トロントアイランド空港発!人気急上昇のポーター航空(Porter Airlines)に迫る|特集「トロント観光・都会のオアシス トロントアイランド (Toronto Islands)」|#数字で見るシリーズ
トロントアイランドやハーバーフロントを訪れた時に見える飛行機の離着陸。カナダの主要航空会社といえば、エアカナダやウエストジェットが挙がるだろう。しかしここ最近、国内だけでなく国際的にも存在感を高めてきているのがポーター航空だ。トロントアイランドにあるビジー・ビショップ・トロント・シティ空港を主要ハブとし、北米地域に路線を伸ばし続ける新興航空会社である同社。なぜ人気が高く、高く評価されているのか。その謎を数字から迫っていく。
All Photos ©Porter Airlines Inc.
#01. 2006年創業の「アップスタート」会社
最近高評価を受けるポーター航空だが、実はまだ18年ほどしか歴史がない新しい会社だ。
2005年春にシティセンター航空として設立され、翌年2月にポーター航空として正式に開業。最初の就航地はオタワで、同年10月下旬に定期便の運行が始まった。その後モントリオール線もスタートするなど急成長を続けた。主要ハブ空港はビリー・ビショップ・トロント・シティ空港(YTZ)で、2007年6月には米国運輸省から運行許可を正式に取得し、2008年3月末に米国初の就航地としてニューヨークに機体を飛ばした。
開業に伴いいくつか議論も巻き起こっていた。というのは、市街地からYTZまでの橋の建設が中止されて同社がトロント市を訴えたり、同社がYTZに入っていた競合他社のエアカナダJazzを締め出したりという波乱の末に開業したからだ。しかし18年ほどしか歴史がない中でも、さまざまな国際的評価基準でエアカナダ(1937年に前身企業創業)やウエストジェット(1994年創業)などを上回る人気とサービスを誇っているのは並大抵のことではない。その勢いのすごさから、業界では「スタートアップ」ではなく「アップスタート(新興企業)」と呼ばれている。
#02. 世界でも星4つの高評価
航空業界には、各社の質の高さを評価する1つの国際的な指標がある。イギリスの航空業界調査・格付け会社「スカイトラックス」が世界の航空会社を評価づけした「ワールド・エアライン・スターレーティング・プログラム」によると、ポーター航空は星4つとの高評価を得た。これは1999年に始まった評価システムで、航空会社の質の世界的ベンチマークとして知られている。星は1~5まであり、例えば日本のJALやANAは星5つを獲得している。それに次ぐ星4つを獲得したポーター航空のサービスの質がいかに優れているかは言うまでもないだろう。
ポーター航空は、空港や機内で提供されるモノ(アメニティ、機内食、清潔さなど)やスタッフサービスの質という点から星4つに認定された。スカイトラックス社は「機内の快適さは良好で、機体は清潔でよく整備されている。足元の広さも快適であり、ビールやワイン、スナックを含む無料のバーサービスまである」などと高く評価した。ちなみにエアカナダも星4つを獲得している。
星4つ★★★★(主な会社)
- ポーター航空(カナダ)→ 機内食、機内の清潔さ、スタッフのサービスなど高評価
- エアカナダ(カナダ)
- エールフランス(フランス)
- サウスウエスト航空(アメリカ)
- エミレーツ航空(アラブ首長国連邦)
星5つ★★★★★(主な会社)
- JAL(日本)
- ANA(日本)
- シンガポール航空(シンガポール)
- 大韓航空(韓国)
- エバー航空(台湾)
#03. 地域に根ざす航空会社評価、北米No.1
星付け評価とは別で、スカイトラックス社による「世界のベスト航空会社~地域部門~」にもランクインしている。
毎年発表されているこのランキングでは、国内線や国際線を約6時間以内で運行するフルサービスの航空会社を「地域航空会社」と定めている。北米に路線を持つポーター航空は、まさにこの地域部門に当てはまるわけだが、その中で世界8位に輝いた。さらに北米部門においては堂々の1位を獲得。まさにカナダのみならず北米、さらには世界でホットな注目を集める会社なのである。
ポーター航空は、ガラス食器で提供される無料の酒やお菓子を提供するだけにとどまらず、全ての客に無料のストリーミングWi-Fiを提供している。他の航空会社とは一線を画したサービスを用意していることが高く評価されている。2006年に開業と比較的新しい航空会社ではあるが、過去1年の間に多数の新規路線と20の新規就航都市を発表したり、2000人以上の新メンバーを採用したりと急成長を見せており、北米No.1の称号を与えられるのにも納得だ。
