2024年10月、RCMP(カナダ王立騎馬警察)はブリティッシュコロンビア州フォークランドにてカナダ最大の「ドラッグ・スーパーラボ」を摘発した。このドラッグ製造所ではフェンタニルとメタンフェタミン、コカインが作られ、国内に限らず海外にも流通されていた。押収されたドラッグは、致死量で9,550万回分、カナダドルで4億8500万ドルにも及んだ。カナダの人口が4,200万人。その2倍の数の量が作られていたのだ。ドラッグのほかにも89丁の銃器やいくつかの爆弾、防弾チョッキ、現金50万ドルなども見つかった。
密輸先は遠く離れた国々
この「スーパーラボ」摘発に至る前、「CBC」の捜査でカナダ産のドラッグが犯罪組織によってオーストラリアで売られていたことが判明。オーストラリアの方が高い値で売れていたからだ。
同じ状況はニュージーランドでも確認されていた。
2023年、ニュージーランドで押収されたカナダからのメタンフェタミンの量は800キログラムで、どの国から密輸された量よりも多かった。
カナダでは1キログラムにつき1万ドルで売れる覚醒剤はニュージーランドでは現在1キログラム30万ドルの値がつくため、今でも国際的な犯罪組織にとっては最適の売場となっている。
カナダがルーツになっている、ニュージーランドの社会問題
カナダとニュージーランドの麻薬問題で今まで一番大きくニュースで取り上げられたのは2025年秋、「CBC」の報道番組「W5」の取材だった。メタンフェタミン問題が蔓延し始めた2023年、その3月に上司からもらったビール缶を飲んだ21歳のニュージーランド人男性が死亡する事件があった。そのビール缶の中身は液体状のメタンフェタミンだった。この事件の捜査で明らかになったのは700キログラムの液体状メタンフェタミンの在庫と、インドやアメリカ、カナダなどに密輸ルートがある組織的犯罪の存在だった。
カナダ国内でも悪化する麻薬密輸
カナダで製造される麻薬は密輸先に関わらず問題になっている。国内で見つかっている場所は様々だ。
昨年末にはアルバータ州北部で運転中に検問を受けた運転手と同乗者がコカインやメタンフェタミンを売るために大量所持していたため現行犯逮捕された。ノバスコシア州でもコカイン40キログラムとフェンタニルである疑いが高い偽物のオキシコドン錠剤1万錠が押収された。今年に入ると、オンタリオ州立警察は42キログラムのヘロインが国境を越えてカナダに入ってくるところを阻止した。その価値はおよそ700万ドルだった。
これからは麻薬密輸のルートや製造場所を徹底的にマークし摘発することが連邦政府の目標になっている。
2. カナダ国民の安全を脅かすインド系犯罪組織の存在
ブリティッシュ・コロンビア州で恐れられているテロ組織

「Bishnoi Gang」とは?


シーク教徒が狙われる理由

「インド人はヒンドゥー教徒」というスローガンで権力を高めてきたモディ首相が国のトップに立った2014年以来、ヒンドゥー至上主義という過激な思想が広まるようになり、シク教徒やムスリム教徒、キリスト教徒などが国内外で襲撃される事件が相次ぐようになった。
カナダでは、シーク教徒の多いパンジャーブ州をインドから独立させることを求めるカリスタン運動支持者がビシュノイ・ギャングによる暴力の標的になっている。
カナダとインドの間に出来た溝


ビシュノイ・ギャングがカナダ全土で注目されはじめたのは2023年6月。シーク教指導者ハーディープ・シン・ニジャール氏がBC州サレーで射殺された事件が起きてからだ。
ニジャール氏はカリスタン運動の指導者の一人で、インド政府からは「テロリスト」と呼ばれていた。事件に対して、カナダ側はインドの工作員が関与していると疑いをかけたことから両国は互いに外交トップを追放しあうという状況に。
翌年の5月になってやっと殺人の容疑者ら4人がカナダで逮捕された。彼らは20代で、短期ビザや就学ビザでカナダに入国し生活していた。
これから注目される外交関係

3. カナダ政府、カルテル7組をテロリスト組織として指定
テロ組織「指定」はなぜカナダにとって有利なのか


テロ組織と指定することで、どこの国のどのような犯罪者であってもカナダの法律で起訴することができるのだ。
アメリカとの連携、その背景にある人物の存在

ライアン・ウェディング容疑者はスノーボード競技の元オリンピック選手。彼は現在シナロア・カルテルと関わっており、殺人のほか毎年60トンのコカインをコロンビアやメキシコ、南カリフォルニア、カナダに動かしている麻薬密輸容疑で国際指名手配され、1月23日に逮捕された。
知らざる場所から操られる犯罪の波

ウェディングの弁護士だったオンタリオ州のディーパック・パラドカーは、目撃者と殺害すれば起訴を取り消しに出来ると仕掛けた。ウェディングは目撃者を探し出すために仲間を通じてカナダの犯罪ブロガーに目撃者とその妻の写真投稿することを要求。それを引き受けたブロガーはウェディングから多額のお金をもらっていた。目撃者を殺害したヒットマン含め、合計10人が逮捕されている。
4. 極右ナショナリズムの台頭
名前だけでは想像のつかない「Active Clubs」とは