#04. ハブ空港は市中心から3km
ポーター航空が主なハブ空港とするビリー・ビショップ・トロント・シティ空港(YTZ)だが、トロント近郊に住む市民からするとそのアクセスのしやすさというのも1つの利点だ。YTZはトロントアイランド内に位置し、トロントのダウンタウン中心地からたったの3kmしか離れていない。そのため、アクセス方法は自家用車やバスに留まらず、自転車という方法までさまざまだ。
シャトルバスは、毎日15分間隔でユニオン駅から運行しおよそ25分で到着する。また無料フェリーに乗るという手もある(車両も搭乗する場合は有料)。90秒だけの搭乗で、都市の景色を楽しみながら移動できる楽しさもある。さらに本土と空港を繋ぐ歩行者用トンネルもあり、エレベーターで地下へと潜り、空港チェックインカウンターまで行くこともできる。自転車を好む人は、マーティン・グッドマン・トレイルに沿って自転車を12分走らせれば空港に行くこともできる。
一方で利用客の多いピアソン国際空港は市内から23kmの距離にあり、UPエクスプレスに乗ってそれなりの費用を払いユニオン駅から25分でアクセスするか、自家用車、TTCバスなどに乗って移動するほかない。アクセス方法が多様かつ利便性の高い距離にあるYTZは、利用客にとって魅力的に映るだろう。
#05. 1年の乗客者数は500万人以上
同社によると1年の乗客数は500万人を超え、さらにその数は年々増えているという。就航から7年後の2013年11月には乗客者数1000万人を達成し、小型航空会社としては急激な成長を遂げていることがわかる。
ちなみにエアカナダは1年の乗客者数が約4500万人、ウエストジェットは約3000万人とかなり多い。しかしエアカナダは約200もの目的地を世界中に持ち、さらには座席数が300~400ほどの大きな機体を有している。ウエストジェットに関しても100以上の地域へ乗客を運び、機体もポーター航空よりは大きく座席数は300を超える。
そのような事情を考えると、座席が約70〜140席しかない機体で運行するポーター航空の乗客数が他社より少ないのは当然と言えば当然の結果だ。
#06.北米35地域を結ぶ路線
北米で路線拡大を続けるポーター航空は、現在カナダに21路線、アメリカに13路線、そしてメキシコに1路線の合計35地域を結ぶ路線を持っている。
カナダ国内ではトロントを始めハリファックスやモントリオール、カルガリーなど主要都市は全て網羅し、サンダーベイやサドバリー(いずれもオンタリオ州)といった地域にも線を持っているのは地域に根ざす航空会社ならではだろう。
アメリカでもボストン、ラスベガス、ニューヨーク、マイアミのような主要都市とカナダを結ぶ就航便があり、双方の国の市民が互いに行きやすいルートを作っている。
路線は毎年のように拡大し続けているが、実はバンクーバーとトロントを結ぶ路線がスタートしたのは2023年のこと。トロントとエドモントンを結ぶ便も同年スタートし、カナダ西部への就航はまだ始まったばかりだ。
同社は国内外の都市と都市を結び、乗客のニーズに合ったルートをさらに拡大させていくとしている。
#07. 騒音76%削減
CO2排出量35%削減する機体
環境に配慮した取り組みに力を入れていることも紹介したい。同社が持つ機体はE195-E2とDash 8-400という比較的小型のもの2つだ。
E195-E2は最新の航空機デザインで2つのジェットエンジンを搭載した機体だが、騒音とCO2排出量を抑えることに特徴がある。騒音に関してはかなり厳しい国際基準をクリアし、旧世代のボディよりも最大76%騒音を抑えることができるという。また年間16万5000トンのCO2排出量を削減するとされ、これは車で通勤・通学していた約30万人の人が自転車を使うようになるのと同じだけの効果があるという。E2という機体自体が環境に優しく、小型飛行機の中で最も燃料消費量が少ないことで知られている。
小型でプロペラを駆動させるDash 8-400もCO2排出量削減と燃費の良さ、騒音問題の軽減を可能とする。ターボファンエンジンを使う地域間輸送用旅客機と比べCO2排出量が35%少なく、騒音が人体に及ぼす影響が最小限になるデザインにもなっている。機内が静かなだけではなく、離陸時の機外騒音はジェット機の約半分にまで抑えられ、環境と乗客の双方に配慮した機体だ。