近所のナショナリスト

ソーシャルメディアやポッドキャストなどで多くの若い男性に勧誘のメッセージを送り続けている彼らは、ごく普通のスポーツジムなどで集まり、人種戦争に備えるべく体を鍛えている。一見友人らの集まりのように見えるため、ジムの経営者は「CBC」の記者が取材に訪れるまで彼らの実態を知らなかったほどだ。
ジムの他にも、子供らの集まるような公共の場所でも集会は開かれているそうだ。
「自己啓発」に見せかけた「ヘイト」

カナダとアメリカではヘイトクライムは10年ほど前から増加傾向にある。白人至上主義者や移民排斥主義者、ホロコースト否定論者などは何十年も存在しているが、多文化主義のカナダでは未だにその事実を認める人は少ないと専門家は懸念している。そこに銃器や軍事戦術が加われば、カナダでも大事件になりかねない。
5. 成功が問われるカナダの銃規制
連邦政府が銃器を買い取る試み

「Firearms buyback program」という任意の取り組みは、今年10月30日に「Amnesty Period」(猶予期間)が終わる前に銃器を手放してもらおうという企画。昨年秋、個人で拳銃などを所有している人たちに対し、買い取り企画がノバスコシア州ケープ・ブレトンにて試験導入された。しかし6週間のあいだに参加した人はわずか16人で、手放された銃器の数は25丁だった。その数字は連邦政府の予想200丁を遥かに下回った。
事業からは5年間で12,000丁もの拳銃を買い取ったが、全体的に「成功」とは言えない結果になっている。
公共安全大臣の問題発言

昨年9月、公共安全大臣のギャリー・アナンダサンガリー氏が知り合いとの会話で「銃を買い取ってもらう必要はない、地域警察にそのような資金はない」と発言。録音を暴露されたこの会話はたちまち炎上した。
大臣さえも悲観的なこの企画の試験導入は、結果を数字で見ると確かに7億ドルを費やすべきものなのかが問われるほど成功率が低かった。それでも次はケベック州で成功させようとしている連邦政府の姿勢は今も大きく批判されている。
連邦政府の目標と課題

カナダの銃問題のルーツはアメリカ

トランプ米国大統領はカナダからアメリカに渡る不法移民やフェンタニルに対して批判してきたが、アメリカからの銃がカナダ人の安全を脅かしていることは認めていない。
カナダが勧める銃器買い取り企画だけでは明らかに解決しきれない問題のようだが、それを踏まえ連邦政府がこれからどのように国民を守っていくのかが注目されている。
6. 仮想通貨とマネーロンダリングの闇
マネーロンダリングとの戦いは始まったばかり


現在、カナダでは暗号資産、または仮想通貨を利用したマネーロンダリングの事件が多発している。しかしカナダ警察が仮想通貨取引所の閉鎖に初めて成功したのは2025年9月で、ごく最近の出来事なのだ。その摘発された「TradeOgre」から差し押さえられた暗号資産の額は5600万ドル。これまで国で押収した暗号資産では史上最大額だった。「TradeOgre」に対しての捜査が始まったきっかけはユーロポール(欧州刑事警察機構)からRCMPへの情報提供だった。仮想通貨をめぐる事件で警察の手柄が大きく報道されたのはこの一件だったが、それを超える巨大規模で不可解な事件は2018年に起きていた。
2億5000万ドルが消えた「QuadrigaCX」事件

顧客によって暴かれたCEOの真実

その変化を予測していたのか、コッテン氏は2016年から2018年の間、何百万ドルもの顧客資産を個人アカウントへ移し、生活費へ回していた。顧客資産をギャンブルに利用し、損失を埋めようとしていたことも発覚した。
残る謎

事件後、彼の死体はカナダのハリファックスに戻され埋葬されたそうだが、RCMPからの正式な発表がないため、事実かどうかははっきりしていない。この事件の真相を探る記者や元顧客の間では、「彼はまだどこかで生きているのではないか」とささやかれている。
マネーロンダリング問題の根源

現在捜査の的となっているのはカナダで法人化された会社とその創業者たち。資金洗浄やテロ資金供与というと国外の組織に目を向けがちだが、ドラッグ密輸の疑いで国際指名手配され、逮捕されたライアン・ウェディングや「QuadrigaCX」創業者ジェラルド・コッテンなど犯罪の指揮者がカナダ出身である場合が多いのだ。
連邦政府の対処方法


2024年度には監視を怠ったトロント・ドミニオン銀行(「TD Bank」)が有罪とみなされ、総額31億ドルものペナルティを払うことになった。その事件が起きるまで、いかにもマネーロンダリングが見過ごされてきた犯罪だということがよく分かる。2026年度からは「Financial Crimes Agency」、つまり金融犯罪対策庁が設立されることもあり、今まで足りていなかった規制と取り締まりに期待がかかっている。
おわりに
このごろ世界中で暗いニュースばかりが続いていて、残念ながらカナダもその渦から逃れられないでいる。移民大国であっても反移民の人は存在し、ヘイトクライムも起きている。カナダ人の性格は優しいと有名でも、エゴに負けてしまう人や凶悪な犯罪者もいる。このようなニューストピックは読む人を謙虚にしてくれる。カナダも、どの国もパーフェクトではない、と。