#08. 地元11社による無料の機内食&ドリンク
ポーター航空の人気の秘訣は、無料の酒類やジュース提供と質の高い機内食にあると言っても過言ではない。カナダ国内の店や企業とパートナーシップを結び、その数は11社にのぼる。
まず飲み物について、地元の店と提携しカナダのクラフトビールやコーヒーなど数種類を全て無料で提供する(一部予約時のプランによる)。また、2.5時間を超えるフライトでは新鮮な機内食も用意されている。地元の食材店や飲食店の料理を特別にセレクトしているのが特徴だ。例えばCheese Boutiqueというトロントのチーズ専門店によるフルーツとチーズプレートが朝食に出てきたり、ヘルシーかつ質にもこだわって機内食を提供する。
機内食は予約時にプランを選ぶ必要がある。「ポータークラシック」と「ポーターリザーブ」という2つのプランがあり、リザーブは機内食が含まれたプランだ。クラシック購入者も、機内食を追加購入することができる。
機内食や機内ドリンク(酒、ジュース、コーヒー)
例)
- コーヒー@モントリオールのコーヒー店
- お茶@トロントの茶卸業者
- 朝食クロワッサン@トロントのチーズ専門店などなど
#09. 2席×2席の配置 足元も広々
大手航空会社は、基本的に席が3つ並んだ座席を持っていることが多い。しかしポーター航空は中央席が生まれてしまう座席配置を採用せず、全ての機体において座席が2席×2席になるようにしている。これは高く評価されていて、星4つの評価を国際的にも受けた理由の1つでもある。
また座席にはこだわりを持っていて、乗客が余裕を持って快適なフライトを楽しめるように足元のスペースを広くしたプランも用意している。
一般的なエコノミー席は30インチ(76.2cm)だが、「ポータークラシックストレッチシート」(E195-E2機でのみ可能)を予約すると34インチ(86.36cm)、「ポーターリザーブ」で予約すると36センチ(91.44cm)というかなり広々とした座席に座ることができる。それぞれ座席数に限りはあるが、追加料金を支払うことで快適度が上がるのであれば価値はある。
また、E195-E2機の座席には充電用コンセントもあれば高速Wi-Fiの利用もできる。乗客にとっては嬉しいこと尽くめだ。
#10. コードシェア提携は10社
他社と提携することで、さらなる路線拡大にも乗り出している。いわゆるコードシェアというものだが、これにより同社の利用客はポーター航空のネットワークを超えた世界へと旅立つことが可能になる。
現在同社が提携を結んでいるのは、カタール航空やデルタ航空、カナダのジェットブルーなど10社。コードシェアのパートナー航空会社数も年々増えていて、2023年末にはアラスカ航空との提携を発表したばかりだ。今年に入ってからさらにその数を増やすと同社はアナウンスしていて、より多くの利用客を呼び込むことにつながると考えられる。
#11. 2年間の従業員増加率71%
新興企業らしく従業員数の増加もめざましいものがある。LinkedInのデータによると、2024年7月1日現在の従業員数は2054人。1854人だった6ヶ月前より10%、そして1621人だった1年前よりも26%増加している。さらに驚きなのは、この2年間で従業員数が71%も増えていることだ。1197人だった2年前と比べ、実に800人程度のメンバーが新しく会社に加わっている。これは会社が急スピードで成長しているからこその結果であり、他のどの航空会社よりも著しい発展を遂げていると言えるだろう。
ちなみにエアカナダは現在2万1858人の従業員がいて、2年間では19%の増加、ウエストジェットは現在約8000人の従業員がいて2年間で12%増加した。ポーター航空の成長率がどれほどすごいか明らかだ。また、LinkedInのデータはあくまでLinkedInに登録している人のデータをもとにしているため、実際はこれよりも多い人が勤務していると考えられる。事実、ポーター航空のサイトでは現在3600人のスタッフが働いていると記載されている。
#12. $1につき最大7ポイント貯まる制度
ポーター航空の魅力の1つに、VIPorter(VIポーター)というポイント制度が挙げられるだろう。同社は「カナダのどの航空会社よりも早くポイントを獲得することができる」と自信を持ってこのポイント制度を紹介している。
フライトを予約すると利用金額に応じてVIポーターポイントが貯まる仕組みだ。ここまでは他の航空会社も展開しているマイレージ制度と同じだが、ポーター航空がすごいのは利用金額1ドルごとに貯まるポイント数が高いことだ。フライトなど購入した全ての商品に対してポイントが加算され(税金および仲介手数料は除く)、ポイント加算割合はVIポーターのステータスによって異なる。例えばベーシックなVIポーターメンバーは、1ドルごとに5VIポーターポイントを獲得し、パスポートメンバーやベンチャーメンバーは1ドルにつき6ポイント、アセントメンバーとファーストメンバーは7ポイントが貯まる。1ドルごとに1~2ポイント貯まるエアカナダのアエロプランなど他社に比べると、ポイントが貯まりやすいと言える。貯まったポイントは100VIポーターポイントが1ドルという計算にはなるものの、次のフライト予約時に使えたりと利用客からするとかなり得だろう。
#13. カナダ国内のシェア率10%に増加
ポーター航空の歴史でも少し触れたように、エアカナダとポーター航空の因縁は深い。さらに昨今のポーター航空の急成長劇は、カナダにおけるエアカナダの存在感を少しずつ薄れさせるほどだ。
ザ・グローブ・アンド・メールはカナダ監督総局(OAG)とナショナル・バンク・ファイナンシャルのデータとして、カナダの航空会社国内シェア率を紹介している(2024年6月30日付)。これによると、2019年はエアカナダが48%と圧倒的1位。ポーター航空は4%で、その差がはっきりしていた。しかし今年に入ってからエアカナダは7%減の41%、ポーター航空は5年前の2.5倍の10%のシェア率へと変わった。ポーター航空の追い上げ劇が始まることを予想させるかのような結果だ。
さまざまな画期的サービスで他社を圧倒してきたポーター航空だが、例えばVIPorter(VIポーター)とエアカナダのアエロプランを連結させる「VIポーターロイヤルティプログラム」を導入したこともある。エアカナダの客が貯めたマイルをVIポーターポイントに変えて同社のチケットなどを購入することができるようにする制度は、エアカナダの顧客をターゲットに誘い込みを目的にしたのは明らかだ。また、同社は現在エンブラエル社のE195-E2という機体を50機保有するが、実は2022年1月までその数字はゼロだった。これを2027年までに約80まで増やすことを目指していて、そうするとエアカナダと空港や乗客の奪い合いに発展するのではないかと考えられている。
#14. チェックイン待ち時間
エアカナダの1/2
ポーター航空は、カナダ第1位の航空会社であるエアカナダと比べて何が優れているのか。まず空港待ち時間。他の航空会社同様、ポーター航空のチェックインの方法は出発から24時間前に始まるウェブチェックインか出発の2時間前から始まる空港でのチェックインの2つの方法がある。
空港でする場合、ピアソン国際空港のサイトによると時間帯にもよるが通常ポーター航空の待ち時間は4分。一方でエアカナダの待ち時間は国内線が10分、アメリカ行きの便は8分と、ポーター航空の倍以上はかかることもあるという。これは乗客数の違いから、エアカナダでは時間がかかってしまうと考えられる。
また、遅延率というのも気になるところ。ポーター航空では先月15分以上遅延した飛行機の割合は28%で、遅延の平均時間は34分だった(AIRPORTIAのデータによる)。エアカナダではどうかというと遅延率は33%で平均遅延時間は40分だった。大きな差とまではいかないものの、ポーター航空は大手航空よりもフライトの利便性が高いと言って良いのではないだろうか。
#15. 今夏 北米27都市へ
1日最大176便運行
今年の夏、ポーター航空は過去最大級のスケジュールで運行することを発表した。北米の27都市へ1日最大176便を運行するとしており、これまでで最も充実した夏期スケジュールを提供すると約束している。
8月までに、トロント・ピアソン国際空港からカナダまたはアメリカの16都市へ毎日最大74便を運行するカナダ3位の航空会社になると同社は発表している。
トロント・ピアソン国際空港発のフライトは全て132席の機体で、余裕を持った座席スペースを確保。一方ビリー・ビショップ・トロント・シティ空港発の機体は78席と小型だが、その分ゆとりある空間を提供する。
ピアソンからはフロリダ、ラスベガス、カナダ・ビクトリアなどの便が出ていて、トロント・シティからはシカゴ、ワシントンD.C.などの人気都市への直行便が用意されている。